第三話 嫉妬心はほどほどに

「ようこそ、クローヴァン名物『眠らないパレード』へ」


 ヴァインがエスコートする手にリントも乗せ先へ進む二人。出店や娯楽もありパレードというよりかはお祭りだった。奴隷として働いていた吸血鬼や地上で虐げられていた吸血鬼達が笑顔で楽しく商売をしていた。

「これが本来のクローヴァンなんですね」

「そうだ、このパレード期間は近隣の町も呼ぶのだが、今年はクローヴァン市民だけにした。もし噂を聞いてやってくる人間がいるなら拒まないけどな」

「皆さん楽しそうで何よりです」


 リントは甘い匂いがした出店に視線が行く。ヴァインがその視線に気づき買ってきた。

「チュロスじゃないですか。ヴァインも食べるの?」

「リントが食べたそうにしていたからだ。こういうのは一緒に楽しむものだろう」

 一口食べるヴァインだがよくわからなさそうだった。

「人間も来ることを考えて毎年用意していたが初めて食べた」

「参加してなかったの」

「パレード期間は町の喧騒を音楽とし俺の休暇期間としていたからな。こうして会場に参加するのは初めてだ」

「じゃあいろんなところ回ろう」


 出店は人間向けの食べ物だけではなく吸血鬼向けの出店もあった。といっても面白い形をした容器に動物の血が入っているだけだったが店によって容器の形や用意している血の種類が異なり吸血鬼にとってはそれが面白いのだろうと感じた。

「リント見ろ」

 ヴァインは蝙蝠の形をした容器を渡してきた。中の液体は真っ赤だった。

「血は飲めないですって」

「トマトジュースだ安心しろ」

 ヴァインも同じ形の容器でドリンクを飲んでいた。ヴァインのは少し赤黒いのできっと血なんだろうとリントは思った。

 食べ物以外にも的当てやくじ引きなどもあり、どちらかというとヴァインが童心に帰って遊んでいた。


 力比べの出店では屈強な男との腕相撲対決が行われていた。ヴァインは参加すると言い立ち向かった。

「ヴァイン様、王だからと手加減はしません」

「望むところだ」

 両者拮抗していたがヴァインは負けてしまった。リントは残念がった。しかしヴァインは何を思ったのかもう一度挑戦し始めた。リントは心の中で応援していた。

 結果は同じく負けてしまった。ヴァインはもう一度といい三度挑戦した。

「ヴァイン結果は変わらないって」

「なんだリント応援してくれないのか」

 負けず嫌いなのかヴァインは勝つまでやめなさそうだった。

 三戦目、両者拮抗。心の中で応援していたが周りの観戦者も熱くなったのか盛り上がっていた。リントもそれに乗じて

「ヴァイン頑張って」と声を出した。

 すると今までの力は嘘かのように一瞬で倒してしまった。景品として大きい蝙蝠型のクッションを貰ったヴァイン。それをリントにあげる。

「やはり応援は力になるな」

「私の応援を待っていたってこと?」

「心で思っているだけじゃ伝わらないからな」

〝吸血鬼だから伝わっているくせに〟

 と思ったが思っていることは素直に口に出そうと決めた。


「リントじゃん!ちょっと痩せこけてない?大丈夫?」

 しばらく歩くとコータに声をかけられた。パレードの参加者と言うよりかはスタッフとして働いているようだった。

「コータさん、お久しぶりです。まあ色々忙しくて」

「そうだよねアトルピアの方が意外と大変だったかもね」

 リントとコータの会話は弾んでいくのをヴァインは気に入らないのか、わざと二人の間からリントに声をかけた。

「もうすぐ御一行様がくる、場所をとろう。コータお前は持ち場に戻れ」

「相変わらず嫉妬心むき出しだな。はいはいわかったよ、じゃあねリントまた話そうね」

 コータはいなくなってしまった。

「ヴァインちょっとやりすぎだよ」

「二人の貴重な時間だ、邪魔されたくないだけだ」

「そういえば御一行様ってあまりいい表現じゃないですよ」

「本来はこのパレードで使用していた言葉だ。有志で集まったり、ゲストとして呼んだりして盛り上げてもらっていた。ほらダンスやマジックをしながらこの町の中心まで歩いていたんだ」


 パレードの目玉である御一行様に視線が奪われる。歩きながら繰り広げられる変化にリントは釘付けだった。

「すごい」

「それがいつしか奴隷になってしまったがまたこうして本来の姿に戻って俺は安心した」

 御一行様を見つめるヴァインの目は優しい目をしていた。

「こんなこと聞くの野暮かもしれないけど二人はどうなったの」

「ガルドとネーブルか。変わらず二人とも地下牢で厳重に拘束中だ」

「ガルドにはもっときついことすると思っていた。あの日だって動けずにいたから何もできなかったわけで、それこそ見せしめとかに使うかと」

「俺がリントのこと見せしめに使うと言ったのをまだ根に持っているのか。それも一瞬考えたがあいつらとやっていること変わらない気がしてな。それに少数派の人間達とも上手くかかわる上でそういうことするのは良くないと思ってな。俺があの事件前から少数派の人間と関わっていればもう少し早く解決できていたかもしれないな。でも今こうしてリントと出会えたからこっちの方が幸せだ」

「私もヴァインと出会えてよかった。まさかヴァインとこうして出かけるなんて夢にも思っていなかったし」


 すると花火の音が聞こえてきた。


「おすすめの場所がある。行こう」

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