第7話 退院(1)

 とあるアパートの前、一台の救急車が止まっていた。ちらほらと近隣の住民が遠巻きで様子を伺っている。そのアパートの一室であるユキさんの部屋。救急隊員の黒田が“鎖骨”の件など事情を説明した

「信じられるものですか!そんな事をする医者がどこにいるのよ!」

ユキが声を張り上げた。黒田は黙って紙袋から一本の骨を差し出した。

“ところがここにそんな医者がいるのよ”

と油性のマジックで記してあった。広田女医からの伝言だった。人骨らしい。それを見るとユキも心が揺らいだ。

「でも、だからと言って私にまで内緒にしておくことないじゃない!」

すると黒田がまた、紙袋から一本、骨を差し出す。

“分からないの?アナタが彼の骨を拾う親族になると信じているから、彼は言い淀んだのだわ。火葬までサプライズをとっておきたかったのよ”

それを読みユキはハッとした。

「ああ!そうか、そうなのね。ユキオさんったら。」ユキの目に輝きが戻った。

「どうしよう?アタシ。」

“二日後の正午に退院させます。アナタが迎えに来てあげて。まだ手助けが必要よ”

次の骨の伝言だ。

「そうね。そうします。そう伝えて。」

「分かった。」黒田隊員がうなずいた。

「でも、アンタ、免許停止だろう?俺が救急車で迎えにきてやろうか?」

「ありがとう、黒田さん。でも、救急車は本当に必要な人の為に使って。自分でなんとでもします。」

「そうだな。」

「皆さん。優しい方ばかり。本当にありがとう。その女医さんともお友達になれそう。」

“わたしも”そう記した骨を渡される。

ここまでくると、つい試したくなる。

「……袖すりあうも。……」

“多少の縁”(骨)

「月に代わって。……」

“お仕置きよ”(骨)

「もうやめよう。まだ袋に骨、残っているけど俺、段々怖くなってきた。」

「アタシも。」

ここで、あえて書くなら広田女史も凄いが、紙袋から的確に答えの骨を選び出す黒田の好アシストも評価されて良いだろう。


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