第3話
終わらない物語
酒呑童子は、俺の護符が降りたのを確認すると、満足そうに笑った。
「そうこなくっちゃ。じゃあ、まずはこの街の歴史から話そうか」
酒呑童子は、まるで歴史の先生のように語り始めた。
「この街は、かつて、私の力が封印された場所だ。私の力が完全に封印されていれば、こんなことにはならなかった。だが、封印は不完全でね。ほんのわずかな力が、この街に漏れ出した」
酒呑童子は、そう言って、空を見上げた。
「その力は、人々の心の闇に巣食う。そして、その心の闇が、私の力を増幅させる」
「…それが、いじめや、呪術師の噂に繋がったってことか?」
俺がそう尋ねると、酒呑童子は頷いた。
「そうだ。そして、その力の多くを手に入れたのが、あの業鬼、鈴村健一だ。彼は、元々、強い孤独感を抱えていた。その孤独感が、私の力と共鳴し、彼は『呪術師』になった」
酒呑童子の言葉に、俺は納得した。鈴村は、あのクラスで、いつも一人でスマホをいじっていた。あの孤独な姿は、俺が探偵事務所で一人でいる姿と、どこか似ていた。
「…じゃあ、千恵は…?」
俺がそう尋ねると、酒呑童子は、フッと笑った。
「彼女は、君を呪いの世界から遠ざけようとしていたんだよ」
酒呑童子の言葉に、俺は信じられない思いで酒呑童子を見つめた。
「…どういうことだよ」
俺がそう言うと、酒呑童子は、ゆっくりと語り始めた。
「彼女は、君の父親が消息を絶ってから、君が一人で探偵事務所を切り盛りしていることを知っていた。そして、この街に蔓延する私の力に、君がいつか巻き込まれることを恐れていたんだ」
「…だから、どうして…」
「だから、彼女は、君を呪いの世界から遠ざけるために、自ら呪術師になったんだ。彼女は、私の力を使って、君が巻き込まれそうな事件を、裏で解決しようとしていた。君が依頼を受ける前に、ね」
酒呑童子の言葉に、俺は息をのんだ。千恵が、俺を助けるために、そんな危険なことをしていたなんて…。
「…じゃあ、沙耶のいじめは…?」
俺がそう尋ねると、酒呑童子は、悲しげな顔をした。
「彼女は、私の力に魅入られた生徒の一人だ。彼女は、いじめの標的になることで、私と直接繋がってしまった。そして、彼女のいじめがエスカレートした時、千恵は彼女を救おうとした。だが、鈴村に気づかれ、彼女は共犯者に仕立て上げられたんだ」
酒呑童子は、そう言って、俺の肩を叩いた。
「さあ、これで、君が知りたかったことは、すべて話した。後は、君がどうするか、決める番だ」
酒呑童子は、そう言って、俺に選択を迫った。
語られた真実の先に
酒呑童子の言葉に、俺はただ立ち尽くしていた。千恵が、俺を助けるために、そんな危険なことをしていたなんて…。そして、鈴村も、ただの孤独な少年だったなんて…。
俺は、頭の中で、酒呑童子の話を反芻する。すべてが、まるでパズルのピースが埋まるように、繋がっていく。
そして、俺は、一つの疑問を酒呑童子にぶつけた。
「…なんでだ。なんで、俺に、そんなことを話した?」
俺の問いに、酒呑童子は、面白そうに笑った。
「君は、私の邪魔をするつもりだったんだろう?なのに、どうして、知りたかった事実を、あっさり教えてくれたんだ?」
俺の言葉に、酒呑童子は、ゆっくりと俺に近づいてきた。
「…ふふふ、決まってるじゃないか」
酒呑童子は、そう言って、俺の顔を覗き込んだ。
「君が、私の『物語』に、興味を持ったからだよ」
酒呑童子の言葉に、俺は息をのんだ。
「君は、真実を知りたがっていた。そして、私は、その真実を教えることで、君を私の物語に引き込む。これ以上ない、最高のシナリオだろう?」
酒呑童子はそう言って、俺の肩を叩いた。
「さあ、この物語は、まだ始まったばかりだ。君が、どう動くか、楽しみだよ」
酒呑童子は、そう言って、闇夜に溶けるように、姿を消した。
俺は、一人、その場に立ち尽くしていた。
酒呑童子の言葉が、俺の頭の中を駆け巡る。千恵のこと、鈴村のこと、そして…俺自身のこと。
俺は、酒呑童子の『物語』に、引き込まれてしまったのか?
