Story#0000:月が二つあるんだが
目を覚ますと、暗い部屋の中、見知らぬ天井が目に入る。 どうやら真夜中に目覚めたようである。
「おや、目が覚めたかな」
少し低めに聴こえる知らない女の人の声に振り返ると、そこには黒ずくめの女の人が一人、立っていた。
前髪を切り揃えた透き通った白髪に紅の目をした黒いロングコートの女の人だったが、どこか生きている存在ではないように感じた。
名前を訊ねると、先に名乗るのが礼儀だと言われた。自分の名前は、何だっただろう。何だか頭に靄がかかっているようだったが、思い出せないほどではない。
「僕は・・・・・・"モリ・アキラ"です。木が三つの"森"に、王偏の"玲"で"森玲"」
「私は"縁の人"シーナ・D。訳あって人の生死に関わる仕事に携わる者の一人でな。其方ら人間からは、“死神”と呼ばれている」
死神。僕は死んだのだろうか。ぼんやりとそう頭に思い浮かべると、考えを読み取ったかのように、女の人は首を横に振った。
「其方は死んではいない。ただ、“まだ生きる”と思ったから、ここへ運んだのだ」
「ここは、どこですか?この部屋は、何ですか?」
僕の質問に、女の人は穏やかな声で答えた。
「“パラレル311”という、数多の世界分岐先の一つだ。いわゆる“異世界”や、“並行世界”と呼ばれる世界の一つだな。この世界にはWSA──World Security Agencyという政府機関があって、太陽系全域に文化圏を拡げた人類社会を統治している。同時に彼らは奇妙な特性を持つ存在と共存を図るために、研究を続けているのだ」
何となく読めた。僕はその“WSA”という組織に捕まっているのだ。元の世界に戻ることは出来るだろうか。
女の人は微笑む。
「まぁ、この世界を楽しむことだな」
窓の外の月は、異様なほど大きかった。
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AE‐323425
説明:特異性を持たない異世界人。
発見:2031/11/26、サイト‐4056の中庭に転移。
現状:サイト‐4056にて収容中。
注意:少々精神面での混乱が見られる。
追記:転移前の記憶はほとんどないようです。──パーソネル八雲
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