後で気づいた。あの涙は演技だった。

そこらへんの人

わざと泣いた

「泣いた?」

泣いた。今日、帰り道でね。

わざと泣いたのかも。


遠くの方を走ってる電車とか眺めたり、

地を踏み締めて歩いてる感覚に注意を向けてみたり、

茫然自失としたように少しフラついてみたり。

それで、帰って鏡見たら泣いてた。


でも私気づいたの。

自分にカメラ向けてたなって


自分が映画の主人公になったみたいに演出してたんだよ。

失恋して、もう周りの視線とかどうでも良くなって、吹っ切れて、帰り道、美しい夜景を背景に、カメラが私にピントを合わせる。家に帰ると、自分でも気づかないうちに涙を流していた。


はぁ、


滑稽すぎて、腹が立ってきた。


全部演出


ちょうどよく周りが暗くて表情が見えない状況。ちょうどよく周りに人があまりいない状況。人の目に自分がどう映るか気にしまくった上で今ならいけると思ったんでしょうね。

私の背景も綺麗なイルミネーションでもなんでもない。ただ小汚い居酒屋とかがあって、後は住宅街。全然ロマンチックじゃないのよ。大して都会でもない、ベッドタウンだし。


自分が、常に画面からはみ出ないように画角を調整する。

本当はめちゃくちゃ自分のこと客観視してるっていうオチ。

監督兼、カメラマン兼、主演。


自分の人生のうちで、大きく感情が揺さぶられた、!見たいなシーンって誰でも一個や二個はあるじゃん。例えば、私だって今まで映画で泣いたの一度しかないって言ったじゃん。

今思えばああいうのって全部、自作自演してたかもなって思っちゃってなんか冷めたのよ。


自分がやってることしょうもなくない?って思っちゃった。

そもそも私元から全然涙脆いタイプでもないし。


だから、わざと泣いてたかもなーって。


まあ、人間なんてそんなもんじゃない?

矛盾だらけでも、自分のこと受け入れて生きてくしかないんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

後で気づいた。あの涙は演技だった。 そこらへんの人 @popipopin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