俺は、ただの探偵兼陰陽師だ。だけど、この事件は、俺の想像を遥かに超えていた。
「…絶対に、お前の好きにはさせない」
俺はそう呟き、千恵の真実を確かめるため、そして、酒呑童子の企みを阻止するため、再び歩き始めるのだった。
探偵の新たな道
酒呑童子と別れ、俺は一人、夜道を歩いていた。
酒呑童子の言葉が、頭の中でぐるぐると回っている。千恵が俺のために危険なことをしていたこと、そして鈴村もまた、孤独な少年だったこと。そして、この一連の事件が、すべて酒呑童子の不完全な力によって引き起こされたという事実。
俺は、自分の無力さを痛感していた。もし、もっと早くに気づいていれば、もし、もっと強ければ…。
「くそっ、このままじゃ、いつか俺も、千恵も…」
俺は、強くなければならない。酒呑童子の**『物語』**に、俺が飲み込まれないためにも。
でも、強くなるには金が必要だ。父さんが残した陰陽術の巻物も、新しい護符も、すべて金がかかる。そして、何より、家賃を滞納しているようでは、探偵としても、陰陽師としても、活動ができない。
「…どうやって、金稼ぎをするか…」
俺は、頭を抱えていた。その時、ふと、一つのアイデアが閃いた。
現代は、スマホ一台で、誰もがスターになれる時代だ。俺は、探偵であり、陰陽師。そして、怪異に巻き込まれる日々を送っている。
「…これ、配信したら、めちゃくちゃ面白いんじゃね?」
俺は、自分のひらめきに、思わずニヤリと笑った。
探偵兼陰陽師の稼業を、動画配信のコンテンツにする。事件の調査風景を配信したり、怪異と戦う様子を配信したりすれば、注目を集められる。うまく行けば、探偵稼業の知名度も上がり、収入も増えるだろう。
そして、何より、酒呑童子の『物語』を、俺自身の『物語』として、世界中に発信できる。
「…よし、決めた!」
俺は、家に帰るなり、配信機材を揃えるために、ネットで中古の機材を探し始めた。
探偵業と陰陽師業を、より金稼ぎに適したものにする。そして、酒呑童子に目をつけられたからには、より強くなる。
そのために、俺は、新たな道を歩き始めることにした。
俺の物語は、ここから、始まる。
わたし、新沼千恵は、安倍アキラの幼なじみ。
アキラは、お調子者で、いつもヘラヘラ笑っている。でも、本当はすごく優しい。
アキラのお母さんが亡くなって、お父さんが行方不明になってから、わたしは、アキラのことが心配でたまらなかった。探偵と陰陽師なんて、危ない仕事ばかり。いつかアキラが、とんでもないことに巻き込まれてしまうんじゃないかって、不安で、不安で…。
だから、わたしは、アキラを助けようと決めた。
アキラが依頼を受ける前に、わたしが裏で解決してしまえば、アキラは危険な目に遭わなくて済む。そう思って、わたしは、この街で密かに囁かれている**「呪術師」**の噂を調べることにした。
そして、わたしは、偶然にも、その呪術の力を手に入れてしまった。
それは、ネット上で、人を呪うことができる、とても恐ろしい力だった。
わたしは、その力を使って、アキラに舞い込むであろう危険な依頼を、裏で解決していった。
でも、わたしは、知っていた。この力は、人を不幸にする力だって。だから、わたしは、この力を使うたびに、自分の心が汚れていくような気がした。
そんな時、わたしは、アキラが請け負った柿崎沙耶のいじめ問題に、わたしが関わってしまっていることを知った。
わたしは、沙耶のいじめを止めようと、裏で動いた。しかし、その時、わたしは、この街にいる、もう一人の呪術師、鈴村健一に気づかれてしまった。
鈴村は、わたしが呪術を使っていることを知り、わたしを脅してきた。
「このことを安倍アキラにバラされたくなかったら、俺のいうことを聞け」
鈴村はそう言って、わたしに、沙耶へのいじめをエスカレートさせるように、命令してきた。
わたしは、アキラに迷惑をかけたくなくて、鈴村の言うことを聞いてしまった。
アキラに、わたしが沙耶をいじめているように見せかけるため、わたしは、ネット上で、沙耶の悪口を書いた。アキラが、わたしを疑ってくれれば、アキラは、この危険な事件から手を引いてくれる。そう思っていた。
そして、わたしは、アキラに、家賃を渡すフリをして、お金を渡した。アキラが、そのお金で生活してくれれば、アキラは、危ない仕事をしなくても済むから。
でも、アキラは、わたしの狙いとは反対に、どんどん事件に深入りしていった。
わたしは、毎日、不安で、不安で仕方がなかった。
「アキラ…どうか、無事でいて…」
わたしは、そう願うしかなかった。
でも、わたしは、知っている。アキラは、こんなことでは、へこたれないって。
そして、わたしは、信じている。アキラが、いつか、この事件の真実をすべて解き明かしてくれるって。
わたしの悪夢と、かすかな光
わたし、柿崎沙耶は、ごく普通の高校2年生だった。…いや、だった、というのが正しい。
ある日、学校でのいじめが始まった。最初は無視や陰口だった。でも、それは次第にエスカレートしていった。
机には悪口が書かれ、持ち物は隠され、そして、わたしの知らないところで、わたしの写真がネットに晒されていた。
わたしは、どうしていいかわからなかった。ただ、毎日が怖くて、学校に行くのが嫌で、部屋に引きこもるようになった。
そんなわたしを、さらに恐怖に陥れたのは、わたしの部屋で起こる奇妙な出来事だった。
