第7話ナウアンドパスト①

 小学生時、俺は気が弱くて勉強も、運動も、さっぱりできなかった。しかも、クラスの大半は何かの能力者だった。今、思い返すと指のさきっぽが豆電球みたいに光る能力とか、汗が砂糖みたいに甘い能力とかしょうもない能力ばっかりだったけど当時は超能力があるだけでクラスの注目を引けた。クラスでは注目されず、なんで、“僕”は何の能力もないんだろとどんどん自信をなくしていった。元から性格が明るいわけじゃないからみんなの輪のなかにも入れず学校生活を過ごしていた。気が付くと、周りから気味が悪いといじめの標的にされていた。

 初めは陰で“キモイ”“臭い”と悪口を言われる程度だったがだんだんエスカレートしていった。お前は勉強が出来ないから教科書はいらないだろと言われて捨てられたり、グループを作る時も一人だけ仲間外れにされた。中でも特にひどかったのはテレキネシスの能力をもったヤツだった。能力の練習台にされて身体を何度も地面にぶつけて怪我をすることもあった。帰り道、テレキネシスで足をつかまれて転ばされることも何度もあった。

 怪我していた時に担任の先生に心配され、いじめられている事を告白したこともあった。だけど、そいつは担任の前では優等生に振舞って勉強も出来たし、スポーツもそこそこできた。たぶん、担任は内心“まさか、この子がいじめをしているはずない”ときっと思っていたんだろう。いじめではなく一緒に遊んでいた時に俺が転んで怪我したことにされてしまった。

 その日の放課後、そいつが取り巻き2人と近づいてきた。ニコニコしながら「本田君、一緒に帰ろうよ」と言ってきた。無視して帰ろうとしたが、取り巻きにブロックされて半ば強制的に一緒に帰らされた。

 誰もいない、橋の下の河川敷まで連れてこられた。そこまで来るとそいつの表情は一変し俺をまるで生ごみでも見るかの様な見下した表情をしていた。

「おい、先生にいじめられてるってチクっただろ、お前!」

「違うよ、“僕”からは言ってないよ……怪我を心配されたから答えただけで……」

「うるせえよ! そんなの適当な嘘ついとけばいいだろが! 俺の評判を傷つけたら殺してやるから!」

「でも……嘘はよくないよ」

「嘘一つもつけないのかよ!馬鹿か! お前みたいな何の能力もない、頭もよくない、体力もないゴミ野郎と俺みたいな奴とは存在価値が違うの! 分からない? じゃあ、分かりやすく教えてやるよ。お前みたいな無能が社会に出て迷惑ばっかりかけるのと違って俺みたいな能力がたくさんあるヤツの方が社会の役に立つんだよ! だから、今やってることも無能が社会にでない為の社会貢献なんだよ」

「分かったよ……」

「分かってねえよな!お前みたいな頭の悪いヤツには身体で教えなきゃ分かんないよな!こうやってな!」

 砂利だらけの地面にテレキネシスで頭を押さえつけられた。精一杯の力で抵抗したがまるで無意味だった。そして、まるで大根おろしのように何度も何度も、地面に擦り付けられた。顔の皮のめくれた所がまるで燃えている様に痛かった。しばらくすると、顔を擦り付ける事をやめて身体は宙に浮いた。

「ゴミ野郎にふさわしいボロボロの姿になったな!よかったな!あーあ、いいこと思いついちゃった。ちょっと前、この川で水切りで遊んでたんだよ。最大6回くらいはねたかなー」

 そいつがニヤニヤしながらこちらを向いて言った。

「なあ?こいつを投げたら何回はねるかな?」

「やめてよ……川に落ちたら死んじゃう」

「はぁ?声が小さくて聞こえねーよ。お前みたいなやつ一回もはねないかもな!もしそうだったら石ころより存在価値ないのが証明されるな?どうだろうな?よし、やってみるか!」

 頭を上に宙吊りになっていたのが急に下向きになった。そのあと、凄いスピードで前に引っ張られた。逆さまの状態で顔を上げるとそいつの顔が目の前にあった。

「冗談だよ、冗談。でも次チクったらまじでやるからな!わかったか?」

「はぁ、はぁ……分かりました。ごめんなさい。うっ!」

 物凄い早いスピードで引っ張られて気分が悪くなり今日食べた給食をそいつの顔に吐いてかけた。

「きったねな! お前なにすんだよ!」

 そいつは無意識か、意図的か分からないが”僕“を突き飛ばす動きをした時、身体が川の真ん中に向かって吹き飛んだ。

 そのまま一番流れのはやい川の真ん中に顔から落ちていった。水が鼻と口に入って一気に呼吸が出来なくなった。川の流れはそこまで早くなかったがパニックになっていて泳ぐ事が出来なかった。

 しばらく、もがいたがだんだん意識が薄れていった。いや、当時はもう諦めていたかもしれないもう“僕”はここで死ぬ運命かもしれないと。どうせ、これからも“僕”みたいな奴は生きていても辛いことばかりだし、人に迷惑ばかりかけるんなら……死んだ方がましだ。目の前が段々と暗くなっていった。川はそこまで深くないのに深海まで沈んでいるみたいだった。太陽の光は徐々に小さくなって手でつかめるサイズになって見えた。完全に真っ暗になる直前、その光に小さく人の手の影が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る