第24話・2006/4/28 (fri.) 23:35:10かおり視点

この間風邪をひいた時、心配して駆けつけてくれたひろに、『お礼に夕飯作るよ』っていったら『俺、バイトあるから無理。っていうか礼なんかいらない。』って突き放された。・・・その場では諦めて電話切ったけど、やっぱりどうしても会いたくてたまらずにメールを送った。『バイト何時まで?』

するとしばらくして返事が来る。たった一言『なんで?』と。


・・・・警戒されてるのかな・・・。


『なんとなく気になっただけ。何時までなの?』会いたいオーラを必死に消して冷静にそれだけ打って送信。そしたらメールがかえってきた。『22時までだけど。』私は一気にメールを打つ。


『22時でも何時でもずっと待ってる。料理作ってひろを待ってる。来なくてもずっと待ってるから。絶対ずっと待ってるから。』


送信して電源を切り、髪を縛ってキッチンに向かった。あとはひろが来るか来ないかの結果だけ。私は今できることをしよう。服の袖をまくって手を洗った。ドキドキする。会いたいな・・・。


・・・そして・・。



22時過ぎ。玄関の呼び鈴が鳴る。玄関を開けると、むくれた顔のひろがいた。思わず抱きつくと、ひろが抱きしめ返してくれる。「あんな無茶な誘い方あるかー・・」ってかすれ声で言う。玄関のドアが閉まって、私達は静かにキスをした。


「ほら。これ・・」触れたくちびるを離すと、ひろが手に持っていた紙袋を渡してくる。中を見たらサボテンの小さな寄せ植え。かわいらしかった。



「快気祝い」

「・・・そういうのって普通私が渡すものなんじゃないの? 」

「え?!なんで?!」

「だって・・なおったの私だもん・・・」

「・・・・」

「でもうれしいっ!ありがとう!」

「はいはい」


ぎゅっとひろの手を握って、部屋につれていくと、『わーーすっげー・・。』って声をあげるひろ。私が作ったのはカラアゲの山。つい最近友達においしいスパイスの調合方法教えてもらったから、一生懸命つくったんだよ。ひろが食べてくれるとこ、想像しながら。


「つくりすぎちゃって・・からあげしかないし」

「や、最高じゃん。俺、たぶん世界一から揚げが好き」

「ほんと?!」

「・・まあ・・ファンタも好きだけど・・だけどやっぱ僅差でからあげが世界一か・・」

「ファンタあるよ!今だすね!あ、ごはんも食べる?」

「え・・なんかすみません」

キッチンに走って冷蔵庫を開けて、ファンタをコップに注いでたら

部屋の方から『やばい』って声が聞こえてきた。


慌ててのぞいたら、ひろがもうおいしそうにから揚げ食べてて「かおりさん、料理うまいね。モテそう」って、くちいっぱい頬張りながらひろが言ってる。私は返事もせず微笑みかけた。幸せな気分が私を勝手に笑顔にする。


前のカレーの時もそうだったんだけど・・この子の食べ方が大好き。育ち盛りの男の子っていう感じの、食べっぷりのよさが私は好き。



『ほんとにかおりさんが作ったの?』『からあげ屋やればいいじゃん。』ぶっきらぼうな褒め言葉に、私の心がハート型になって揺れる。山のようなカラアゲを全部食べてくれて、よそったごはんは一粒も残さずにきれいに食べて、そそいだファンタも飲み干して、それがとても気持ちよかった。


食器を片付けるのを手伝ってくれて、そのあとすぐに帰り支度を始めたから「泊まって?」って甘えたんだけど「・・・帰る。もう遅いし」っていいながらひろは玄関に向かおうとしている。



卑怯だとは思いつつ泣いた。耳を塞ぎながら子供のように泣くと、ひろが携帯を取り出して、どこかに電話した後、荷物をまたおろす。


私は耳を塞いでいた手を離し、ひろを抱きしめた。ひろは私を抱きしめて髪に顔を埋めてしばらく黙る。そのままベッドに倒れこんで、ゆっくりゆっくり抱き合った。ひろに抱かれながら、私はぼんやりと考える。ひろの好きなとこ、また一個見つけたって。


・・・・私の肌の扱い方が・・とてもとてもやさしいところ。


事の後、ベッドに寝転んだまま、私はひろの髪をもてあそんでいた。ひろは気持ち良さそうに目を閉じて、うとうとしながら黙っている。そんなときにひろの携帯が震える。ひろは手を伸ばし携帯を開く。メールらしくて文章を目で追うと、すぐに返事を打つから律儀だなあとおもった。


相手は友達。男の子らしい。


「・・・そんなに大事な友達なの?」

「・・そういうわけじゃないけど・・・でも・・うん」

「・・・親友?」

「うん。親友だとおもう」

「・・・へえ~。どんな子?」

「・・・・・・ちょっとお姫様みたいかな」

「男の子なのに姫なの?!」

「そう。見た目めちゃくちゃイケメンなんだけどどこかにこう・・・残虐さがあるような・・・」

「残虐・・?」

「や、そういう残虐じゃなくて」

「じゃあどういう残虐なわけ?」

「だから童話の悪役姫みたいな・・ほら・・あるじゃん・・毒発言みたいな・・・」

「・・毒舌?」

「そう。時々・・・めっちゃ刺されてる。俺」

「あはは」

「・・・でも、冷血って感じじゃないんだけど。あの独特な感じ、うまく説明できない」

「・・・ふーん」

「・・で、めちゃくちゃ頭いいんだよね」

「そうなの?」

「うん」

「ひろはどうなの?成績」

「・・・見た目のまんまだよ」

「・・・ドンマイ☆」


「見た目ドンマイってどーいう意味っ!」



ベッドの中。いちゃいちゃじゃれあって、笑い声が途切れたらまたくちびるを重ねる。口数の少ないひろが、お友達の話を沢山してくれて嬉しくて・・私は彼の背中にのばした腕にギュっと力を入れる。


男の子の友情って、うらやましい。もし同じ年頃に男として生まれてたら親友になれてたかな・・なんて・・ほんの一瞬思ったけど・・・・そういう出会いも幸せだったと思うんだけど・・


私は、私に生まれてきたから今・・ひろとこうして抱き合えて繋がりあえて触れ合える・・・だからやっぱり女に生まれてよかった。

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