第3話 丑の刻参り

 丑の刻参りを検索する。驚いたことに、丑の刻参りに必要な物は、すべて通販でそろうのだ。


 藁人形。

 五寸釘。

 ハンマーに軍手。

 果ては「呪い用の護符」とまで銘打たれたものまで、通販で届くのだ。


 藁人形に入れる写真なら、いくらでもあった。

 恋人と親友――そう信じていたから、笑顔で並んで写った写真が山ほど残っている。

 ……偽りの恋人であり親友だったけれど。


 そして、白装束の代わりに私が選んだのは、クローゼットの奥にしまわれていた純白のウェディングドレスだった。

 本来なら、結婚式に着るはずだった衣装。

 その純白のドレスは、呪いのための衣となる。


 胸の奥で、黒い炎が静かに燃え盛っていた。

 

 ――丑の刻参りは、どこの神社で行うのだろう。

 さらにネットで調べる。

 すぐに出てきたのは、京都の貴船神社。

 そこが丑の刻参りの発祥らしい。

 けれど、夜中に抜け出して行くには遠すぎる。


 さらに検索を重ねる。

 驚いたことに、貴船神社は全国に五百か所もあるという。


 人目につかない神社。

 誰にも邪魔されずに、思う存分、呪いをかけられる場所。

 グーグルマップを開き、ひとつずつ調べていった。


 住宅街にある神社は駄目だ。

 観光客が訪れる有名な神社も駄目。

 街灯が近くにある場所も避ける。


 何百もの候補を消していき、ようやく――見つけた。

 地図の片隅にひっそりと残る、名ばかりの貴船神社。

 鳥居は朽ち、境内は雑草に覆われ、人影もない。

 ここなら、誰にも見られることなく呪いを遂げられる。


 数日のうちに、必要な物がそろい、パソコンの画面に映るその場所を見つめながら、私は息を整えた。

 今日は四月十四日。 受死日じゅしび 現代ではすたれてしまったが、大凶日に当たる日。決行するなら今夜しかない。


 四月の夜は思いのほか冷える。

 ウェディングドレスの上に、トレンチコートを羽織った。

 

 夜中に車を走らせる。

 片道二時間。県境近くの山奥へ。

 窓の外は闇に沈み、道を照らすのはヘッドライトだけだった。


 ようやくたどり着いた神社は、雑草に覆われ、荒れ果てていた。

 鳥居は傾き、石段には落ち葉が積もり、誰も寄りつかぬ場所。

 車のライトを消すと、あたりにはわずかな月明かりしかなかった。


 真の暗闇。

 風もなく、虫の声さえしない。

 不思議と怖いとは思わなかった。


 ライトで境内を照らす。

 荒れ果てた社殿、倒れかけた石灯籠、伸び放題の雑草。

 長いあいだ人々から忘れられた神社には、良くないモノが集まっているという。

 ここは、神に見放された場所。


 ――まるで、私自身のよう。


 視線が一本の古木に吸い寄せられる。

 苔むした木は、藁人形を打ち付けるのにちょうど良かった。

 「あ……ここだ」

 思わず声が漏れる。


 トートバッグを下ろし、中から藁人形、五寸釘、ハンマーを取り出し、さらに鉄輪を取り出す。本来なら三本のろうそくを立てるはずだが、代わりに頭にスカーフを巻き、小型の懐中電灯を両側に一本ずつ結わえつける。ふふ…津山30人殺しの犯人と同じ…

 暗闇の中に、人工的な光がゆらめいた。

藁人形を木の幹に押しつけ、まずは口の部分に五寸釘をあてがう。

 「嘘をつく口は要らない……」

 コーン……コーン……。

 ハンマーの音が、夜の闇に乾いた響きを放つ。

 この口で友情を語り、そして和也に愛を囁いた。

 許せない。憎い、憎い、憎い――。


 次に、藁人形の腹へと釘を突き立てる。

 「瓜生絵梨、お前は妊娠しているんだろう? それを盾に和也を奪ったんだろう?」

 力いっぱい、打ち込む。

 コーン……コーン……。

 許せない……許せない……!


 最後に、心臓の位置へ釘を押しあてる。

 「心なんて、潰れてしまえばいい。私のように……」

 カーン! 甲高い音とともに釘が深く突き刺さる。

 藁人形は幹に打ち付けられ、まるで本当に血を流しているかのように見えた。


 胸の奥の空虚さは、ますます広がっていくばかりだった。

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