画面が割れて動かなくなったスマホから、止まることなくLINEの通知が鳴り響く。コンセントが抜けているはずのパソコンが、勝手に起動する。誰もいないのに、部屋の隅から誰かの声が聞こえる。
わたしは、自分が狂ってしまったのかと思った。
お母さんに話しても、信じてもらえなかった。お母さんは、ただ「大丈夫、大丈夫」と繰り返すだけだった。
そんな時、お母さんが連れてきたのが、安倍アキラだった。彼は、お調子者で、探偵だと言っていた。
わたしは、最初、彼を信じられなかった。でも、彼がわたしの部屋に入ってきた瞬間、部屋の空気が変わった。わたしを苦しめていた、不気味な気配が、少しずつ薄れていくのを感じた。
彼は、魔法使いみたいに、不思議な紙を部屋の壁に貼っていった。すると、止まらなかったスマホの通知がピタリと止まり、パソコンの画面も消えた。
「もう大丈夫ですよ。いったん邪気は封じましたから」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
彼の言葉と笑顔に、わたしは、張りつめていた糸が切れたように、涙が溢れてきた。
「…ありがとう…ございます…」
わたしは、か細い声で、そう呟いた。
「いやいや、これくらいお安い御用ですよ!俺は探偵なんで、何でも解決しちゃいますから!」
アキラは、そう言って、得意げに胸を張ってみせた。その言葉と、お調子者な態度に、わたしは、なぜか少しだけ笑ってしまった。
わたしの悪夢は、まだ終わっていない。でも、この人なら、この悪夢を終わらせてくれるかもしれない。
そう、かすかな希望が、わたしの心に灯った。
わたしは、この安らぎをくれた、このお調子者の探偵に、全てを託すことにした。
探偵、いざ始動
沙耶の家を出た後、俺はすぐに事務所に戻り、今回の事件に関する情報をすべて書き出した。
まず、いじめ。被害者は柿崎沙耶。そして、いじめの中心にいたのは、鈴村が業鬼に変わる前に操っていた立花蓮。
次に、邪気。沙耶の部屋に蔓延していた邪気は、この学校にも、そして千恵の周りにも漂っていた。その元凶は、酒呑童子の不完全な力。
そして、黒幕。それは、孤独な少年である鈴村健一を利用し、千恵までも操っていた、酒呑童子だ。
「まさか、酒呑童子と戦うことになるとはなぁ…」
俺は、頭を抱えた。相手は、日本三大妖怪の一人だ。俺がこれまで戦ってきた、そこらの妖とはレベルが違う。
でも、千恵と沙耶、そして俺自身を守るためにも、酒呑童子の**『物語』**に、俺が飲み込まれるわけにはいかない。
そのためには、まず、情報収集だ。
俺は、パソコンを立ち上げ、ネットで酒呑童子に関する情報を調べ始めた。
「…酒呑童子、封印、伝承…」
ネット上には、酒呑童子に関する様々な情報が溢れていた。その多くは、伝説や伝承として語られているものだった。
しかし、俺が知りたいのは、この街に封印された酒呑童子の、不完全な力についてだ。
「…仕方ねぇ。ここは、あの人に聞くしかないか」
俺は、スマホを手に取り、ある人物に電話をかけた。その人物は、俺の父の古い友人であり、陰陽道の世界では、かなり有名な人物だ。
「もしもし、お久しぶりです、安倍アキラです」
俺がそう言うと、電話の向こうから、渋い声が聞こえてきた。
「…なんだ、アキラ。親父がいないのをいいことに、ろくでもないことでもやらかしたのか?」
「いやいや、そうじゃなくて。…ちょっと、聞きたいことがありまして」
俺は、酒呑童子のことを、その人物に話した。すると、電話の向こうから、驚きと、そして焦りの声が聞こえてきた。
「…馬鹿な!まさか、酒呑童子が不完全な形で復活しているとは…!」
その人物は、俺に、酒呑童子に関する禁忌の知識を、いくつか教えてくれた。
その情報から、酒呑童子の封印は、この街の至る所に施された結界によって成り立っていることがわかった。そして、その結界が、少しずつ弱まっていることも。
「…このままじゃ、いつか酒呑童子の封印が、完全に解かれてしまう…」
俺は、背筋が凍るような思いだった。
「…アキラ、いいか。絶対に一人で突っ走るな。お前の父親でも手に負えないかもしれない相手だ。もし、どうしようもなくなったら、すぐに連絡してこい」
そう言って、電話は切れた。
俺は、スマホを握りしめ、静かに立ち上がった。
今回の事件は、もう、俺一人の探偵稼業じゃ、どうにもならない。
俺は、今回の事件を、『探偵兼陰陽師、安倍アキラ、初の配信案件』として、世間に公表することを決意した。
探偵の新たな道、そして妖の悲願
酒呑童子の不完全な力、そして弱まりつつある結界。このままでは、いつか本当にヤバイことになる。探偵稼業の収入を増やすため、そして強くなるために、俺は配信者として新たな一歩を踏み出すことを決めた。
でも、ただ配信するだけじゃダメだ。酒呑童子に目をつけられたからには、より強力な敵と戦うことになる。今のままじゃ、前鬼と後鬼に頼るしかない。そんなんじゃ、親父に顔向けできない。
「よーし、修行だ!」
俺は、事務所の奥にある稽古場に向かった。普段は依頼がなくてサボりまくっているけど、今回は違う。命がかかっている。
俺の得意な陰陽術は、式神を使役することだ。これまで、道具や衣服に赤鬼くんや青鬼くんを憑依させて、力を借りていた。でも、それだけじゃ足りない。
