〔Side:Juli〕29. 帰り道
夜の街に二人寄り添って歩いている。
飲みすぎてしまった。いえ、むしろ……飲ませすぎてしまった。
私もかなり飲んだけれど、特にシノンは相当酔っていて、まともに歩けていない。
酒ですぐに焼けてしまう喉からはシャギー気味で、でも低く響くいい音がする。
身長差があるので、肩を貸して歩くとふとしたことでよろけてしまい、そのたびに彼女の声が耳をくすぐって耳たぶがカッとあつくなる。
シノンは先ほどからその細くてしっかりとした指を丸めて猫手にして、私の髪先を軽く掠めて遊んでいる。
さっきからずっとニコニコとしていて、普段のクールビューティとは打って変わってなんだか子供っぽい。
ご機嫌なご様子で、というか……なんだか妙にくっついてきて、鼻をすんすんと鳴らして私のにおいを嗅ごうとしたりもする。
今は少し……気温が高い夜であるのと、夕方にダーツやカラオケで汗ばんだのもあって、自分のにおいが気になってしまう。
化粧直しの時に対策はしたけれど、それでもこんな至近距離で嗅がれるのはさすがに……
「あー、今はダメ、汗かいちゃってるから。こら、嗅がない……鼻近づけちゃダメだから、ほらじゃあ、手繋いで一緒に歩こうね? シノンはちゃんと歩けるかな?」
千鳥足でふらついてしまうシノン。
これじゃそのうち地べたに倒れてしまいそう。
それか壁や電柱に当たってケガをしてしまう。
元通りまた肩を貸すことにした。
こんなになっているシノンを見たことがないので新鮮ではあるけれど、本当に大丈夫なの?と心配の方が勝る……
「ふふふふふ」
「どうしたのー? ずいぶんご機嫌でちゅね〜?」
「いっつも一緒じゃいらんないから……今日はずっと一緒ですごく嬉しいな」
耳元でそんなことを囁かれては――
「……〜ー……」
これだけ酔った状態でシノンが言うのだから、普段も少なからず思っていることの現れって思っていいの?
それとも本当に酔い過ぎていて、思ってもいないことを口走っているの?
けど、どっちだっていい。
シノンが私と一緒にいたいなんて、言ってくれたことはなかった。
シノンはいつも遠慮がちで、私の自由意思を尊重してくれていた。
だからこれまでケンカの一つもせずにルームシェアができていた。
けれど、今の私はルームシェアを始めたてのころとは違う。
シノンに惹かれていて、シノンの線引きとも言えるような遠慮に、どこか物足りなさを感じていた。
この間のデートでも、私は実際シノンに気に入られたくて色々としていたし、次はシノンから……デートのお誘いを期待してしまった。
今日はシノンの友達に会うだけ、そう思って来たけれど、それでもシノンからシノンの普段を知る人達と時間を共にしてほしいと言われて、嬉しくなかったわけではない。
それってつまり、シノンが私を身近に感じてくれているってことに違いはないのだから。
しかも、事前のお誘いはとくにはなかったけれど、着いたらダブルデートですって言われて、内心すごく焦ったのに、どうしようもなくうれしかった。
はじめて会ったシノンの友達は、二人とも優しくて気の利くいい人たちだった。それに何より、二人がとても仲が良く、お互いに想い合っていることはすぐに理解できた。
シノンへの接し方に万が一おかしな情が混じっていたら、金輪際二人との交友をやめるようシノンを説得しようと頭の片隅に考えていたけれど、その心配がなさそうなことには安心した。
きっとシノンがいい人だから、いい友達に巡り合えたのだろうなと思えた。
それで楽しくて浮かれて飲み過ぎてしまった。
何よりシノンと一緒に飲むのがおいしすぎたのだ。
隣で楽しそうにしているシノンを見ていると、お酒がすぐに空になっていった。
何も考えずに楽しい気持ちのまま飲んでいられた。
お酒自体も好きな方で、仕事の付き合いで飲むことの多い私はけっこうお酒に強いという自信があった。
それにシノンも他の二人もついてきていたので、嬉しくなってどんどん注文した。
ミウちゃんは途中からチェイサーに切り替えてセーブしていたけれど、シノンもリオさんも最後まで私のペースについて来ようとしていた。
その結果こうして、シノンとリオさんの泥酔を招いたのだった。
リオさんとミウちゃんとの別れ際。
「私のせいでごめんね。これ近くのホテルにでも泊まっていって」
ミウちゃんに二人分のホテル代を渡そうとした。
「お気遣いありがとうございます。でもこれは結構です。私たち、はじめから泊まるつもりで来ていたので、近くのホテルを取っているので大丈夫です」
ちらっと見せてくれたカバン。二人とも大きめのカバンと思っていたけれど、中には着替えとかも入っているらしかった。
二人の関係はシノンから聞いて知っていたけれど、年下なはずのミウちゃんは私の知らない世界の住人の顔をしていた。
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