〔Side:Juli〕21. 空回り


 今日は、私にエスコートさせてね?」


 今日はシノンを完璧にエスコートする。

 待ち合わせ場所のカフェでゆったりお話して、コスメを見つつ適当なタイミングでランチをして、服や小物とかを見ながら、甘味を挟んでまた服を見て、良さそうなのがあればプレゼントとして買う。

 夜はディナーを予約してるからレストランでゆったりコースを堪能する。


 完璧なデートプランを練って、あとはそれを遂行するだけ。



 ――



 中までは良かった気がする。

 ランチまでは多分順調だった。

 この両手の重みが増えてからがもう……


 ……はぁ……はぁ……


「あの……ジュリ?」


 ……はぁ……


「なぁ……に、シノン?」


 ……はぁ……はぁ……


 シノンの声が少し遠く聞こえる。


 ……はぁ……


 先ほどからうるさいのは私自身の吐息の音。


 ……はぁ……


 それから歩くたびに両手に持った紙袋がかさばって音が鳴る。


「……ジュリ、疲れていませんか? 今日は買い物に付き合うつもりで来たので、ウチにも何か持たせてください」


「……はぁ……シノンは気にしなくて……はぁ……いいのよ……これは、私が買いたくて、買ったもの……なんだから……」


 新しいコーヒーミル、ミルクシェイカー、ホイッパーが入ったものと、ローヒールのミュールサンダルを色違いで2足。

 シノンが覗いていたウィンドウのマネキンが着ていたもの一式。これが本当にイレギュラーというか、シノンがこれを見て私に似合いそうって言ってくれたからつい大人買いをしてしまった。

 ほかにもまだ買いたいものがある。今日の本命はこの先の店だった。


「そんなに買いたいものがあるのに、どうしてウチに一つも持たせてくれないのですか? せめて片手分だけでも――」

「それじゃエスコートにならないじゃない……!」


 シノンが私の持つ紙袋に手をかけてきたので、思わず強い口調で言って避けるように距離をとってしまった。


「……」


 シノンは俯いて手を見つめていた。

 何か声をかけようとした瞬間、シノンの口が開いた。


「なんですか、それ……? ウチはそんなことしてほしいなんて、言ってませんよ?」


「なっ……!?」


 その一言に一瞬何か言い返そうとしてしまったけれど……その通りだった。


 "エスコートをしてシノンにお姫様気分を味合わせてあげたい、それで私のことをよく見てもらおう”


 そう意気込むあまり、シノン本人の意見を全然聞いていなかった。

 そのことにようやく気が付いた。


 何も言えずにいる私にシノンは手を差し出す。


「エスコートしてもらうより、ウチはジュリと一緒に……」


 すっと私の右手から紙袋をかっさらうと、その手にシノンの左手が添えられた。


「こうして手をつないで、一緒に歩きたいです……それでは、いけませんか?」


「……はふ……」


 口から変な声が漏れて、顔が瞬間的に沸騰する。

 シノンの手を握って、指を絡める。そんなことをいってくれたら、もう絶対に離したくない。


「そんな真っ赤にならないでください……! 我ながら、けっこうはずかしいこと言ったかもしれないので、こっちまで熱くなってきちゃいますから……」


「そ、そんなこと言われても……これは、絶対にシノンがいけないんですからね? あっつ、もうあっつ過ぎるので、少し休憩にします。そこのお店に入りましょう」


「そこでほんとにいいんですか?」


「今は休めたらどこでもいいの」


 目に付いた店の名前も見ずにシノンの手の感触を確かめながら店に入る。


「そ、そうですね。ウチ、こういうとこは入ったことないのですけど、ジュリとなら大丈夫、かも?」


 店に続く廊下には写真が貼られていたようで、シノンがキョロキョロと見回していたけれど、私は特に気にすることもなく進んでいた。


 店のドアに着く前に、お店のスタッフがドアを開けて待っていた。

 私とシノンはそのスタッフに会釈して中に入ると、数名のスタッフたちが私たちを見て、口を揃えてこう言った。


「お帰りをお待ちしておりました、お嬢様方」


 どうやら私も来たことのないような雰囲気のお店であるらしく、なんて返すのがいいのか検討もつかない。


 帰りを待ってたって何?

 どうして全員で声を揃えて……そもそも、どうして女の子が執事服を?


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