第1話 クロリアの森の家族
この世界は、大きく分けて魔族と人間という二つの種族に分かれ、互いに対立していた。そんな世界で、魔族と人間の間に生まれた少年ジンと、少女マリアの物語が始まる。
魔族と人間の血を引くジンとマリアは、魔族の領域の端にあるクロリアの森で暮らしていた。クロリアの森には危険な魔物がいると噂されていたが、実際はそんなことはない。せいぜい、少し凶暴な熊がいる程度だった。
この森で暮らすジンたちの家族は、いつも仲が良かった。魔族の父クロードは昼に狩りへ出かけ、人間の母ラミリスはクロードが獲ってきた動物を料理するなど家事をこなしていた。
ある日、ジンはクロードから「今日は一緒に狩りに行ってみないか?」と誘われる。
元々興味を持っていたジンは「行きたい!」と元気よく答えた。その話を聞いたマリアも「私も行きたい!」と続けたが、クロードは「マリアにはまだ早い」と言って連れて行かなかった。
そして、ジンとクロードは狩りをするためにクロリアの森の奥へと向かう。木漏れ日が地面にまだら模様を描き、足元では落ち葉がカサカサと音を立てる。歩きながら、クロードはジンに少し大きめのナイフを渡し、こう言った。
「ジン、この先はたまに凶暴な熊も出るからな。これを持って歩け」。
ジンは「パパの腰にあるかっこいい剣がいい!」とねだったが、「その体格じゃこの大きな剣は振れないだろ」とクロードは楽しそうに笑って答えた。
初めての狩りに心を躍らせていたジンだったが、ナイフを渡され、気を引き締める。
その後、ジンとクロードはイノシシを見つける。
クロードは真剣な表情で「俺たちはこれから命をいただくんだ。せめて苦しませずに仕留めろ」と話した。その考えに感銘を受けたジンが「わかった」と答えると、クロードは「お手本を見せるから、よく見ておけ」と言って瞬く間にイノシシへと駆け寄った。
まるで風のように地面を滑るように進んだかと思うと、一閃。風を切り裂くような鋭い金属音と、イノシシが地面に倒れる鈍い衝撃音がほぼ同時に響いた。
ジンは思わず息を呑んだ。さっきまでそこにいたイノシシはもはや何の苦しみもなく、静かに横たわっていた。その姿はまるで眠っているようだった。
父のそのあまりにも鮮やかで無駄のない動きにジンの目は大きく見開かれ、体は硬直していた。腰に下げた大きな剣を軽々と操り、命を奪うことへの敬意を示すその姿は、いつも優しい笑顔を見せる父親とは全くの別人に見えた。
「.....パパ」
震える声でつぶやいたジンは、畏怖にも似た深い尊敬の眼差しをクロードに向けた。いつか自分も、父のような強さと優しさを兼ね備えた狩人になりたいと、心に固く誓った。
その後、ジンは鳥を見つける。「あの鳥を狩ってみろ」とクロードに言われて、鳥に気づかれないよう慎重に近づく。ナイフを振り上げたと同時に鳥に気づかれ逃げられてしまった。
その後、二人は何匹か狩りをして家へと戻った。家に着くと、ラミリスとマリアが出迎えてくれた。たくさんのイノシシが並んでいるのを見て、ラミリスは目を丸くする。
「ジン、すごいじゃない!こんなにイノシシを狩ってきたの?」
とジンの頭を撫でた。すると、ジンは「僕はあんまり役に立てなかったけど」と、初めての狩りで何もできなかった悔しさが胸を締めつけた。クロードは、ジンの頭をくしゃくしゃと撫でながら「初めての狩りはこんなもんだよ。あまり落ち込むな」と励ます。
少し不貞腐れた顔で「うん」とジンが答えた。
その後、ラミリスのイノシシ料理をみんなで楽しみ、ジンはマリアとの二人部屋に戻る。マリアはジンに「今日の狩りはどうだったの?」と尋ねた。ジンは、狩りの時にクロードが言った言葉をマリアに教える。それを聞いたマリアが「パパ、かっこいいね」と言うと、ジンは誇らしげに「うん!」と答えた。
数年後
二人はそれぞれの形で家族の役に立とうと奮闘していた。
ある冬の朝、ジンは一人で森の奥へと向かっていた。クロードから教わった「急所」を狙えば、小さな獲物ならジンの力でも一撃で仕留められるはずだ。しかし、今日もまた、何度ナイフを振り下ろしても、狙った獲物はするりと逃げていく。魔族である父と比べると、自分の力はあまりにも非力に思えた。
「…くそっ!」
苛立ちが募り、獲物を仕留め損ない、ナイフを地面に突き刺す。その時、足元にクロードの足跡があることに気がついた。父はいつも、自分の後をこっそりとついてきていたのだと知り、ジンは胸が熱くなった。
一方、マリアは家の台所でラミリスの料理の手伝いをしていた。
「ママ、この獣の臭いはどうやって消すの?」
「このハーブを使うのよ。昔、おばあちゃんから教わったの。どんなに疲れていても、この香りを嗅げば元気になれるって」
ラミリスの言葉に、マリアは不思議な力を感じた。そして、ジンが狩りから帰ってきたとき、疲れていてもこの料理を食べたら元気になれるかもしれないと思った。料理はただお腹を満たすだけじゃない。人の心を癒すことができる。マリアはそのことをとても素敵だと思った。
ある夏の日、ジンはクロードに黙って森に入り、一人で大きな鹿を仕留めて帰ってきた。この日のために、父の足跡を頼りに、誰よりも早く森に出て、誰よりも遅くまで練習を重ねてきた。
「…すごいじゃないか、ジン!」
クロードは誇らしげな笑顔でジンの頭を撫でた。
その夜、食卓にはマリアが一人で作った鹿肉の煮込み料理が並んだ。
「美味しい!マリア、お前、いつの間にこんなに料理が上手くなったんだ?」
クロードとラミリスは目を丸くし、ジンは「お前、やるじゃん!」とマリアの肩を叩いた。
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