属性盛りすぎだろ……

「は?」と、思わずこれには小琳も、女人らしからぬ低い声が出てしまった。


 別に、『嫁を貰えよ』と思ったから声を漏らしたわけではない。

 小琳が絶句した理由は、飛び出してきた青年の格好が乱れていたからだ。


 両肩は剥き出しになり、結われていただろう髪は解け、くつも片足は履いていなかったように見えた。青年が腰と胸元を両手で押さえていたところを見ると、おそらく帯も解けていたに違いない。


 まるで、情事後を思わせるようなあられもない姿で、太子宮の部屋から青年が駆け出してくることなどあるのだろうか。


 しかも、「ほら、忘れ物だぞ。受け取れー」と、青年が飛び出してきた部屋から、揶揄いまじりの気怠げな声と、黒い沓がヒュッと投げられ、逃げる青年の後頭部に直撃していた。


「……慈于殿……これは、どういった状況か説明を……」


 小琳がぎこちない動きで隣に顔を向ければ、慈于は目元を押さえて天を仰いでいた。

 ぼそりと「またか」と呟いたのが聞こえた。

 慈于は、できるだけ不安を与えないように作ったのであろう笑顔を、こちらに顔を向けたのだが、顔面全体が引きつりすぎていて、正直不安しか感じない。


「じ、実は、成嵐様は龍陽りゅうようなんです」

「りゅ――っ!?」


 一気に、なぜ第四太子の教育係に学士ではなく女史が求められたのか、綺麗に腑に落ちた。


 龍陽――つまり、第四太子は男色家ということ。


 聞けば、派遣される学士達に毎度手を出し続けたおかげで、今や内朝では誰も第四太子の教育係を引き受けてくれる者はいなくなったのだとか。


 花街で飲み歩いていると聞いていたが、宮中でもちょっかいを出しているとはよほどの遊び人だ。ついでに、先程あられもない格好で駆け抜けていった青年が、最後の学士だったらしい。隣で慈于が泣いていた。お気の毒に……。


 結果、男相手では講義どころではないのなら、女を教育係にしてしまえばいいという理由で、内文学館に話が回ってきたということだ。


「学ぶ気……絶対ないよなあ」と、小琳は引きつった口の中でボソリと呟いた。

 将来性が乏しく、やる気もない上に、遊び人の男色家。

 女史歴の長い小琳も、さすがにここまでの問題児は見たことがなかった。




 小琳は帰りたいという衝動を理性と義務感で抑え込み、先程、青年と沓が飛び出てきた部屋へと足を踏み入れた。

 そして、瞬きの仕方を忘れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る