第2話・距離の詰め方がわからない

入学式以降、学校のやつとロクに会話をしていない。いじめとか、そういうんじゃなくて、普通に俺が口下手なだけ。ちなみに今日も教室に入ってから朝の挨拶以外ほとんど喋っていない。紺野や斉藤とは少し喋ったか…でも、他の子とは話はしていない。しみじみそれを考えたら、急に緊張をしてきた。なんだか暑くなったから、学ランを脱いで椅子にかける。


水道にでも行こ。そう決めて俺は席を立ち教室を出た。


休み時間のたびに、遠くて人がいない水道へ行く作戦には既に飽きてる。でもせっかく誰かが話しかけてくれたところで、俺って相槌を打つことしかできないんだよなぁ…。間がもたないし申し訳ない。そういうのに耐えられないんだよ。


昨日だって遊びの誘いとか結局全部断っちゃったし。でも本当にごめんなんだけど、休み時間すら無理なのに放課後遊ぶとかマジでありえないんだよ。


水道往復発明しなかったら、今頃地獄だったと思う。授業が終わるたびに訪れてしまう休み時間15分はあまりに長すぎる。


いじいじと心の中で一人会話をしながら、トボトボと歩くしょうもない俺。階段降りて渡り廊下に差し掛かった時「あれっ⁈幸村じゃん」と言う声。紺野だ。


「何してんの?お前」阿呆みたいな顔して紺野が俺に言う。

「いや、それはお前」目的があって俺は渡り廊下にいるけどさ、なんでお前はここにいる?しかも指で変な遊びしてるし。俺は紺野の手元をじっと見た。


「何がだよ…手⁈」

「それもだけど、なんでこんなとこ歩いてんの?」

「数学の集めたプリント先生に届けて、その帰り」


あぁ、今日は紺野が日直だったわ。なるほど…と納得してたら「ねぇ、教室戻ろー」って俺を見て紺野が言った。


「あぁ…うん」俺は水道に向かって歩いてたけど、喉が乾いていたわけではない。要するに用はないのだ。


紺野の隣を歩きながら、なんとなく話しかける。


「…で、その指、何?」

「は?」

「指だよ。なにしてるの?」

「あー…これは左右1本ずつ指立てて、手ぇぶつけると移動するやつ」

「その説明だとわかんないなぁ」


俺が理解できずにいると、紺野はさらに説明を続けた。


「両手の人差し指を立てて、手をバンっ…てぶつけると、片っぽゼロで片っぽ2になる。指が移動するやつ」

「あぁ!わかった!」


最近クラスで流行ってるマジック(?)か。理解してもらえて嬉しそうな紺野は、指をぐにゃぐにゃしながら話を続ける。


「何度やっても、うまくいかん。2と2になったり、ひどいと5と5になる」

「ははっ」

「計算ができないんだな、俺の手は」

「計算…」

「…俺は計算得意だけどね」



普通の会話。なんかよくわかんないけど、本当によくわかんないんだけど、なんとなく俺は紺野の後頭部をばしっと叩いた。


「……は?」


突然俺に叩かれた紺野は、後頭部をおさえながら俺を睨んだ。まぁそんなのはどうでもいい。起こる紺野から視線を外し天井を見たあと俺は目を閉じた。


クラスの奴らが全員こいつみたいな馬鹿だったらいいんだけどなぁ…。本当に…マジで本当に他人との距離の詰め方がわかんないんだよ…。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る