第2話

あの後、家に帰って私服に着替えてから、典子と律子は先ほどの路地で落ち合った。そして、律子の持ってきた地図を片手に、華玖継村へと、2人は出発した。


「…律子…やっぱりこの山不気味じゃない…?引き返すなら…今の方がいいと思うんだけど…」


出発した時はまだ空は明るかったものの、途中道に迷って、出発して2時間も立ったために、辺り一面はもう真っ暗だった。


「…ねぇ、もう…かなり暗いよ?律子…。」


「…はぁ?ここまで来て何泣き言言ってるわけ?黙って着いてきなよ。さっきは確かにちょっと迷っちゃったけど、村までもうちょっとだから。…ほら、山の上に灯りが見えてきたでしょ?あれがきっとお祭りの灯りだよ。」


「…本当だ…。」


律子の指差す先には、確かに色とりどりの灯りが見え、お祭りの太鼓の音が段々と近くに聞こえてくる。


「…あ!ほら!開けた道に出たよ!」


「…え?……わぁ……!」


「…何これすごい…!」


典子と律子は、目の前の幻想的な風景に引き込まれるようにして歩みを進める。村の入り口には、『神の里祭り』と書かれた立て看板が置かれている。


「…りんご飴に焼きとうもろこし…たこ焼きもあるよ!」


「…かき氷…焼きそばも…。」


絶対に立ち入ってはいけない村。華玖継村は、そう呼ばれ、伝説として語り継がれているはずなのに…。

今、私達の目の前には、色とりどりのぼんぼりの灯りが燃え、きらめき、太鼓の音は遠くまで響く。様々な屋台の良い香り、村人達の楽しそうな声…。

典子には、どこからどう見ても、この村が、禁忌を破って立ち入った者を罰し、生け贄にして殺すと言う、悪しき風習が残った、恐ろしい村だとは思えなかった。


「…ね?典子。やっぱりあの伝説嘘だったでしょ?昔の話は本当だったとしても、今は違うんだよ!ほら!せっかくのお祭りなんだから、何か食べて楽しもうよ!」


「…うん!そうだね、律子!」



その瞬間だった。

典子と律子の首に、ヒヤリとした感触の何かがあたる。


「…え?」


「…は?」


後ろを振り返ると、2人の初老の男性が、典子と律子、それぞれの喉元に短刀の刃先を軽く押し付けていた。


「…い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「…え、な、何?ど、どう言うこと……!?」


律子は突然の恐怖に怯えて叫び、典子は状況が理解出来ずに唇を震わせる。


「…お前ら。この村で見かけん顔やんなぁ…。もしかして、よそもんか…?」


男性の低い声に、典子も律子も声が出ない。


「…答えられんっちゅーことは、やっぱりよそもんなんやな?」


「…あの伝説を知らんかった訳ねぇよな…。なぁ…亜代のもんよ…。」


「…ッッ…!!!」


「…こ、この人達…。」


男性達は、典子と律子が、亜代町の人間だと言うことを見抜いていた。典子はそれに恐ろしくなり、顔を真っ青にして唇を引き結ぶ。先程まで強がっていた律子は、隣で大泣きしてしまっている。


「…おい!村のもんや!!この神聖な神の里祭りに、よそもんが紛れ込んじょったぞ!!しかも2人も!」


「…亜代のもんじゃ!この華玖継村の禁忌を破るもんは、大昔から亜代のもんって決まっちょん!!さぁ退いた退いた!よそもんが通るぞ!!」


「…よそもんだって…?なんて罰当たりな…。」

「神聖な神の里祭りを汚しやがって…。」

「女の子2人…。きっと、これから婆様の所に連れてかれるんやなぁ…。」

「可哀想やけど…村の禁忌を破ったら…無事には帰れんわな…。」


村の人々の低く、嘲るような声がそこら中に響く中、典子と律子は喉元に短刀を押し付けられたまま、男性達に手首を捕まれ、どこかへと連れていかれる。律子はずっと大声を上げて泣き、典子は恐くて声が出ない。


「…お前らはこれから、この華玖継村の里長である、婆様の元で裁きを受ける!!覚悟しとけ!!婆様は絶対にお前ら2人を許しはしない!!」


「…そ、そんなの嫌だぁぁぁ!!」


「…ご、ごめ……ごめんなさい……。」


「今この場で言い訳なんか聞かん!!分かったならさっさっと歩け!!罰当たりもんがぁぁ!!」




『うわぁ…ヤバイね。婆様の所に連れていかれちゃってるよ…!』


『…どうしよう…。きっとお婆ちゃん、すっごく怒る。あたし達と同い年ぐらいの子だったよね…?酷い目に遭わなきゃいいんだけど…。』


『よそもんは殺されるんだろ?それが昔っからの掟なんじゃねぇの?しかも、きっとじゃなくて、婆さん絶対怒ってるって!よりによって、お祭りの日に忍び込まれてるしな。』


『バーカ。いつの時代の掟だよ。さすがの婆様でも、殺しはしないだろ。まぁ、爪の一枚や二枚はもしかしたら飛ぶかもしれないけどな。』


『…でも、可哀想だよね。こんなことぐらいで裁かれるなんて…。祭りぐらいは、よそ者でも、入ってOKにすればいいのに…。』




典子と律子は結局、逆らうことも出来ず、男性達に連れていかれながら、村人に、罰当たりと、陰口を叩かれる。2人の心は、既にもうボロボロだった。何も喋れず、顔を青く濁らせたまま、ただ歩いていく。



「…ほら、着いたぞ!!」


「…婆様!!よそもん2人を連れてきました!!」


連れてこられたのは、大きなお屋敷。入り口には、『氷雨』と、書かれている。


『…おぉ…連れてきたんか…ご苦労やったなぁ…。じゃあ、始めるとするかの……裁きの時間を…。』



「…え…え…。」


暗い部屋の奥から、ギシギシと床に足音を響かせ、現れたのは、白髪のシワだらけの老女だった。真っ暗な空間に、その大きく見開いた目だけが、ギラギラと輝いている。



『…罰当たりもんは、この氷雨雪が、神の元に送り届けてやるわ!!!!』



第2話終

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