〔Side:Juli〕30. フィルターレス
ミウちゃんとリオさんはそういう関係で、お互いのことを深く知る仲なことは今日一日でよくわかった。
隣でニコニコと手を振るシノンにミウちゃんとリオさんも手を振り返し、私もそうして見送った。
酔ってフラフラなリオさんを、ミウちゃんは慣れた様子で腰に手を回して歩いて行ってしまった。
ミウちゃんは年下なのに、妙に艶っぽい横顔をしていた。
その顔を見送るシノンを見上げて私は二人に引き合わせたシノンが何を思ってそうしたのかを問い詰めたくなった。
けれど、今のシノンにそんな質問を浴びせるのはかわいそうに思えた。
酔っぱらってまとに考えられないときに、そういう心情の説明を求めるのはさすがに……普通に嫌われかねない。
「私たちも帰りましょうか」
「うん」
シノンの返事を聞いて駅の方へと一歩、足を踏みだした。
「うわっ」
すぐ後ろで思いの
「ふぅ……ごめん、ジュリ」
耳元で吐息。ローでシャギーな声がして、返事が裏返る。
「ひゃい」
「足元が……」
「ああ、うん、ごめんね大丈夫? 肩掴んでいいよ、歩けそう?」
「うん、ふふふふ」
耳に息がかかってくすぐったい。
「なに? どしたの?」
「ふふ、ジュリが優しいなって」
「そ、そう? これくらい普通よ?」
シノンは私の肩を支えにしつつ、足を何とか前に出して一歩ずつ歩き始めた。
そうしているうちにも耳元でシノンがぽつぽつと言葉を耳に直接投げかけてくる。
「ごめんね、いきなりダブルデート」
「ううん、気にしてないわ」
非常に耳があつい。耳だけじゃなくて、体ごとあつい。きっと真夏の今日の気温のせい。
「よかった。ウチは思っていたのよりずっと楽しかった」
「リオさんやミウちゃんたちと仲良くなれて、シノンともこうして遊びに来れて、私も楽しかったよ」
「ほんとに? ふふふふふ」
この調子じゃ駅まで結構かかりそうだし、進まなきゃ……なのに、私の足の進みも遅い。
終電とかの心配はぜんぜんないのだけれど、それよりもシノンのささやきでどうにかなりそうなくらい胸の鼓動が激しい。
このままじゃ変な気を起こしてしまいかねない。
「ごめんね、ちょっと歩きにくくなってきたから少し体勢を変えさせて?」
「うん」
思い切って後ろにいるシノンの横に並んで肩を貸すことにする。
「この方が一緒に歩きやすいでしょ? さ、行こ?」
「ふふ、ジュリの顔が見えるからこっちの方がいいね」
「……~……」
たしかに……もしかして失策だったかも……これじゃ顔見られちゃうじゃない……!
――
数分はそのまま人の流れに合わせて駅へと向かおうとしていた。
けれど、うまく進めずふらつく状態が続き、シノンを支える私の方の体力(精神)的な限界も近づいていた。
そしてなにより自分の過ちに気が付いた。
進む方向を少し変えて、人の流れからちょっとだけ逸れて、駅前に続く大きな道路沿いでスマホを取り出した。
タクシーを配車し終えてしばし待つと、画面に出ていたナンバーのタクシーが目の前に止まってくれた。
最初からそうしていればよかったはずなのに、シノンとこうして肩を寄せ合って歩くことが私にとってはご褒美過ぎて失念していた。
これで頑張って歩かずとも目的地まで連れて行ってもらえる。
シノンを先に乗せて私も乗り込むと、運転手さんに目的地を伝え、車は走りだした。
これから行くところについて、シノンには説明を試みたけれど、あまりよくわかっていない様子で「一緒に行けるならどこでもいい」なんて言われた。
仕事の都合でお得意様とのゴルフ接待の時にいただいた会員権の権利が余っているので、その系列のホテルに向かってもらっていた。
少々タクシーでの移動には時間がかかるけれど、会員特権のあるしっかりとしたホテルを利用させてもらった方が、女性二人で利用する上で無用なトラブルを避けることができる。
それに、ミウちゃんたちのように事前に準備していたわけではないから、この時間でもホテルサービスを利用できるのは強みでもある。
タクシーの運転手さんには配車アプリの金額に上乗せで、お礼の気持ちのチップを追加させてもらった。
走行中、特に詮索もせずにおいてくれたり、シノンの体調を気遣って振れの少ない運転をしてくれた。
おかげでエチケット袋を使わずに済んだことはとてもありがたかった。
タクシーを降りるとシノンの足取りも少しだけましになっており、背の高いガタイのしっかりとしたドアマンが中へと自然に導いてくれた。
ホテルへのチェックインはネット上で済ませているものの、今回はこちらのホテルには初めての利用ということもあり、案内された専用ラウンジで説明を受けた。
「ふわぁあぁ……」
その間シノンは口元に手を当ててひたすらアクビをこらえながら、結局こらえきれずアクビが漏れていた。だいぶ眠気がきている様子。
普段はこんなにねむねむなシノンを直接見ることはできないし、画面越しに見るのも相当レアで、その姿を隣で見ていられる状況はどうしても頬が緩む。
「ジュリ、ここどこ?」
部屋まで荷物を運んでくれたベルボーイが去ると、シノンはすぐにソファーに倒れこんだ。
「ここは今日泊まるとこよ。眠そうね、シノン。お風呂沸かそうと思ってるけどシャワーにしておく?」
「も、眠い。でも、汗いや……眠い」
シノンは自分のにおいを気にするように鼻をヒクヒクさせているも、もう目を開けているのもつらそうな様子だった。
「服は全部この袋に入れて。明日の朝までに洗ってドアにかけてもらうわ」
「そんな魔法みたいなことできるの? ジュリすごい」
シノンは目を閉じたままソファーでもぞもぞと半分くらい脱ごうともがいていたけれど、結局上手く脱ぐことができず力尽きて動かなくなってしまった。
「ん……ん……眠くてもう……脱がしてほしい」
「ねえ……手伝ってもいいけど、そうすると私が近くで見ることになるのよ? シノンはそれでもいいの?」
私だって流石に裸を誰かに見せるのは抵抗があるし、社会人にたさなったら温泉にでも行かなきゃ見るということもほぼない。
それに、私は前にシノンに好意があることは伝えている。そんな私が見ても本当に大丈夫なのか心配で聞き返した。
「うん。今はジュリがウチのご主人様、にゃん」
ほんとにそれでいいのね……猫語尾までつけて言われちゃ、ね?
「じゃあ、今日は私が世話しないとね。まずはメイクを落として歯磨きからね」
「はーい……にゃ」
メイク落としや洗顔、歯磨きはまだ何とか手を貸すだけでできていたけれど、さすがに立ったまま舟を漕ぎはじめたシノンにシャワーは難しそうと思いソファーに座らせた。
ソファーに座るシノンの目の前に立って服に手をかける。
「はい、手を伸ばして、上によ」
「にゃ〜」
「よくできました〜。えらいわシノン」
されるがままよく言うことを聞いてくれるお利口さんなシノンを褒めながらお世話するのは楽しい。
「ふふ、服が脱げてく。ちょっとくすぐったいにゃ」
服の上からシノンのしなやかな筋肉が指に触れると、シノンが身をよじる。
酔わせて服を脱がしているのはなんだか背徳感がすごい。
「嫌だったらすぐ言ってね? いつでもやめるから」
「嫌ならとっくにどこかに行ってるにゃん」
「そ、そう? じゃあ、次は下も脱がすけど、大丈夫?」
「にゃぁ……もう、全部好きにして欲しにゃ。今はジュリのウチにゃから」
「わかった。なる早で行くわね」
シノンのぐらぐらと舟を漕ぐ様子から本当にもう限界が来ている様子。
シノンの服を丁寧に脱がしていく。
あまりまじまじと見つめるのも良くないと思いつつ、鏡で見る自分とはまた違う体つきについ視線が向いてしまう。
内心で謝りつつ、お湯で濡らしたタオルで隈なく体とその長い黒髪を入念に拭いてあげた。これだけじゃあまり上手いお世話とは言えないけれど、明日の朝起きた後にお風呂を沸かしてあげよう。
先にシノンを2台あるうちの1台のベッドに寝かせた。
自分も服を脱ぎ袋に入れ、2人の服が入った袋をドアノブにかけてぶら下げて、内線でクリーニングサービスをお願いすると、すぐに客室係の人が服を回収して行ってくれた。
これで明日、着るものに困らなくて済みそうね。
軽くシャワーを浴びた後、バスローブがあることに気がついた。
シノンに着せてあげようか迷ったけれど、既に眠っていたら起こしてしまうのも悪いのでやめておくことにした。
それからほどなく私も眠りについた。
――
暗い中、もぞもぞと何かが布団に入ってくる感触でぼんやりと目覚めそうになっていた。
「……ジュリ」「……ん、ん!?」
至近距離でシノンの囁きが聞こえて急激に覚醒していく中で、唇に柔らかな感触。
そのままお互いに唇が離れなくなってしまったかのように唇の感触を確かめているうちに意識は完全に覚醒した。
「ん……ふぅ、どうしたの、シノン?」
「どうして一緒じゃないんですか? ……ベッド」
「え?」
「せっかく同じ部屋なのに、寂しかったです……」
「それは……その。シノンが裸なのに、普通に嫌かなって思って――」
「嫌じゃないです。それより、どうしてジュリは着てるんです?」
「これは、シノンを寝かせてから気づいて……起こすのも悪いかなって」
「フェアじゃないです……脱いでください。というか脱がせます」
「え、や、フェアって、え!? シノン、もしかして怒ってる?」
「怒ってなんていません。寂しかっただけです。なので……」
「ん……」
唇を塞がれて少しだけ乱暴にバスローブが解かれていく。
手つきがおぼつかないのはまだお酒が残っているから?
というか、飲み終えてから結構経っているはずなのに、フルーティなお酒、ワインのような……
「んは、待ってシノン。もしかしてあなた……」
(お酒を……?)
「あ、ジュリも飲みます? おいしいですよこのちっちゃい
ホテルの冷蔵庫には確かにジュースが何種類か入っている。
けれど、入っているもののほとんどはアルコール飲料。
シノンが手にしているラベルを読むと、飲んだのはジュースではなくデザートワイン、ジュースのように甘いけれどちゃんとお酒である。
「ジュリにも 1口……」
そんなことを言っておいてシノンは小瓶を一気にあおる。
頭の後ろにシノンの腕にグイっと引き寄せられ、シノンのワインに濡れた唇に出迎えられた。
本当はまだ夢の中にいるのかも……そう思ったけれど、唇を舌でこじ開けられデザートワインを注ぎ込まれ、その味とシノンの舌が入ってくる感触が現実か夢かなんてどうでも良くなった。
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