「よし、次は自分の体に憑依させてみるか」
これは、父から教わった高等技術だ。自分の肉体に直接、式神の力を宿すことで、身体能力を飛躍的に向上させることができる。その分、術者への負担も大きい。
俺は、赤鬼くんと青鬼くんに声をかけた。
「おい、赤鬼くん、青鬼くん!俺の体に入ってみてくれ!」
「へいへい、承知したぜ!」
「承知仕りました!」
赤鬼くんと青鬼くんは、楽しそうに俺の体に入ってきた。すると、俺の全身に力が漲っていくのを感じた。
「うおおおっ!」
しかし、すぐに激しい苦痛が襲ってきた。まるで、身体の内側から火傷しているかのような熱さに、俺は悲鳴を上げた。
「ぐあああああああ!」
「ご主人様!無理っすよ!まだ早すぎます!」
「これでは、ご自身の身がもちません!」
赤鬼くんと青鬼くんの声が聞こえる。俺は、全身から汗を流しながら、必死に耐えた。
「くっそ…、こんなところで倒れるわけには…!」
俺は、歯を食いしばり、もう一度、力を集中させる。
「俺は…!変身!ヘーン∠( ˙-˙ )/シン!」
俺がそう叫ぶと、俺の体に、赤鬼くんと青鬼くんの力が定着していくのを感じた。
すると、俺の体に、鬼のような模様が浮かび上がり、俺の身体能力は飛躍的に向上した。
「よし、成功だ!」
俺は、興奮を抑えきれずに叫んだ。
そして、夜。
俺は、パソコンの前に座り、配信の準備を整えた。
「酒呑童子め、お前の好きにはさせないからな…!」
俺は、そう心の中で呟いた。
酒呑童子の力の封印の解放は、ただの妖怪の悲願ではない。それは、全日本の妖の悲願でもある。封印された力を解放することで、妖たちは再びこの世界で、人間と対等に生きていけるようになる。
だが、それは、人間から見れば、とてつもない災厄だ。
俺は、人としても、陰陽師としても、そして探偵としても、この事件を解決しなければならない。
俺は、意を決して、配信開始のボタンを押した。
「皆さん、どうも!探偵兼陰陽師の安倍アキラです!」
俺は、画面に向かって、いつものお調子者な笑顔で挨拶をした。
「今回は、とんでもない事件を追ってます!この事件、解決したら、家賃払えます!なので、皆さん、応援よろしくお願いしまーす!」
俺は、そう言って、深々と頭を下げた。
そして、俺の新たな物語が、今、始まった。
探偵兼陰陽師、配信者になる
「はいどうもー!探偵兼陰陽師の、安倍アキラです!」
俺は、パソコンの前に座り、満面の笑みで画面に向かって手を振った。事務所の片隅に設置した配信用の機材は、すべて中古品。画質も音質も最低限だけど、まあ、いけるだろう。
配信を始めると、すぐに数人の視聴者が現れた。
「えー、コメントありがとうございます!『マジで探偵やってるの?』って?ええ、やってますとも!今はちょっと依頼が少なくて家賃がやばいんですけど、今日の配信で一気に巻き返しますから!」
俺は、画面の向こうの視聴者たちに、今回の依頼について話し始めた。
「今回の依頼は、いじめ問題です!…まあ、普通なら探偵の仕事ですけど、今回はちょっと違うんです!実はこのいじめ、呪いが絡んでるんですよ!」
俺がそう言うと、コメント欄がざわつき始めた。『呪いとか嘘だろw』『中二病乙』といったコメントが流れる。
「いやいや、信じられないのもわかります!でも、これを見てください!」
俺は、事務所の奥から、今回の依頼で手に入れた証拠品、呪いの木箱を画面に映した。中には、鈴村が呪いをかけていた生徒たちの写真が入っている。
「これ、ただの木箱じゃないんです!邪気で満ち満ちてて、普通の人なら、これ持ってるだけで気分が悪くなるはずです!」
俺がそう説明すると、コメント欄はさらに盛り上がった。
「『じゃあ、お前も怪しいな!』って?いやいや、俺は安倍アキラ!探偵兼陰陽師ですから!俺にそんなものが効くわけないじゃないですか!」
俺は、得意げに胸を張った。
すると、コメント欄に**『その力、見せてみろよ!』**というコメントが流れた。
「…よーし、いいでしょう!」
俺は、立ち上がり、稽古場へと向かった。そして、カメラを稽古場に向け、画面の向こうの視聴者たちに語りかける。
「じゃあ、皆さん、見ててください!これが、探偵兼陰陽師の本気の力です!」
俺は、深く息を吸い込み、全身に力を込めた。
「変身!ヘーン∠( ˙-˙ )/シン!」
俺がそう叫ぶと、俺の体に、赤鬼くんと青鬼くんの力が定着していくのを感じた。
俺の体に、鬼のような模様が浮かび上がり、俺の身体能力は飛躍的に向上した。
「うおおおっ!」
俺は、軽々と事務所の天井までジャンプし、そのまま壁を駆け上がった。
「どうですか、皆さん!これが、俺の力です!」
俺は、カメラに向かって、満面の笑みでそう言った。
画面の向こうの視聴者たちは、俺の信じられない行動に、驚きと興奮のコメントを次々と投稿していた。
「よし!掴みはOKだな!」
俺は、そう心の中でガッツポーズをした。
「さあ、皆さんも、探偵兼陰陽師の物語に、ついてきてくださいね!」
俺は、そう言って、配信を続けた。この配信が、俺と酒呑童子の『物語』を、世間に広める第一歩になることを信じて。
安倍アキラ - 探偵兼陰陽師1年生【#1 呪いのいじめを暴きます!】
コメント欄
陰陽師はじめましたch
呪術とか陰陽師とかマジ!?ちょっと面白そうじゃんw チャンネル登録しといたぞ!
霊感ゼロの日常
これ全部ガチだったらやばいなwww 画面に映ってる箱、ほんとに何かヤバそう…
JK探偵ゆいゆい
なんかイケメンだしお調子者で面白いな。変身シーンで草生えたww
名無しのごんべい
あの変身ってどういう原理?トリック?詳しく解説してほしい。
祓い師の弟子
安倍晴明の子孫とかじゃないっすよね?あんなに簡単に式神を体に憑依させるなんて、尋常じゃないです。
家賃を稼ぎたい
家賃のために配信始めたってのが親近感湧くわ。頑張れ!
千恵ちゃん推し
アキラくんの幼なじみ、千恵ちゃんって子可愛くない?もっと出してほしいw
真実を求める者
あの箱、本物だとしたら危険すぎる。すぐに専門家に相談してください。冗談抜きで。
業鬼に襲われた者
業鬼、鈴村健一、安倍アキラ…この人、何かの事件に巻き込まれたのか?
通りすがりの妖怪
ふん、人間ごときが我ら妖怪に逆らうとはな。いい気なものだ。せいぜい精進するがいい。
幼なじみの新たな挑戦
アキラは、また突拍子もないことを始めた。
探偵兼陰陽師の仕事の様子を、インターネットで配信するなんて。
わたしは、アキラが配信を始めることを知ったとき、正直、頭を抱えた。
ただでさえ家賃を滞納しているのに、配信機材を買うお金はどこから出したんだろう。きっと、わたしが渡した家賃の一部を、また勝手に使ったに違いない。
「もう、ほんとに、どうしようもないんだから…」
わたしは、そう呟きながら、アキラの配信をスマホで見ていた。
画面の中のアキラは、いつものようにヘラヘラ笑っていた。「家賃のために頑張ります!」なんて、お気楽なことを言っている。
でも、画面の向こうに映るアキラの顔は、いつもと違っていた。どこか、強い決意を秘めているように見えた。
そして、アキラは、わたしが知っている、あの**「呪い」**の事件について話し始めた。
「このいじめ、呪いが絡んでるんです!」
アキラの言葉に、わたしは、ドキリとした。
わたしは、アキラをこの事件から遠ざけるために、わざとアキラがわたしを疑うように仕向けた。わたしが、鈴村に脅されて、アキラに迷惑をかけたくなくて、とった行動だった。
でも、アキラは、わたしの狙いとは反対に、どんどん事件に深入りしていった。そして、わたしが知っているよりも、もっと深い、恐ろしい場所にまで足を踏み入れている。
「変身!ヘーン∠( ˙-˙ )/シン!」
画面の中のアキラは、奇妙なポーズを取り、全身に鬼のような模様を浮かび上がらせた。
わたしは、それを、ただのふざけたパフォーマンスだとは思わなかった。
アキラは、本当に、あの「呪い」と戦っているんだ。そして、そのために、自分の身を危険に晒している。
「…アキラ…」
わたしは、スマホを握りしめ、画面の中のアキラに語りかける。
「…お願いだから、無茶だけはしないで…」
わたしの心の中は、アキラの安否を心配する気持ちと、自分があの事件にアキラを巻き込んでしまったのではないかという後悔の気持ちで、ぐちゃぐちゃになっていた。
予想外の沖縄旅行
「よう、アキラ!夏休み、暇なら俺たちと沖縄行かね?」
昼休み、俺の前に現れたのは、クラスの陽キャグループのリーダー、武久壱馬だった。彼の周りには、いつもつるんでいる男女6人、計7人が集まっている。彼らとは転校してからろくに話したこともなかったから、突然の誘いに俺は戸惑った。
「沖縄?なんで俺を…?」
俺がそう尋ねると、壱馬はニヤリと笑った。
「お前、探偵やってるんだろ?実はさ、沖縄にいる親戚の家で、ちょっと不思議なことが起きててさ。心霊スポットらしいんだよ。面白そうだから、アキラに付き合ってもらおうと思ってさ」
壱馬の言葉に、俺は思わずゾッとした。心霊スポット…つまり、妖だ。俺が一番関わりたくない案件だ。だが、100万円の依頼を終えても家賃はまだ足りない。もし、沖縄で依頼を受けられれば、一石二鳥だ。
「…おい、アキラ!一人でニヤニヤしてないで、返事しなさいよ!」
千恵が、呆れたように俺の頭を叩いた。
「いや、行く行く!もちろん行くぜ!」
俺は即答した。100万円の前金は家賃に消えたし、今はまともな依頼もない。このチャンスを逃すわけにはいかない。
