第5話

祭りの後、典子は明日菜と別れ、結と共に氷雨家に戻った。結と明日菜と回った祭りはとても楽しく、典子にとっては、良い思い出となった。律子のことが気がかりではあったが、もう律子は記憶を消され、自分のことを覚えていない。そう思うと、悲しくはあるものの、少し、ホッとしたような気持ちもあった。


そして、その次の日のこと。


朝から典子は、雪と弓から、氷雨家の離れに呼び出されていた。結は学校があるため、典子よりも先に家を出ていった。


「ほら、典子ちゃん。入っていいよ。」


「……は、はい。」


弓は部屋の襖を開け、典子は一歩足を踏み出す。そこには、雪が既に座っており。周りには、2人の壮年の男性。1人の年老いた男性、そして、若い1人の女性が、雪を囲むようにして座っていた。きっと、華玖継村の重鎮達だろう。


「…あぁ、典子ちゃん。おはよう。朝から呼び出して悪いね。さぁ、私の隣に座っておくれ。」


「……あ、おはようございます。雪さん。わ、分かりました。」


典子は緊張しながらも雪の隣に用意された座布団に座る。周りの男女は珍しそうに典子を見ており、典子は少しその視線に気まずくなり、俯いてしまう。


「……じゃあ、始めようとするか。えぇ、今日は朝からわざわざ皆ありがとうな。集まって貰ったのは他でもない。儂の隣に座っとるこの女の子。典子ちゃんっち言うんやがな、この子は、列記とした倉橋の血のもんなんや。神様のお導きや…。……今日、やっとこの村に、倉橋の血のもんが帰ってきたんや!!これは、華玖継村にとって喜ばしいことや!!」


雪が感慨深そうな表情で告げると、4人の男女は表情を明るくして手を叩く。


「やっとやんな、お雪さん。」

「良かったですね。これで、華玖継村の六つの名家がまた揃いましたね。」

「いやぁ、これでやっと丸く収まりましたなぁ!」

「おめでたいですね。とても。」


典子は自分が、村に勝手に入ったことを村の重鎮達の前で裁かれるのではないかと疑っていたが、この村の重鎮らしき人物4人は、意外にも、自分を歓迎してくれているようだ。


「あぁ。本当にめでたいことや…。じゃあ、お前ら。典子ちゃんに挨拶したってくれ。」


雪が言うと、4人は優しい表情を浮かべて典子を見る。まずは、白髪の年老いた男性が声をあげた。


「典子ちゃん。儂は厚木家頭首、厚木六雄っち言うもんじゃ。よろしくな。厚木んじいちゃんって覚えてくれればいいわ。八尋っち言う孫がおるんやけど、典子ちゃんの1つ上や。仲良くしちゃってな。」


その次に、若い女性が咳払いをし、典子を優しく見つめる。


「…美門今日子って言います。美門家頭首で、明日菜の母です。明日菜から典子ちゃんのことは聞いていますよ。新しい友達が出来て、明日菜はとても嬉しそうでした。これからよろしくお願いしますね。」


その次は、明るそうな男性が声をあげる。


「俺は本城勝。本城家頭首だ!よろしくな!本城精肉店って肉屋をやってる。息子が同級生だから、よろしく頼むな!」


最後に、穏やかそうな男性が口を開く。


「僕は金井剛。金井家頭首です。この村で分からないことがあったら、何でも聞いてね。金井商店って言う店をやってるから、放課後とか、いつでも来てね。あ、あと、僕にも、聡って言う息子がいて、年は、典子ちゃんの1つ上だから、よろしくね。」


4人の各名家の現頭首達から好意的に受け入れられ、典子は少し気が緩み、ホッとしたような表情を浮かべる。そして、自分も立ち上がると、頭を下げて自己紹介をする。


「……え、えっと……倉橋典子です!よろしくお願いします!き、昨日は……勝手に村に入ったりしてすみませんでした!」


典子の謝罪を、頭首達は素直に受け入れる。


「典子ちゃんは帰るべき場所に帰ってきただけや。何も悪いことはしてないよ。」


「そうですよ。典子ちゃん。お帰りなさい。」


「渉が知ったら喜ぶだろうな!こんなしっかりした可愛い子が村に来たって知ったら!」


「典子ちゃん、華玖継村は、君の本当の居場所。何にも気にすることはないんだよ。」


頭首達は、優しく典子に言葉をかけてくれる。典子はそれが嬉しかったが、1つ引っ掛かる所があった。


「……え?そ、その……私を受け入れてくださって、とても嬉しいんですが……華玖継村が……私の本来の居場所って……。」


典子は再び座布団に座ると、隣の雪を見る。


「…その通りのことや。典子ちゃん。典子ちゃんは今日から華玖継村に住むんやから。当然のことや。」


「……今日から華玖継村に住む……?」


典子は雪の言葉と、その言葉に頷く頭首達に驚いて目を丸くする。


「……え?わ、私……その……町に帰れないんですか?」


「……あぁ。典子ちゃんには長年頭首の座が空いておった倉橋家の頭首になってもらわんといけん。やっと倉橋の血のもんが戻って来たんや。ここで帰す訳にはいかん。心配せんでいい。衣食住は保証するし、倉橋の家も、儂と弓でよく掃除に行っておったから綺麗なまんまや。」


「……そ、そう言うことではなくて!その……私……両親に何も言わずに、律子とここに来てしまって!き、きっとすごく心配してます!」


雪は弓に目配せをすると、弓は襖を開ける。


「……その両親ってのは、この人達のことだろう?典子ちゃん。実はね、昨晩、あんたの友達を町に帰すために、村の男衆の車で、私は町に降りたのさ。その時、娘が帰ってこないって慌ててる男女を見つけてね。私はすぐに、それがあんたの両親だって気づいたのさ。あんたの両親ってことは、この人達も、倉橋の血のものってことになるからね。事情を話して、村に連れてきたのさ。」


弓の後ろから、父と母が出てくる。


「典子!!良かった!!」

「弓さんが保護してくれてるって……典子は無事だって聞いて…!もう!勝手なことして!」


「……お父さん……お母さん!!」


典子は涙ぐみながら両親に抱き付く。


「……典子ちゃん。良かったなぁ…。これで、また両親と一緒に暮らせるな。…それにしても……お前。若い時の義郎にそっくりや……。」


雪は典子の父、一郎を見て目を細める。一郎は、毅然とした態度で雪に向き直る。


「……氷雨……雪さん。初めまして。父の、幼馴染みだとか…。典子のこと、ありがとうございました。父は、自分のことを、全く語らない人だったんです!!お願いします!!この村の話を……父の話を教えてください!!」


一郎は雪に頭を下げる。


「……良いだろう。弓、そこに二枚座布団引いておくれ。これから、義郎の話を、典子ちゃん達一家にするからね。」


「…はい。お母様。」


そして、準備が整うと、雪の口から、祖父、義郎の話が紡がれ出す。


「…義郎は…倉橋家頭首になるはずの男だった。だが……村から逃げ出したんじゃ……。あれは……儂と義郎が……20歳の時じゃった……。」


第5話終

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