第10話ファーフロムウエディング②

「ということで!みんな最後まで見てくれてありがとー! 緊急配信だったけど、スパチャくれた人達に感謝感激雨アラレ! 期待の超新星ちはるでした! みんなまたね~」

 やたらと甲高いアニメ声で目を覚ました。ここはどこだ? パイプ椅子に座らされた状態のまま縄で手足を縛られていて身動きがとれない。周りは見るからに廃墟で所々壁に穴が開いていてヒューヒューと冷たい風が通った。川の近くか? 川のせせらぎの音も聞こえた。隣の部屋からさっきとは違う口調の声が聞こえた。

「なんで、雷電とか言うヤツ今日に限ってスパチャしないの! 私のATMのくせに! これだと一ヶ月もやし生活じゃん!」

 あのゴスロリ女だ!しばらく、ガシャガシャとモノを壊す音が聞こえたあと、壁をすり抜けて彼女が現れた。

「あ、目、覚ましたんだね。こんな場所に連れてきてゴメン!すぐ私の家に連れてってあげるからね」

「なんだよ!ここ!なんで俺のいた場所が分かった!」

「あ~それね。これ知ってる?」

 彼女はポケットから画面のフィルムがバリバリに割れたスマホをとりだした。右手の人差し指である真っ赤な目のアプリをタップして見せた。

「しらない?これ最近ちょっと噂のアプリで、見つける君って言うの。千里眼の能力をもった人達が運営してるアプリでね、写真を送ればモノでも人でもマップに位置を示してくれる優れものなの」

 なんだよそれ怖すぎるだろ。ストーカー専用アプリじゃねえか。

「……そんなアプリあったんだ。しらなかった」

「すごいでしょ!でもね、聞いてよ! このアプリね!くっそ利用料金が高くて! 一回使うだけで10万よ! 10万! 信じられる? あなたを探すので借金までしちゃった」

 普通そこまでするか?彼女の異常な執着に全身に寒気がはしった。

「ここまでしたんだから、私のこと忘れてるなんて嘘、もうつかないよね?」

 “忘れてるのは嘘じゃないんだって!”と言いかけたが今もしそんな事をいったら彼女に即殺されかねない雰囲気だった。

「あぁ、キミの事忘れるわけがないだろ」

「ううんそうだよね!世界一大切な彼女だもんね!じゃあさ分かるよね、私の推しのヒーローがだれか?」

 あ、まじか……ヤベ全然わかんねぇ!一旦、ここは堂々として何とかごまかすか。

「なんでそんな事聞くの? 俺を疑ってるの?」

「違うの!ともくんのことは疑ってないよ? でもね、私心配性で。ともくんが私のこと愛してくれてるのか。だから答えて?」

 この雰囲気はもう答えるしかない!間違えたら即殺される!頭をフル回転させて考えろ俺!確か女性人気が高かったのは……成金で鉄のスーツを着たヤツだったような? でもこいつがそんなヤツ好きか? 逆にあの岩みたいな人気のないヤツは好きなんじゃ? 考えれば考えるほどわからない。クッソここは思い切っていくしかない。

「…みんなの隣人、スタッグビートル」

 一瞬で場が静まり返った。外のカエルの鳴き声が聞こえる。彼女はずっと下を向いている。ヤベ!ミスったか?


「せいかーーい! やっぱり、私への愛はホンモノなのね」

 なんだよ!今の間、紛らわしい! すぐ答えろ! 死んだかとおもったわ。

「だろ! 忘れるわけないって」

「そうだよね、縛り付けてゴメン! すぐに切る道具持ってくるから待ってて」

 彼女はニコニコ笑いながら壁をすり抜けてどこかに消えた。逃げるのなら今の内だ! 手に縛り付けられている縄をほどこうと、ジタバタしたが意外としっかり縛ってあり全然ほどけない。何度も何度もやっている内にパイプ椅子がバランスを崩して横に倒れてしまった。……やってしまった。逃げようとしていた事が彼女にバレる。俺の命もここまでか……


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