第3話・苦手なことが多すぎる
「おはよー」
聞き慣れた声。朝の教室。紺野が来た。
早めに学校に着いてしまって、やることもなく席に座ってた俺は、ちらっと紺野の顔を見て『今日は来るのが少し遅かったなー』とか思いながら視線を机に戻す。
話しかけようと思ったんだけど、クラスのやつに声かけられてるのが見えたから、やめといた。まぁ話が終わったタイミングで「おはよう」だけは言ったんだけどね。
昨日、部活紹介があったんだ。体育館で簡単な説明があっただけだけど、どうしようかなぁ…と少し悩んでる。結構いろんな部活があって。
昔からやってたしって理由で野球部ってのも考えたけど、その頃の先輩がここの野球部に何人かいるんだよね。だから変わった俺をどう思うかと考えただけで怖くって、野球部を選ぶのは無理だと思う。
説明を聞いた限りでは、どこの部活もまじでおもしろそうなの。運動部だけじゃなくて文化部も。ただ、どこを選んでも結局は、新しい人間関係を一から築かなきゃいけないじゃん。そんなエネルギーは、今の俺にはない。
考えすぎると追い詰められちゃう自分の性格は理解してる。だから一旦部活の事は忘れることにする。入部希望の提出期限まで、まだ少し時間もあるから。
翌日。
相変わらず、学校に早く着きすぎた俺。やることがないのでパワーがあるうちに入部届と向き合うことにした。期限に余裕はあるけれど、それはイコール悩み苦しむ期間でもある。さっさと決めて終わらせて、心のモヤをさっぱり消したい。
でも、部活…部活なぁ…。入ってしまえば努力はできるけど、やっぱり人間関係がネックだ。ちゃんとした知り合いは斉藤しかいないけど、斉藤は野球部だし同じ道へは進めない。ぐだぐだ悩むのはもう嫌だ…いっそ誰か俺を誘ってくれ…とか頭を抱えて考えてたら、俺の机の前に誰かが立った。
顔を上げる。
「へいへいへーい。おはようー」
カラッとした声。紺野だった。返事もせずに顔を見ていたら、俺が持ってた入部届に気づく。そしたらさ、今度はさ、まじで何の気負いもないような顔で「入部届じゃん。俺はバスケ」って言ったの。本当に、まるで息して吐いた・・くらいの感じで。
それだけ言ってさっさと離れてった後姿をぼんやり見ながら、俺は紺野の言葉をリピートした。バスケ部…バスケ部って言ったよな…紺野はバスケ部…
なんで俺にそれを言った?
ガタっと机の音を立てながら立ち上がって俺は紺野を追った。クラスの奴らとおはようおはよう言いながら歩く紺野。その背中になんとか追いついて、肩をがしっと掴む。そして一回深呼吸した後、俯きながら宣言したんだ。
「俺もバスケ部にするからね!」
そんな俺を特に気を止めるようでもなく、相変わらずカラッとした声で「オッケー」という紺野。肩をつかんでた俺の手をひいて、自分の隣に引き寄せてくれた。
そのまましばらくクラスの奴らと話をしたけど、ほとんど俺は聞いてただけ。でも輪の中には入れてたと思う。
こうして俺を苦しめてた部活選び問題は無事に解決となった。入部後のことは別に不安ではない。とりあえず紺野がいるし、こいつがいれば俺は絶対一人にはならないという謎の安心感があるからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます