第二話 好きな人の力って偉大

 翌朝、冷たい感覚で目が覚めたリントは目の前にヴァインの寝顔があることを理解するのに数秒かかった。

「ヴァ、ヴァイン!」

 飛び起きた。

「もう朝か、おはようリント」

「なんでここにいるの!」

「やはり覚えていないのか」

 少しショックをうけるヴァイン。

「え、いつからいたの?まさか窓から入ってきた?」

「そんなことはできるがしない。昨日からだ、昨日職場から出てくるまで待っていた。職員出入口でも少しだけ話したぞ、それも覚えていないのか」

「ごめん、全く覚えていない。もう最悪だよ。こんな状態で会いたくなかったのに」


 ふと部屋の散らかり具合が目に入る。

「あーもっと最悪!なんてタイミングの時に来るかな」

 ヴァインは受け取ったメモをリントに見せる。

「リントが助けてくれと言ったじゃないか」

「だからって、こんなすぐに来ると思わないもん」

 リントに抱きつくヴァイン。

「俺は助けてと言われたらすぐに行く、覚えとけ」

 リントはヴァインに会えるのは嬉しいが、安易に助けてと書くのはやめようと思った。


 ヴァインはリントをなだめながら、

「仕事休めないのか」と聞いた。

「明日やっと休みなの、だから今日は行かないといけない」

「そうか」

「もしかして帰っちゃう」

 ヴァインが寂しそうに答えたので少々不安になったリント。

「いや帰らない。しばらくはいる予定だ」

「ならちょっと頑張れる」

「それならよかった」

 リントは出勤の準備をする。

「じゃあ行ってきます」

 少し名残惜しそうに家を出るリントだが、

「あぁ行ってらっしゃい」

 ヴァインの声と行ってきますに対して行ってらっしゃいが返ってくるのがずっと一人暮らしだったリントにとっては何よりの喜びになった。おまじないかのように今日の業務は問題なく乗り越えられる気がした。


 実際その日の業務は不思議と心穏やかにできた。住民の心無い言葉にもうまく受け流すことができ、精神的にも肉体的にも疲労を感じずに仕事ができていた。

〝家に帰ればヴァインがいる〟

 単純だが意外とこれが原動力にもなっていた。


 ヴァインに早く会いたい欲が出たのか残業することなく定時であがり家に帰る。

「ただいま」

「おかえり、待っていたぞ」

 ヴァインがまだいた。いるのは分かっていたはずなのに安心してしまい、リントの方から抱きついた。

「リントの方からくるなんて珍しいな。今日も疲れたのか」

「疲れたけど昨日ほどじゃないし、家に帰ったらヴァインがいるってだけで今日は頑張れた」

「この後予定とかはあるのか」

「ないけどなんで」

 ヴァインはにやりと笑い、リントを外に連れ出す。

「どこ行くの?もしかしてアトルピアで気になるお店とかあった?」

「アトルピアじゃない」


 ヴァインはリントをお姫様抱っこで抱え三段跳びで飛び上がった。

「ちょっとヴァイン!もしかして空飛んでる」

 ヴァインを掴む手が強くなるリント。

「怖いなら目をつぶっておけ」

 恐怖で目をつぶりたいが初めて俯瞰で見るアトルピアの夜景をしばらく見ていた。

「私の町、こんなに明るいんだ」

「リントが守っている町の明かりだ。そして…」

 加速するヴァイン。

「見ろ、クローヴァンだ」

 工場で暗かったクローヴァンではなくネオンサインや色とりどりの電飾で飾られにぎやかになっていた。

 ゆっくりと降り立ち、ヴァインはリントを案内する。


「ようこそ、クローヴァン名物『眠らないパレード』へ」

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