華を継ぐ者達
菜っぱちゃん
第1話
どうして……こうなったの?
捕まるなんて聞いてない……
だから……言ったのに……
" 絶対に入ってはいけない村"になんて……面白半分で行かない方がいいって……。
- 1975年 夏 -
「…ごめんな。典子。父さんの転勤で、急にこんな田舎に引っ越すことになって…。」
「…ううん。大丈夫。別に…私、都会…好きじゃなかったし。」
古びた車の後部座席に揺られながら、父の言葉にポツリと呟く1人の少女。彼女の名前は倉橋典子。高校1年生。典子の父は、建築関係の仕事をしている。だが、この度、古民家を改築するプロジェクトの一貫で、その責任者である父は、現地に赴くことになり、典子も母も、共に着いていくことになったのだ。
「…あなた。ここじゃないかしら?ほら、亜代町って立て看板があるわ。」
「…おっ。本当だ。ようやく着いたな…。でも、東京から出発して丸一日かかったな。」
「典子?ここが今日から住む町よ?なかなか綺麗な所じゃないの。ほら、東京よりも自然が多いわ。」
「…空気が綺麗…。排気ガスの匂いなんてしない…。なんだか…心が洗われる気分…。」
典子は車の窓を開けて、少し身を乗り出し、自然の柔らかで澄んだ空気を思いきり吸い込む。排気ガスの匂いも、うるさい人々の声も聞こえない。蝉の鳴き声、川のせせらぎ、草花の囁き…。聞こえてくるのは、どれも自然の産声だった。
「…お父さん、お母さん。私、ここが気に入りそう。こんなにちゃんと息が吸えたの、初めてかもしれない。」
娘の久しぶりに見る穏やかな笑顔に、両親は微笑む。
「…そうか…。良かった。」
「…空気が綺麗な場所だと、自然と心も、いつもよりも穏やかになるわね…。」
それから、車はのどかなあぜ道を走った後に、家が立ち並ぶ集落にたどり着いた。新しい典子達の家は、古いながらも味のある民家で、典子は一目見て気に入った。そして、夜。
「…典子?それそろ寝なさい?明日から学校でしょ?」
「うん。えっと…家から近いんだよね。新しい学校。…亜代高校…。友達…出来ればいいけど…。」
その次の日、典子は転校初日を迎えた。クラスメイトはたったの13人。その中で、典子は1人の明るい少女、高橋律子と仲良くなった。フレンドリーな律子は転校してきたばかりの典子にも優しく接し、2人はすぐに良い友達となった。学校にも慣れてきたぐらいのある日。放課後、律子からとある話が出た。
「ねぇ典子。この亜代町に伝わる怖い話知ってる?"華玖継村"の伝説ってやつ。」
「…カグツギムラ…の…伝説?」
「そう。華玖継村の伝説。…実はね、ほら、あそこに見える大きな山があるでしょ?あの山を越えたら、そこに、人里離れた1つの大きな集落があるらしいの。それが、華玖継村。ここよりも自然と空気が綺麗で、神々に愛された土地って言われてるんだって…。」
「…へぇ。山の向こうに大きな集落か…。でも、何でそれが怖い話なの?聞いたところ、綺麗な村落の話だけど…。」
典子が聞くと、律子は立ち止まって、緊張と好奇心が混ざった顔でこっちを見てくる
「…華玖継村には、絶対に立ち入ってはいけない。」
「…え?それって…どういうこと?」
「すごい昔に、村に興味本位で立ち入った人間が何人もいたらしいんだけど、誰一人、町には帰ってこなかったんだって…。伝説では、村の禁忌を破って立ち入った者は、神々の生け贄にされて、殺されちゃうらしいの。」
それを聞いた典子は、身体中に悪寒が走り、一歩後退る。
「…でも、それって…大昔の話なんでしょ?」
「うん。一応伝説だよ。でもね、あたしのおばあちゃんが言ってた。華玖継村には、今でも村の一族が住み着いてて、お祭りとかも、盛んに行われてるって…。それでさ、今日、ちょうどそのお祭りの日らしいの!」
「……お祭り…?」
「…うん。おばあちゃん言ってた。華玖継村のお祭りは…絶対に、7月10日にあるんだって…。つまり、今日ってこと。だからさ、行ってみない?…2人で。気になるでしょ?典子も…。華玖継村のお祭り…。」
「…じ、冗談でしょ…。律子…。だって…村に入ったら…殺されちゃうんでしょ?面白半分で行かない方がいいよ……!」
「…でもさ、お祭りだよ?私服で入り込めば、よそ者だってバレないよ…。」
「…で、でも律子!やめようよ!もし……本当に殺されちゃったら…。私、嫌だよそんなの!」
典子は拒否するが、律子は楽しそうな顔をしている。
「……大丈夫だよ。典子。あたしがついてるからさ。あたし、これでも陸上部だよ?いざとなれば典子抱えて逃げるからさ。ね?お祭り行こうよ!」
「…で、でも…。」
『あたしの誘いを断るって言うの?転校生のくせに。断ったら、あんたの悪い噂流すよ?東京からこの町悪い形に作り替えようとしてきた家族の娘だって。いいの!?転校してきたばっかでそんな噂流されても!』
律子は急に豹変し、目を大きく見開く。典子はそれに恐ろしくなり、冷や汗を一滴流し、首を縦に振ってしまう。
「……分かかったよ…。行くよ。……律子。」
「やったー!典子最高ー!多分村の人達いい人だよ!だってさっきの話ただの伝説だもーん!」
律子はさっきの恐ろしい様子から一変し、元に戻る。
「……そ、そうだよね…。伝説……だよね。」
「じゃあ!後で!服着替えてからここに集合ね!バイバーイ!」
「……あ、うん。後でね……律子。」
私は、この先に起きることを、まだ何も分かってなかった…
「何で…。もっとはっきり断らなかったんだろう。」
きっと……怖かったからだ……
友達を失くしたくなかったから……
綺麗で穏やかな空気と風が流れる夕暮れの道
心はびっくりするぐらい重かった…
第1話終
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