〔Side:Shino〕22. コンセプトのあるお店


「お帰りをお待ちしておりました、お嬢様方」


 そういって出迎えるスタッフの方々は、全員執事の格好をしていた。

 でも声や顔付き、ボディラインなどは明らかに女性である。むしろ隠しているのに、ウチより出てる人も多い……


 どうやらここは廊下に貼り出されていた写真のように、執事のコスプレをした女性スタッフがもてなしてくれる男装カフェであるらしかった。



 1人のスタッフが名乗り出て席まで案内してくれた。


「お嬢様方、初めまして、僕は湊士みなとと申します。荷物は僕が運びますからお任せください」


「ありがとうございます。お願いしますね」「ありがとうございます」


「わっ、と。さあ、こちらへ」


 湊士みなとと名乗ったその子は小柄で、ウチとジュリの荷物を預けると少しよろけていた。

 声も頑張って低い声を出そうとしてはいるものの、しっかり高いのでもしかすると幼くて声変わりしていないような印象を狙っているのかもしれない。少年執事さん?


「おかけ下さい、お嬢様方。本日は僕たちの中から、誰か指名はございますか?」


 指名……ちょっと何を言えばいいのか分からずジュリを見る。

 しかし、ジュリの横顔からも状況はさして変わらぬ様子だった。


「特にご指名がないようでしたら、このまま僕、湊士みなとにお任せいただけたら光栄なのですが」


 湊士みなとさんの提案にジュリが応じてくれた。


「ええ、ではお願いできるかしら」


 さきほどお嬢様と呼ばれているせいか、ジュリの口調も心なしかお嬢様っぽく感じる。


「ありがとうございます! では、続いてこちらからお飲み物をお選びください。僕からのオススメは今月限定のブルームーンです。スミレのリキュールとレモンジュースのカクテルでスッキリとした味が暑い7月にぴったりなんです!」


 メニュー表を見るとアルコールの表示。カクテルの1種らしい。

 一瞬湊士みなとさんからは飲みなれた雰囲気を感じたけど、もしかしてこの子ウチより年上?

 本気のプレゼンからも飲みたそうな雰囲気がひしひしと……


「それでいいわ。あなたも飲むの? それなら3つで」「……ぇ?」


 それお酒……


「かしこまりました。すぐにご用意いたします。軽食もございますがこちらの執事の黒ネクタイなんていかがでしょうか? 軽いゲームもお楽しみいただけますよ?」


 湊士みなとさんが指を置いたのは、執事の黒ネクタイ(ポッキーの盛り合わせ)だった。


「それをいただくわ」


 ジュリが即決して注文を済ませ、一旦湊士みなとさんは注文を伝えに行ってしまった。


「ジュリ、これってポッキーですよね? これでできるゲームってなんでしょうね?」


「え? あ、それは、え? ポッキーゲーム……ってシノン知らない?」


「ポッキーゲーム……へぇそういう名前のゲームがあるんですね。名前がついてるってことは有名なものなんですね? ウチ、そういうの全然知らなくて……でも、ジュリと一緒にゲームとかしたことなかったから、ちょっと楽しみです」


「シノン……!」


「はい」


 突然ジュリに両肩をがしっと掴まれた。


「ごめん、私が守るからね!」


「なんですか、いきなり?? 守る? そんなに危険なゲームなんですか??」


「お待たせいたしましたお嬢様方。ブルームーンと執事の黒ネクタイでございます」


 目の前に運ばれてきたカクテルと、ポッキーの盛り合わせ。


「乾杯の前に、この僕湊士みなとにお嬢様方のお名前をお教えいただいても?」


「ええ、では私のことは一十 いと、でお願いできるかしら」


「はい、一十 いとお嬢様でございますね。こちらお嬢様カードでございます」


 湊士みなとさんはジュリに手書きで名前を書いたカードを手渡した。


 一十 いとは、ジュリの苗字だ。

 会社とかでもジュリは苗字で通しているから、呼ばれ慣れているものにしたのかな。


「ウチは……じゃあつきでお願いします」


 湊士みなとさんも、呼びやすい方がいいのかなと、ウチも二文字にした。

 特にそれ以外の意図は無い。


「はい、つきお嬢様もこちらを。次回お戻りの際にこちらを僕たちにお見せくださると、僕たち執事からちょっとしたサービスをさせていただきます」


「かしこまりました。お教えいただきありがとうございます。一十 いとお嬢様、つきお嬢様。グラスをお手に」


「ええ」「はい」


「お嬢様方のご健康とご活躍を、心よりお祈りいたしまして、乾杯!」


「「乾杯ー」」


 グラスを軽く挙げて、グラスから1口液体を含む。

 湊士みなとさんの解説通りに、スミレの花の香りにレモンの酸味が爽やかな飲み口。

 暑さを忘れるには良い組み合わせだと思う。

 けれど、アルコールは結構……これは何杯もは飲めそうにないかもしれない。


「お嬢様方、美味しいお酒をありがとうございます。僕からもなにかお礼をさせていただきたいのですが、こちらの執事の黒ネクタイを使ってお戯れなどいかがでしょうか?」


「いいわ。それなら私にお願いできるかしら」


 ジュリがポッキーを1本掴んで口にくわえた。

 普通ならポッキーはチョコの方から食べ始めると思うけれど、ジュリはなぜだかチョコのかかっていない持ち手の方を口にした。


一十 いとお嬢様、かしこまりました。それでは、執事の黒ネクタイゲーム、失礼いたします」


 湊士みなとさんは恭しく一礼をすると、ジュリの席の横に跪きポッキーのチョコ側を咥えた。


「み、湊士みなとさん!? 何を……!?」


 ジュリの口に咥えられたポッキーを湊士みなとさんが反対側から咥えて食べ進めていく。

 お互いに顔の距離が近いのに、口を離そうとはしない……


 一体これは何をしているの……!?

 み、見ていられない……でも、ジュリはどうして動かないの??

 あれじゃそのうち……キス……しちゃうんじゃ……

 初対面の人となんて……そんなこと……


 パキッ!


「え?」


「ああ、申し訳ございません、一十 いとお嬢様。ネクタイが途中で折れてしまったようでございます」


「ううん、いいのよ、湊士みなとさん」


 今、明らかに湊士みなとさんからポッキーを折ったような……


「恐れ入ります。それでは、今度はつきお嬢様の番でございますね」


 そういうと、湊士みなとさんはポッキーを1本掴んで、ウチの席の横に跪いた。


「今度はわた、僕の方が持ち手の方で参りますね? よろしくお願いいたします、つきお嬢様……はむ」


 湊士みなとさん、ジュリの時よりも若干距離が近いような気がするけれど、気のせい……だよね?

 というかこれ、どうしたらいいの?

 ウチがこのポッキーを咥えるの??

 なぜ? どうして?


「えと……その……ごめんなさい!」


 ウチはポッキーの端に噛み付いて、顔を横に大きく振った。


 パキッ!


 割れた音がしたので、残りを食べてしまおうと口を動か……そうとした所で、顔の向かい側から手が伸びてきて、両頬をそっと包み込まれた。


 逃げ所のないウチの顔に、正面の人物の顔が迫る。

 何か言う暇はなかったし、予想もしていなかった。


「はむ」


 ……んんっ!!?


 ウチが咥えていたポッキーの半分ごと、ジュリに唇を奪われていた。


 口の中のチョコが、熱くなった口内の熱でとろけて甘味を一層際立てる。

 唇に触れる柔らかさが脳の奥にしゅわしゅわと甘い刺激を波立たせる。



 ポッキーって……すごい……


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