このアホ殿下!
窓から射し込む淡い陽光を背負い、窓台に座る男は息をのむほどに美しかった。
片足を窓台に乗せて座るという横柄な格好のはずなのだが、彼の場合、一枚の画のようで気品すら漂ってくる。
結いもせず垂らしたままの髪は、一般的な男の髪よりも随分と短く、肩口までしかない。
吊り上がった眉と垂れた目尻という、相反する目元の造作は妙な色気があり、手で雑に掻き上げられた前髪の隙間から向けられた灰色の瞳に、小琳は思わずたじろいでしまった。
この姿には、女官達が国宝級の美貌だと噂するのもわかる。
小琳は、第四太子の前まで進み出ると拱手を仰ぐ。
「四殿下に拝謁いたします。内文学館で女史長を務めております、小琳と申します」
「俺相手に礼なんて必要ないよ。顔あげなよ」
彼の自嘲まじりの言葉が気になったが、小琳は大人しく顔を上げた。
「知ってるとは思うけど、俺がここ西湖宮の主で、第四太子の
へらり、と気の抜けたような笑みを向けられ、小琳の警戒も少し和らぐ。
「悪いね。女史長なんてただでさえ忙しいだろうに、俺の教育係もだなんて」
「い、いえ」
『あれ?』と、小琳は内心で首を傾げた。
呆子殿下と呼ばれるような者から、まさかこちらを気遣う言葉が出て来るとは、予想していなかったのだ。もっと横柄で、『女に教わることなんてないね』くらい言われるかと思っていたのだが。
(『子公冶長を謂わく、妻わすべきなり』ってね。所詮、噂は噂でしかなかったってことか……良かった)
これならば、思ったよりこちらの負担は少なそうだ、と小琳は安堵を覚えたのだが。
「それじゃ、クビね。はい、さようなら~」
「…………はい?」
気遣いの言葉を掛けた時と同じ顔で、なんの前触れもなく拒絶を言い渡された。
急転直下というのは、まさしくこの状況を言うのだろう。
彼は未だへらへらと意図の読めない、柔らかいだけの笑みを浮かべてこちらを眺めている。
部屋の隅では、慈于が頭を抱えて膝から崩れ落ちていた。
(なるほど、呆子殿下……)
噂も時には当てになるらしい。
――――――
明日より一日二話で、その後一日一話更新になります
アホ殿下が気になる、アラサー女官頑張れと思われたら、ブクマや♥や★でお知らせいただけると、私のやる気が湧きます!
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