Story#0000:記憶の中の友人
僕の妹には奇妙な友人がいた。同じクラスで、隣の席だったのだという。いじめられていたところを助けられたのだと、何度も感謝された。
妹には、良い意味で空気を読まない所があり、またその場の空気を一瞬で変える不思議な力があった。だから、何とも思っていなかった。
ある日、図書館の屋上に呼び出されて、僕は彼にこう言われた。僕は、あなたの妹のことが好きです。一緒に死にたいくらい、好きなんです。その言葉に、僕は何と返したのだろう。思えば彼は手すりの向こう側にいた。
覚えているのは、彼が青ざめた顔をして飛び降りたことだ。奇妙なほどに、時間がゆっくり進んでいくその刹那、落下していくその姿だけが脳裏に焼き付いている。
──────
何度目かの、同じ夢の世界にいた。果てなどないように見える鏡のような地面に、無数の星が映り込んでいる。
その空は塗りつぶされたように暗く、目の前には一つの空の玉座がある。ここに座れ、と言っているかのように。
玉座には、豪奢な王冠が一つ、置かれていた。主のない、玉座と王冠。僕は引き寄せられるようにその王冠を手に取る。
主を探していたその王冠を被って、玉座に座る。特に何も起きなかったが、なぜか充足感があった。その充足感の中で目を閉じる。
このまま目を閉じていよう。ずっと、ずっと・・・・・・。
「おはようございます、ダルーカ様」
嫌味なほどに礼儀正しいその声に目を覚ます。仮面のような笑みを浮かべた男が、部屋のドアの前にいた。
ダルーカ。自分の名前は“ダルーカ”だっただろうか。
──────
P.P.C‐517083
概要:2031/11/26、サイト‐4056の中庭に人間(ホモ・サピエンス種、十七歳男性、扶桑系と英国系のクォーターと思われる。以下、対象と呼称)が転移してきた。調査によってパラレル461世界からの転移であることが分かった。対象に特異性は確認されていない。
追記:発見時、対象はアンティーク調の鍵ひとつを所持していた。これを以後Peculiarities Objectと見做す。特異性の有無や詳細については判明していない。
──────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます