職場が遠い!

 というわけで翌日、小琳は第四太子が住む、西の太子園にある西湖宮せいこきゅうへと向かっていた。


「まったく、周尚宮も私じゃなくて、若い女史に頼めばいいってのに。四殿下だって、教わるのなら私なんかじゃなく、若い子のほうがいいと思うんだけど」


 皇城は、その担う役割で内朝と外朝に区分けされている。

 後宮を含めた皇帝の私的空間と、太子達の生活の場を内朝と言い、またの名を皇宮とも言う。対して、三省六部などの政治機構が集まる場を外朝という。


 後宮と同じ内朝になる太子園だが、皇帝宮を挟んで東西に分かれており、西の太子園には、今現在は第三太子と第四太子が住んでいる。

 西の太子園に入ってすぐに第三太子の宮があり、池を挟んだその先が第四太子の宮となっている。


「ああ……なんだか頭が痛い。やっぱり身体が拒否してるってこと? てか、遠いんだよ」


 ぶつぶつと口の中で不平を言いながら、小琳は第三太子の宮の傍らを通過していく。途中でチラホラと女官達とすれ違うため、大っぴらに愚痴もこぼせない。


 太子園は、後宮とは隔てられているが内朝にあるため、掃除や給仕などは下級女官が担い、身の回りの世話を男の性を失った宦官かんがん――内侍官ないじかんが担当している。のだが、彼か彼女らにも、当然仕えたい宮というものがある。


 内侍官であれば、やはり権力に近い場所にいたいし、女官でもやはり権力者の寵を狙う者もいる。

 結果的に、後宮や皇太子の宮に皆行きたがるのだ。

 当然、人気の宮があれば、不人気の宮もあるわけで……。


「噂を聞く限り学ぶ気なんてなさそうだけど……そういった子よりも、内文学館で女官や妃嬪達に教えたいんだけど。まあ……ひとまず本人に会ってからか……」


 それが今、小琳が訪れた第四太子の太子宮――西湖宮であった。




        ◆



 

「いやぁ、まさか女史長様を寄越してくださるとは……! 感謝感激雨あられですよ」

「何もそこまで……」


「うぅっ」と、小琳の隣で感極まったように目尻を拭っているのは、第四太子唯一の側近である慈于じうという内侍官である。


 頭の高い位置でまとめた髪を、彼の感受性豊かな麗しい性分を思わせる、鮮やかな若葉色の頭巾ずきんで縛っているのが印象的だ。年は自分よりやや下だろうか。どうも宦官は男性的な角張りが落ちるから、老若の判別がつきづらい。目も胡桃型で愛らしく、身長も自分と同じくらいだから、なお若く見える。


「あの、慈于殿はおいくつでしょうか」

「二十七ですよ。女史長は?」

「女人の年を聞くのはいただけませんが、三十ですよ」

「わっ、よく若く見えるって言われません?」

「…………」


 嬉しいような嬉しくないような。年増と言っているのか、純粋に容姿を褒めてくれているのか、どっちだろう。


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