第4話・2006.4.19(wed)『クラブ』

俺の高校には、部活動の他に『クラブ活動』がある。毎週水曜の五時間目がクラブ活動なんだけど、今日はその見学をした。


バスケ部の人間はバスケクラブに入っちゃ駄目ってルールがあるから、俺らはバスケ以外のクラブからどこに入るのかを決める事になる。見学は自由行動だったから、俺は紺野と一緒に見て回ることにした。


紺野はロボット研究会か自動車製造クラブに入りたかったみたいなんだけど、この二つのクラブだけは部活と一本化になってるらしく、部とクラブ両方一緒に登録するのが条件だから、紺野は入れなくて本気でがっかりしていた。『幸村ぁ。お前、何クラブはいる?』とか聞いてくるから『将棋かな・・』ってこたえた。


出来れば紺野と同じクラブがよかったんだけど、自動車製造やロボット研究みたいなクラブに入りたがってた紺野と趣味が合うとは思えない。週一とはいえ興味を持てないクラブで時間を過ごすのは苦痛だろうし、紺野がいたら安心だけど・・それだけのためになあ・・・せっかく好きな将棋クラブを蹴って紺野に合わせるのはもったいない。



将棋にするって言った俺をちらっと見て、興味なさそうに『ふーん』と言うと紺野は最寄の部屋に入っていく。後を追って俺も入ると、そこは観察クラブだった。地味・・・かなりの地味具合。でも紺野は何故か興味もったらしく、クラブの先生に説明をしてもらい始めた。



俺の入りたかった将棋クラブは隣の教室だったから、とりあえず紺野に声をかけて将棋クラブを少し見学した。悪い感じはしなかったから、登録手続きを済ませてソッコー紺野のとこに戻ったんだけど、そしたら紺野がクラブ登録してるじゃん。それがすごく意外だった。もっと賑やかなクラブに入ると思ってたし、見学して説明聞いたあと他のとこも回って最終的に別のクラブに決めるんだとばっかり思ってた。



登録用紙を先生に出すと、紺野は俺に気づいて駆け寄ってきた。


教室に戻る途中、紺野が俺に話しかけてくる。

「ねえ。お前結局将棋にしたの?」

俺は紺野を見る。・・・ボケた顔してんなー。こいつって。


「うん。登録した。それよりお前、観察クラブマジはいんの?」

「ああ、まあね」

「なにすんの?あのクラブ?」

「色々観察するんだって」

「まんまじゃねえか。実際何を観察すんの?」

「・・豆・・の成長とか、蝶の羽化とか・・?」

「・・・小学校の自由研究かよ。楽しいのか?それ」

「う~ん・・・どうだろ。わかんないけど期待値は大きい」


・・・紺野と友達になってから2週間くらいたつんだけど、こいつのこういう所、謎。詳細わかんねえくせに期待値膨らませてクラブ登録してんなっつーの。


教室ついてからもしばらく2人で話をしていた。他の奴ら、まだきてなかったし。窓の外から入ってくる風が、すっげえ気持ちよかったから、俺は紺野に色々なことを話した。


兄ちゃんが俺を甘やかして困るとか・・勉強が好きってこととか・・中学の時のイジメのこともちょっとだけ・・・紺野は机に突っ伏しながら、目を閉じてウンウンと頷いてくれた。


俺が時々言葉につまると、顔をあげて俺を確認する。

「・・・泣いてるかと思った・・・」

「泣いてねえよ」

そんなやり取りを繰り返してるうちに、クラスの奴らが徐々にもどってきた。


「ユッキー、何クラブにした?」

「将棋ってどの教室だった?俺、探したけどわかんなかった」


当たり前のように話しかけてくる友達。これが今の俺の普通なんだからすごいよね。中学の頃の俺には想像することすら許されないような現実世界が今の俺にはある。


ニヤニヤしてたら、紺野がムクっと起きてみんなに文句言い出した。


「ちょっとー!!何で俺には何も聞かねえの?」

「どーせしょうもないクラブはいったんだろー」

「っていうか、誰も紺野に興味ねえもん。なあ」


「俺は観察クラブに入りましたっ(怒)」



ムキになって自己申告してる紺野をみてたら、おかしくって俺、みんなと一緒に大笑いしたよ。


・・・入学式の日に初めて紺野に会って、それ以来・・なんとなく、紺野と一緒に行動している。いっつも話しかけるのは俺の方で、紺野は黙って聞いてることが多い。俺の中学時代を知ってる斉藤に『ユッキーって、そんなに喋るヤツだったっけ?』とかいわれたけど、それは自分でも思ってる。


聞いてくれる相手がいると、人は無限に話が浮かぶんだよ。話しても話しても尽きない。俺の心には溜まったものがいっぱいあるから。



紺野はきっと明日も明後日も、俺の話を聞いてくれる。時々あくびしたり、はなうた歌いながら、でもきっと俺の横にいてくれるんだ。


友達っていいよな・・・。まじで。



post at 23:34


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