第八話 喋り過ぎ注意
「私ともう一人、当時は上司だったダバラとアトルピアに来た。そこで私はネーブルに一目惚れをしてしまった。今思えば吸血鬼の魅惑にやられただけかもしれないがそれでも構わなかった。ネーブルのためなら何でもすると誓った。工場の存在はその時から気になっていた。ダバラがいたときは廃工場だという説明だけで終わってしまったが、何の工場か気になった私は一人でクローヴァンに向かった。そこでもネーブルに会い、彼女と一緒に工場の中に入ったんだ。石炭の加工場ということはすぐにわかった。どういった経緯で潰れたかはわからなかったが何を作っていたかさえわかればそんなことどうでもいい。そんな時ネーブルが機械にぶつかり血を流した。そして偶然にも石炭の欠片に落ちた。するとどうだ、その石炭が赤く光りだしたんだ。綺麗だった。落ちた血は段々結晶のように固まり石炭と同化した。できたものを触った瞬間ネーブルは震えていた、すごいものができたと。興奮した震えだった。あふれ出る力をどう手に入れようか考え、最初はすりつぶして飲んだ。確かに力はみなぎったが弱かった。そしてたどり着いた。そのまま食べることに。ネーブルは強くなったことが手に取るようにわかり実感していた。これを量産しよう。そう二人で決めた瞬間だった。それからも調査の為クローヴァンに行き石炭はクローヴァンで、血はアトルピアで集めることにした。問題は集め方だ。そこでネーブルは言った。ヴァインがずっと王の仕事をしていて私に構ってくれない。ヴァインとの時間が欲しいと。そこで私はクローヴァンはひたすら石炭を掘ってもらう奴隷にし、アトルピアは楽しく無理なく血を集めれるようにした。すぐに政策を企画した。納品税制度という。吸血鬼も一定数いたし他の種族もいた。さらに研究すればより強い血鉱石が作れるのではと。ここからはとんとん拍子に話が進んでもう笑ってしまった。途中邪魔が入ったが信頼は私の方が上だったようで邪魔者は消えた。アトルピアの準備はそろった。そしてあの事件を起こした。私はフードをかぶり新たな王として人間と吸血鬼達を支配した。より力を得るためにその時にネーブルの使い魔になった。血鉱石を定期的に摂取していた彼女は人間だった私を使い魔に出来るほど力を得ていた。本当驚いた。力を得るために私も血鉱石を食べた。もう世界が全て私のものになった気分だったよ。それから定期的に送るようにし、代わりにアトルピアから材料をすべて送った。それで完成だ」
「自分語りがやっと終わったか」
「これが全容だ。全てうまくいっていた。なのにヴァイン! 貴様が送ったメモのせいで崩れ始めた。リントはまあ仕事はそこそこできるが、やる気がある職員ではなかったからな。最初は焦ったがリントは弱音を吐いて私には変えられませんとか言って帰ってくるだろうと思っていた。しかしどうだ? この現状を変えたいと言って来た。なにがそうさせたかはわからんが大方貴様のせいだと睨んでいる。帰ってきたリントはそこから役所内をうろちょろうろちょろして目障りだった。だからわざと捕まらせ今はきっと安らかに眠っているだろう」
「まるで殺したような言い方だな」
「そうだ、飯に毒を仕込ませたからな。残念だったな彼女にもう一度会いたかったか? まあすぐに会わせてやるから」
「反吐が出るな。悪いがここで死ぬ気はない、見せかけの王に誰もついていかないぞ」
「それはどうかな? 王命だ、そこにいる吸血鬼の王を捉えろ!」
ガルドは兵士に命令を下すが誰も従わない。
「ちょっと!ここにいる方は数年前のあの日の王よ、忠誠を忘れたの」
ネーブルも催促するが兵士は動かない
「忠誠も何も、これが無いと動かないだろ」
コータがポケットから紙を取り出す。
「その紙!」驚くガルド。
「これまたアトルピアで納められた狼人間の毛皮だろ。くだらないことに使いやがって」
コータは紙を丸め、ガルドに向かって投げる。
「そうだ、これがあれば。ほらみろ! これに従え」
誰も動かない。
「何故だ!」
「悪いけどここにいる兵士はあの時もお前に従ったわけじゃない、それがあったから動いただけ。だがそれももうおしまい。今は…」
「二人を捉えろ」
ヴァインの低い声が兵士を動かした。
兵士が一斉にネーブルとガルドを囲み取り押さえる。
「まさか、兵士を使い魔にしたのヴァイン?」
「そんなことはしない、ここにいる兵士は皆自分の意志で私のもとについた。私は何もしていない」
ヴァインが倒れた日の夜、ヴァインとコータ、ブロウのもとに声をかけた人がいた。それが兵士達だった。
「あの…少しいいですか」
コータとブロウは警戒する。ヴァインだけが兵士の話を聞く態勢だった。
「何の用事ですか、ヴァイン様はまだ万全ではない。炭鉱場に連れていくと言うなら私を先に…」
「ブロウ待て。どうした話を聞こう」
「俺達皆何のために働いているかわからなくなってきまして、あの事件以降従ってきましたけど、王は結局いないじゃないですか。でも先程のあなたを見て皆あなたについていきたいといってまして、その今までの非礼もお詫びするのであなたのもとで働けないでしょうか」
炭鉱場にいた兵士、街中で見張っていた兵士全員が今までのことを謝りに来た。
「これからは私の指揮に従うというのか。もしあの事件の王が来ても私の言うことを聞くというのか」
ヴァインは彼らに尋ねた。
「はい!約束します」
ヴァインのもとに現れた意外な協力者はヴァインが指示する事完璧にこなした。
「監視や奴隷の御一行の準備など日常通りに過ごし、傍らでは工場の破壊に尽力してくれた」
協力した兵士達は奴隷を鎖につなげ工場破壊の音を消すため今まで通り炭鉱場まで歩かせるが、炭鉱場に着いたら採石場まで連れていきそこから解放し各々自由に過ごさせた。石炭はもう掘っていなかった。時間になると再び鎖につなぎ地下牢に戻す。それを繰り返し、見張っているであろうネーブルを欺き続けた。
「本物の王には必然と国民が付いてくるものだ。張りぼての王では誰もついてこない」
ヴァインは冷酷な目でガルドを見下す。ガルドは悔しさを露わにすると思ったが高笑いをし始めた。
「証拠はどこにある」
「まだ反発するか、証拠などついさっきべらべらと喋っていたではないか」
「口では何とでも言えるからな、私は自分で見たものしか信じない」
「じゃあ私が死ぬ瞬間も見るべきでしたね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます