第六話 ふかふかの寝具には勝てない
リントがアトルピアに戻った数日間の話を聞いて感情の起伏が激しくなっていたが、何とか落ち着き始めたリント。
まさかネーブルを振って自分のことが好きと言ってくれるとは思わなかった。互いにそれぞれの地で好きという感情を抱いていたことに素直に嬉しくなった。
「リントも俺のこと好きだったのか」
また油断した。心を読まれてしまった。
「尊敬の意味でです! だってヴァインさんにはもっと似合う人というか吸血鬼がいますよ! 第一ヴァインさんは王ですし! 私がオーラに負けて隣なんて歩けないし! 身長差もかなりありますし!」
「俺は意志を伝えたのにリントはそんなこと言うのか。でも確かにそうだな吸血鬼と人間、王と市民、身長差もある。が、俺はリントのこと好きだ。もちろん愛の意味で。しかしリントは愛の意味での好きではないのか」
「待ってください」
焦るリントを見て柔らかく笑うヴァイン。しかしすぐに真剣な顔に戻る。
「俺はずっと嫌われていると思っていた。初めて吸血鬼を怖いと思わせたことが俺の中で引っかかっていた。俺がメモを送らなければ怖いと思うことなく吸血鬼を受け入れていたのかと思うと申し訳ないことをした。その後も素直になれずにいた」
リントはヴァインの思いを静かに聞いている。
「でも気が付けば俺はリントに惹かれていた。俺は俺でリントに思いを伝えるのをためらっていたが怖いと思っていなくて安心した」
ヴァインの思いに応えるようにリントも思いを伝えた。
「私も嫌われていると思っていました。すぐ答えだせなかったり、イライラさせてしまったりとか。あとアトルピア出身がなにより」
「確かにな」ヴァインは笑って答えた。
「でもずっとヴァインさんのこと考えたり、同期に聞かれて意識したり、今だっていてもたってもいられなくなってクローヴァンにいますしね。尊敬の意味でも好きですが、私も本当は愛のほうで好きです」
ヴァインは静かにリントを抱き寄せる。リントもぎこちなく腕をヴァインのほうにまわす。
「おーい僕らいるの忘れていないよね」
リントは手を引っ込め、ヴァインは急に抱き寄せていた腕を放し話題を変えた。
「
「皆喜んでやっています。だから気が付かなかったんです」
「そんなことまで調べていたとはな、感心する」
「それがこの政策考えたのガルドなんですよ。ここでも繋がるとは思っていませんでした。調べておいてよかったです」
「…怖かっただろう。そんな奴の下で働いていると思うと」
「そうですね。でもヴァインさんの方がもっとつらいだろうと思ってました。そう思って何とか乗り越えられました」
「リントもそこまで俺のこと思っていたのか」
「当たり前じゃないですか!だって…!」
リントは言葉に詰まった。
「だってなんだ」
答えられないリント。心を読まれまいとただの森を浮かべている。
「はっきりしろ」
力強くも今までで一番優しい言い方だった。
「だってヴァインさんのこと好きなので」
「ヴァイン様!」
「何故俺だ」
「当たり前です。いきなり多くの情報言われてリント様もお疲れでしょうから休ませてあげてください」
「そういえばリントどうする?ネーブルが見張っていると考えると王宮の外に出すのは危険だよね」
「客間がある、そこで過ごせばいい」
「といいますか勢いで来たので何も持ってきてないです。着替えとか」
「それは僕に任せて、必要な物用意するからあとで教えて」
リントはヴァインに連れられ客間に行く。見たこともない装飾で飾られた部屋はリントの部屋の数倍もあった。
ヴァインが部屋の説明をし終え、再び二人きりになった空間で照れが生じるリント。
「ずっと仕事に追われて私こういうの慣れていないからなんか照れます」
身長のあるヴァインが必然的にリントを包みこむように抱き合う。ヴァインの冷たい体温とリントの暖かい体温が二人を適温にしていく。
「ヴァインさん」
「ヴァインでいい。フランクに話すのも許可する、堅苦しいだろう」
「でもかなり年上なので、努力はします」
抱きしめる力が強くなるヴァイン。
「どうしましたか」
「離したくないなと思ってな」
「ちょっとだけ苦しいです。これからのことも考えましょう」
リントは思わずヴァインの背中を叩き苦しい意思表示をされ、仕方なく離すヴァイン。リントと目が合いまた抱きつきたくなった。
「ヴァインさん、照れちゃうのであまり見つめないでください」
「まだ呼んでくれないのか」
「そのうち呼びますから!」
「楽しみにしている」
ベッドに二人、腰を掛けヴァインはリントの方を見るが、リントはすでに倒れ込み寝ていた。夜通し飛んでいたこととヴァインに会えたことで忘れていたが不眠である。ちゃっかり蝙蝠と鴉も寄り添うように寝ていた。
「仕方のない奴らだ」
ヴァインはリントの寝顔を見つつ、ポケットから血鉱石を取り出す。これを食べればネーブルと戦える。リントを守れる。そう考えていたがどうしても血鉱石の存在自体が許せなかった。しかし今の状態では血鉱石によって強化されたネーブルに勝つのは不可能である。
「リントの血があれば…」
ヴァインは寝ているリントの首元を噛みつこうとするが、理性が働き寸止めでやめた。
「もう襲うのはやめたんだ。だがもしもの時は吸ってもいいだろうか」
ヴァインの願いはリントには聞こえていなかった。
ヴァインは一緒に横になりたい気持ちを押さえ部屋を出る。
「お楽しみのところ悪いけどとりあえず作戦たてたよ」
コータとブロウがヴァインに作戦を伝える。
「ガルドが来るまでの三日間でやれることはこんな感じ。リントが起きたら伝えて」
「わかった」
「ガルドはここにリント様がいることを知りません。これは無駄にしてはいけません。彼らの誤算になるでしょう」
「ネーブルもガルドと合流することを考えるとクローヴァンのことを見張っているだろうし、だから日常のまま過ごす。日常を過ごしながら工場の無力化」
「あの時のようなことはさせない。ここで失敗するともうチャンスはきっと訪れない。再びクローヴァンを取り戻すラストチャンス。無駄にはしない」
三人の目には静かな闘志がみなぎっていた。
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