俺は、千恵を誘った。千恵は最初は渋っていたが、アキラに迷惑をかけたくないという気持ちから、承諾してくれた。
こうして、俺と千恵は、壱馬たちと共に、沖縄へ行くことになった。
沖縄に秘められた妖
沖縄に着いた俺たちは、壱馬の親戚が経営する民宿に泊まることになった。夜になると、壱馬は俺を連れ出し、親戚から聞いたという心霊スポットに向かった。
「おいおい、本当に心霊スポットなのか?」
俺がそう尋ねると、壱馬は得意げに笑った。
「ああ、ここはキジムナーが出るって言われてるんだ。アキラ、お前、キジムナーって知ってるか?」
俺は、キジムナーという名前に、ピンと来た。キジムナーは、沖縄に古くから伝わる木の精霊だ。悪さをすることもあるが、人間と友好的な関係を築くこともある、比較的温厚な妖だ。
「…まぁ、知ってるけど。なんで俺をここに連れてきたんだ?」
俺がそう尋ねると、壱馬は、真剣な表情で言った。
「実はさ、この辺りで、キジムナーが人間を襲う事件が起きてるんだ。親戚の家も、最近、物が壊されたり、家畜がいなくなったりしてて。親戚は、キジムナーの仕業だって言っててさ」
壱馬の言葉に、俺は驚いた。キジムナーが人間を襲うなんて、聞いたことがない。
「…これは、ただのキジムナーじゃねぇな」
俺はそう呟き、リュックから護符を取り出した。
「どういうことだよ?」
壱馬がそう尋ねると、俺は、酒呑童子のことを話した。酒呑童子の不完全な力が、この沖縄にも影響を及ぼしているのかもしれない。
「…まさか、酒呑童子が…」
壱馬は、俺の話を信じられない様子だった。
俺は、そんな壱馬をよそに、護符を構え、周囲の邪気を探り始めた。すると、目の前の木々から、禍々しい邪気が放たれているのを感じた。
「…やっぱり、こっちにも来てたか…」
俺は、そう呟き、その邪気の元凶へと向かっていった。
呪われたキジムナー
壱馬と別れ、俺は邪気の元凶へと向かっていった。夜の沖縄の森は、昼間とは違い、不気味な雰囲気を漂わせている。木の葉が風に揺れる音も、まるで何かが囁いているように聞こえた。
「…赤鬼くん、青鬼くん、頼むぞ」
俺は、リュックから護符を取り出し、赤鬼くんと青鬼くんに力を貸してもらった。すると、俺の身体能力は飛躍的に向上した。
「へいっ!ご主人様、任せてください!」
「承知仕りました!」
二匹の声が、俺の頭の中に響く。俺は、足元を気にせず、邪気の元凶へと突き進んでいった。
そして、森の奥深く、朽ちたガジュマルの木の前にたどり着いた。
「…ここか」
そのガジュマルの木からは、おぞましいほどの邪気が放たれていた。まるで、木自体が邪悪な意思を持っているかのようだ。
俺は、護符を構え、ガジュマルの木に近づいていった。すると、木の中から、小さな影が現れた。
「…キジムナー…?」
それは、キジムナーだった。しかし、そのキジムナーは、俺が知っている、温厚なキジムナーとは全く違っていた。
そのキジムナーの体は、黒い邪気で覆われ、目は赤く光っていた。まるで、誰かに操られているかのように、無表情に俺を見つめていた。
「…酒呑童子の力、か」
俺はそう呟き、護符を構えた。
「悪いな、お前を元に戻してやる」
俺は、キジムナーに向かって、護符を投げつけた。護符は、キジムナーの体を包み込み、光を放った。
「ぐああああああああああああ!」
キジムナーは、苦しみの叫びを上げ、その体を覆っていた黒い邪気が、少しずつ剥がれていく。
「…な、なんで…」
キジムナーは、元の姿に戻ると、俺に向かって、震える声でそう言った。
「…俺は…、俺は、何もしてない…!」
キジムナーの言葉に、俺は眉をひそめた。
「…お前を操っていた奴は、どこにいる?」
俺がそう尋ねると、キジムナーは、怯えたように首を横に振った。
「…わからない…!ただ、黒い靄のようなものが、俺の心に入り込んで、気がついたら、体が勝手に…」
キジムナーの言葉に、俺は確信した。
「…やっぱり、酒呑童子の仕業か」
俺は、キジムナーの言葉から、酒呑童子が、沖縄にいる妖を操り、人間を襲わせていたことを知った。
酒呑童子の狙いは、一体何なんだ?
