第4話 面会(2)

 あっという間に夕食の時間が来て食事が運ばれてきた。持ってきた看護師さんが普段は手の使えない僕に介護スプーンで食べさせてくれるのだが「今日は私、その必要がなさそうね。」と言って冷やかした。そしてユキさんに向かって

「少しずつ、ゆっくり食べさせてくださいね。」と言って出て行った。

ユキさんから食事を食べさせてもらえる!ユキさんが「アーンして。」等と言いながら僕の口にスプーンで食べさせてくれるのだ。この際、思い切り甘えてみたかったので僕は照れながらも喜んだ。

「じゃあ食事にしましょうね。」ユキさんは僕の上体を起こしてベッドに座らせると背後に回って座った。不思議に思っているとシーツを頭からすっぽり被り僕の背中に密着した。二人羽織りの要領で僕に食べさせるのだ。どうしたらそういう発想になるのだろう?

僕は必死に食器の位置関係を説明したが、おかゆをぶちまけたり、やっとすくったスプーンを僕の鼻に注いだ。

「アチチ!ユキさん、そこは鼻。口は少し下!」

「ごめんなさい。あたし、人に食べさせるってしたことがなくて。」

「そうでしたか。でも全然大丈夫です。」

そう、何故ならユキさんの身体が僕の背中に密着し胸の膨らみを感じていたからだ。ユキさんの顔が僕の首筋辺りにあり、ユキさんの髪の毛がくすぐったかった。甘い香りと時々、シーツをかぶっているから息苦しいのか、あえぎ声になる。僕は本来、モラルを大切にする男だと思うが、好きな女性にこんなことをされたらたまらない。食事を終える頃には僕はすっかり理性を失っていた、

「ユキさん。僕、もう我慢できません。」

振り向いて押し倒したかったが身体がいうことを聞かない。ぐるぐる巻きにまかれた両手を見ながら言った。「僕、このままじゃ、今晩寝れません。なんとかしてください!」彼女は大人だし僕に好意を持ってくれている。言っていることは分かるだろう。幸いここは個室だ。

 彼女は二人羽織のまま右手を僕の股間をまさぐってその硬くなった状態を確認した。

「分かったわ。アタシが責任もって元に戻してあげる。」

「ホ、ホントにいいんですか?」

「横になって。」

僕は眼をつぶりドキドキして彼女の愛撫を待っていると

彼女が僕に添い寝して耳元でそっと囁いた。

「これは看護師の体験談ね。ある日の深夜、宿直の私が霊安室の前を通ると、そこからうめき声が……」

「え?え?」

「次の話。“恐怖・病室の隅に立つ老婆の霊”」

彼女は自分の持参した『病院で起きたホントの怖い話』の恐怖体験談のページを読みだしたのだ。

「ちょっと待って。思っていたのと違う!」

身動きできないまま読者の恐怖体験談をさんざん聞かされ、怖がりの僕はすっかり素に戻り、いろいろと縮みあがってしまった。

面会時間終了の時間がきた。

「良かった。すっかり元に戻っている。これでゆっくり寝むれるわね。」僕の股間を見てユキさんは満足そうにして帰り支度を始めた。

「ちょ、ちょっと待って。僕を一人にしないで。」

「じゃあ、お大事にね。」

そう言って彼女が帰った後、消灯時間となって明かりが消えた。

(やっぱりユキさんってどうかしてる!)

別の意味で眠れなくなった僕は、ちょっとした物音にも敏感になって一睡もできず一晩じゅう震えていたのだった。

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