第9話ファーフロムウエディング①

 ブーブーとスマホのバイブレーションの音でハッと現実に引き戻された。焦って着信相手の確認をせず、すぐに電話にでた。通話が始まった瞬間すぐにだれだか分かった。

「もしもし、やっとでたでござる! 本田氏、怪我は大丈夫でござるか?」

「あー、返信するのを忘れてた。怪我は全然、心配するほどじゃなかったわ。記憶もしばらくすれば元にもどるらしい」

「そうでござるか! なにより! ところで今はどこに?」

「えーと、東京のどこか? あ、国分寺らしい」

「え! なぜに、そんなに遠くにいるでござるか!」

「ちょっと、色々あって、元カノ? に殺されかけたり……」

「まーた、襲われたでござるか! すぐに助けにいきますぞ!」

「いや、そこまでしてもらわなくても新幹線で帰るよ」

「ダメですぞ! さっきのヒーローどもの戦闘のせいで名古屋までの新幹線とまってますし! 迎えにいくでござる」

「まじか、ありがとう。たすかるわ」

「場所と時間は後から連絡するでごさる。襲われない様に気を付けるでごさるよ! では!」

 ツーツーツーと電話が切れる音が聞こえた。わざわざここまで迎えに来てくれるなんてすごいいいヤツかもしれない。


 しばらくするとメッセージで東京駅の位置情報が送られてきた。“銀の鈴広場”有名な待ち合わせスポットらしいが初めて聞いた。22時頃に到着すると連絡があった。そのまま直接東京駅に向かい駅の周りで夕食や散歩をしながら待ち合わせの22時まで時間を潰した。ブラブラと散歩をしながら、オタクとの今日までのメッセージを読み返した。メッセージのほとんどがアイドルのオススメのライブ動画や切り抜きの話ばかりで、記憶を無くした半年間になにがあったかほとんどわからなかったが明日アイドルのライブに行く約束をした事は本当だった。記憶を無くしていたとはいえ、自分で約束をしておいて知らないと言った事を流石に少し後悔した。


 約束の22時に“銀の鈴広場に到着してしばらく待ったが一向にくる気配がない。到着した時には結構周りに人がいたが、一人一人といなくなり俺しかいなくなった。スマホを確認すると「申し訳ないでござる! 道が渋滞してて遅くなるでござる」とメッセージがしばらく前に、はいっていた。すでに時間は23時をまわっていた。色々あって疲れたのか、立ったままウトウトしてきた。いつもと違って口の周りに違和感があった。なんだか消毒のガーゼをあてられているみたいだった。甘い香りがする。

「また会えたね。次は逃がさないから死ぬまでいっしょよ」

 背後で聞き覚えのある声が聞こえたけど、まあ気のせいだろう。そのまま視界が真っ暗になった。

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