俺は、キジムナーを元に戻し、壱馬の元へと戻ることにした。このままでは、壱馬たちも、危険な目に遭うかもしれない。
「…まずは、壱馬たちに、このことを話さないと…」
俺は、そう思いながら、来た道を戻っていった。
陽キャたちの憂鬱
俺は、キジムナーの件を解決した後、壱馬たちのいる民宿へと戻った。
部屋に戻ると、壱馬と彼の仲間たちが、真剣な顔で話し合っていた。
「…俺、やっぱり、キジムナーに呪われたんじゃねーかって思うんだ」
壱馬は、そう言って、自分の腕にできた、小さな赤い痣を見せた。
「なんだそれ?」
俺がそう尋ねると、壱馬は怯えた顔で言った。
「…昨日、この痣ができてから、なんか調子が悪いんだ。変な声が聞こえたり、寝つきが悪かったり…」
俺は、壱馬の腕の痣に触れた。すると、俺の指先から、微かな邪気が伝わってきた。
「…これは、呪いだ。でも…キジムナーの呪いじゃねぇ」
俺がそう言うと、壱馬と彼の仲間たちは、驚いた表情で俺を見つめた。
「どういうことだよ?」
壱馬がそう尋ねると、俺は、キジムナーが酒呑童子の力に操られていたことを話した。
「…酒呑童子…?」
「ああ。鈴村を業鬼に変えたり、千恵に呪術を使わせたりした、大元の元凶だ」
俺の言葉に、壱馬たちは、信じられない、といった顔をしていた。
「まさか、そんな馬鹿な…」
「信じられないのもわかる。でも、これが現実だ」
俺はそう言って、リュックから護符を取り出した。
「…その呪い、俺がなんとかしてやる」
俺は、壱馬の腕に護符を貼り付け、呪いを解くための呪文を唱えた。すると、壱馬の腕の痣は、みるみるうちに消えていった。
「うそだろ…」
壱馬は、自分の腕を何度も見つめ、呆然としていた。
「…な、なんだか、体が軽い…!」
壱馬の言葉に、彼の仲間たちも、俺を信じ始めたようだった。
「…俺たちも、アキラに協力するよ」
壱馬は、そう言って、俺に頭を下げた。
俺は、彼らの言葉に、少しだけ心が温かくなった。探偵として、陰陽師として、そして人間として、彼らの信頼を得ることができた。
「…ありがとう」
俺は、そう言って、壱馬たちと共に、酒呑童子の企みを阻止するため、動き出すのだった。
承知しました。それでは、アキラ視点で物語の続きを執筆します。
呪いの糸を辿って
壱馬たちに、今回の事件の真相を話した後、俺たちは本格的に酒呑童子の力を探ることにした。
壱馬は、腕の呪いが解けてから、見違えるように元気になっていた。彼は、俺に協力することを申し出てくれた。
「アキラ、俺も何か手伝えること、ないか?」
壱馬がそう尋ねると、俺は「ああ、あるぜ」と答えた。
「俺は、酒呑童子の力を感じ取ることができる。でも、沖縄中の邪気を全部探すのは無理だ。だから、お前たちの力を貸してほしい」
俺は、壱馬たちに、邪気の気配を感じたら、すぐに俺に知らせるよう頼んだ。
そして、俺は、壱馬たちと共に、沖縄の街を歩き回ることにした。
壱馬たちは、地元の人間なので、この街に詳しい。彼らの助けを借りれば、効率よく邪気の元を探せるだろう。
俺たちは、キジムナーがいた森の近くから、邪気の痕跡を辿り始めた。
「…この辺りだ。この辺りに、まだ邪気の残滓が残ってる」
俺は、そう言って、壱馬たちに、邪気の気配を探るよう促した。
「なんか、変な感じ…」
壱馬は、そう言って、眉をひそめた。
俺は、彼らの様子を見て、驚いた。彼らは、異能を持たない、ただの人間だ。なのに、俺が感じる邪気の気配を、微かに感じ取っている。
「…まさか、酒呑童子の力は、人間にも影響を与えてるのか…?」
俺は、そう思いながら、邪気の痕跡を追っていった。
邪気の痕跡は、人通りの少ない路地裏へと続いていた。そして、その先には、古びた拝所(うがんじゅ)があった。
「…ここか」
俺は、そう呟き、拝所に近づいていった。
拝所の周りには、誰かが供えたであろう花や、お菓子が置かれていた。しかし、その花は枯れ、お菓子は腐り、不気味な雰囲気を醸し出していた。
俺は、拝所の奥に、酒呑童子の力が、渦を巻いているのを感じた。
「…ここに、酒呑童子の力が集まってる…!」
俺は、そう確信し、拝所に足を踏み入れた。
すると、拝所の奥から、何者かの声が聞こえてきた。
「…ようこそ、我が領域へ」
その声に、俺は息をのんだ。
酒呑童子は、この拝所を、自らの力を増幅させるための領域にしていたのだ。
俺は、護符を構え、警戒しながら、その声の主を探した。
昔噺の始まり
俺は意識を取り戻した。どうやら気を失っていたらしい。体は動かず、全身に痛みが走っている。目の前には、依然として不気味な笑みを浮かべた酒呑童子が座っていた。
「…よう、目が覚めたか、安倍アキラ」
酒呑童子はそう言って、俺の顔を覗き込む。俺は、必死に抵抗しようとしたが、体が全く動かない。
「無理はするな。お前の力は、この私の領域では、砂粒ほども意味をなさない」
酒呑童子の言葉に、俺は絶望した。このままでは、俺は奴に殺される。
「…まぁ、何も殺しはしないさ」
酒呑童子は、そう言って、優しく俺の頭を撫でた。その手は、まるで父親が子供を撫でるように、温かく、そして…恐ろしかった。
「…なあに、ひとつ昔噺をしようじゃないか」
酒呑童子は、そう言って、遠い目をした。
「…キミの亡くなった母君と、姿を消した父君の話さ」
酒呑童子の言葉に、俺は息をのんだ。酒呑童子は、俺の両親のことを知っている?
「…どうして、あんたが…」
俺がそう尋ねると、酒呑童子は、にやりと笑った。
「…ふふふ。なぜなら、私と君の母親は、旧知の仲だからだ」
酒呑童子の言葉に、俺の頭の中は、一気に混乱した。母は、ただの人間だったはずだ。なのに、なぜ、酒呑童子と…。
酒呑童子は、そんな俺の様子を見て、満足そうに笑った。
「…さあ、聞くがいい。これは、君が知らなかった、もう一つの昔噺だ」
酒呑童子の声が、俺の耳元で響き渡る。俺は、酒呑童子の昔噺に、ただ、耳を傾けるしかなかった。
語られぬ真実
酒呑童子は、静かに語り始めた。俺の母と父、そして酒呑童子自身の昔噺を。
「…君の母君は、稀代の霊能力者だった。そして、君の父君は、その力を守るために、陰陽師になった。二人は、私の封印を巡って、私と何度も戦った」
酒呑童子の言葉に、俺は驚愕した。母は、ただの人間だと思っていた。だが、酒呑童子の言葉が真実なら、母は、俺と同じように、特別な力を持っていたことになる。
「そして、私は、君の母親を殺した」
酒呑童子は、そう言って、俺の顔を覗き込んだ。その顔には、一切の悪意や憎悪はなかった。ただ、静かな事実を語っているだけだった。
「…なぜ、そんなことを…」
俺がそう尋ねると、酒呑童子は、フッと笑った。
「…それは、君の父親が知っている。だが、彼は、君に何も話さなかった。なぜだと思う?」
酒呑童子は、そう言って、俺の心に、一つの疑問を投げかけた。
「…疑問に思わないか?母君の仇は私であるのに、父親が現れないことに…」
酒呑童子の言葉が、俺の頭の中に響き渡る。
父は、母が死んだ後、突然姿を消した。俺は、父が母の死を悲しんで、姿を消したのだと思っていた。だが、酒呑童子の言葉が真実なら、話は全く違ってくる。
「…親父は、どうして…」
俺は、そう呟き、酒呑童子を見つめた。
酒呑童子は、俺の戸惑いを見て、満足そうに笑った。
「…ふふふ、君は、まだ何も知らない。君が知っている物語は、すべて、君の父親が作り上げた偽りの物語だ」
酒呑童子の言葉が、俺の心に深く突き刺さる。俺がこれまで信じてきた、家族の物語。それは、すべて、父が作り上げた嘘だったのか?
俺は、動揺を隠せないでいた。そんな俺の様子を見て、酒呑童子は、さらに言葉を続けた。
「…さあ、選ぶといい。偽りの物語の中で生き続けるか、それとも、真実を知り、私の物語に加わるか」
酒呑童子は、そう言って、俺に選択を迫った。
終わりのない退屈
酒呑童子の言葉に、俺はただ立ち尽くしていた。俺が信じてきた、家族の物語。それは、すべて、父が作り上げた嘘だったのか?
俺は、動揺を隠せないでいた。そんな俺の様子を見て、酒呑童子は、フッと笑った。
「…そんなに驚くことでもないだろう。人生なんて、誰もが嘘と真実の狭間で生きている」
酒呑童子は、そう言って、俺に近づいてきた。
「…私はね、暇なんだよ」
酒呑童子の言葉に、俺は眉をひそめた。
「永く生きてるとね、退屈になる。人間が作った芸術も、文学も、音楽も、すべて、私にとっては既知のもの。新しい驚きも、感動もない」
酒呑童子は、そう言って、遠い目をした。その瞳の奥には、深い孤独と、そして虚無が宿っていた。
「…だから、私は、新しい娯楽を探していた」
酒呑童子は、そう言って、再び俺の顔を覗き込んだ。
「君との関わりも、その娯楽のひとつさ。君が、私の物語にどう関わっていくのか、君がどんな選択をするのか、見ているのが、楽しくて仕方ない」
酒呑童子の言葉に、俺はゾッとした。俺は、酒呑童子にとって、ただの玩具でしかなかったのか?
「…お前、ふざけるな…!」
俺は、そう叫び、必死に抵抗しようとした。だが、体は動かず、酒呑童子の強大な力の前に、俺はただ無力だった。
「…ふふふ、怒るなよ。これは、君の物語でもあるんだ。君が、この物語の主人公として、どう動くか。私を楽しませてくれることを期待しているよ」
酒呑童子は、そう言って、俺の意識が遠のいていくのを見て、満足そうに笑った。
俺は、意識を失う寸前、酒呑童子の言葉が、俺の頭の中に深く刻まれていくのを感じた。
俺は、酒呑童子の『物語』に、引きずり込まれてしまったのか?
俺の意識は、そこで途絶えた。
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