第四話 よくわからないものに手を出すのはやめましょう
「話は終わったか」
いつの間にかリントの背後にいたヴァインは明らかに怒っている。顔が真っ赤なのでまだ会いたくなかったリントだった。なるべくヴァインに顔が見えないよう角度を調整してコータの話を聞いていた。
「まだ。
「早くしろ」
かつてリントに向けられていたイライラが今はコータに向けられていた。
血鉱石の話からはヴァインとブロウも参加して聞いていた。
―――――――――
ヴァインがリントへの思いをコータに話した翌日。リントからの手紙が牢にいるヴァインに届く。
「見たいものがあるのか、コータに見つけてもらうしかないな。この手紙をコータに見せてこい」使い魔はコータを探しにヴァインから離れた。
ヴァインの使い魔に起こされるコータ。
「なんだよ、お前確かヴァインとこの使い魔か。足になんかついてるな、なになに日記探しね、よし王宮に行こう」
コータは蝙蝠を連れて王宮へ向かった。王宮に着きリントが言っていた日付を探すコータ。
「アトルピアから誰か来た日っていつだ?」なんとか探し出したが、
「おいおいこんな数行しか書いてないのかよ、役に立つとは思えないけどとりあえずリントに渡すか。蝙蝠お前日記のまま運ぶのは無理か」
小さい体に一冊の日記は少々厳しすぎた。
「さてどうやって送ろうかな。破るしかないよな、破ってもいいかな、いいよね……すまない!」
頁を破り蝙蝠に持たせた。
「確実に渡せよー。さて俺もやることやるかー」
王宮を出たコータは夜まで準備をしていた。
夜になりコータは工場への潜入を試みる。出入りの無い正面玄関からの侵入を考え、そこから一番近いフェンスを超え敷地内に入った瞬間、警報が鳴り響いた。
「嘘だろ!」
正面玄関に着く間もなく急ぎ戻る形でフェンスをよじ登り、近くの物陰に隠れるコータ。
「まさか警報が鳴るなんて考えもしなかった、くそ、油断した。思ったよりも厳重だな。中に入れるのはやっぱやり取りが発生しているときか」
騒ぎになっている工場に目をやると作業服を着ている人が数名、異常を探し回り慌てていた。
「誰かいたか!」「こっちにはいません!」
侵入者を探す声が響く。
コータは息をひそめながら工場を確認しているとフェンス付近を調べている作業員のポケットからふと何かが落ちたのに気付いた。落とした当人は気づいていないようだ。
見回りが終わったのか正面玄関の方は誰もいなくなり、コータは警戒しながら作業員が落としたものを確認する。ただの石のように見えたが念のために手を伸ばす。
「中で作られているものか?」
フェンスが邪魔だったが何とか手を伸ばし石を掴む。
掴んだ瞬間、石から脈を感じた。いや正確に言えば掴んでいる右手の血管が震え全身に伝わったのだ。持っただけで石なのに強い力を感じる。
「なんだこれ」
まじまじとその石を見る、周りは石炭の黒光りだが所々赤く反射する。地面にあて少し欠けさせるとまるで加工前の原石のように赤い結晶が出てきた。
「まじでなんだこれ、周りは石炭のようだから炭鉱場でとれたモノだろう、でもあれはただの石炭だ、開けたところでこんな赤い結晶は出てこないはず。これが加工したものってことか。もしかしたら加工途中かもしれない。一旦ヴァインに見せてみるか」
ちょうど鐘の音が二回聞こえた。
「今日は素直に手薄の時間を狙いますかっと」
炭鉱場へ急ぎ走って向かうコータだった。
やはりこの時間の監視員はどこか自由だ。誰も炭鉱場の方を見ず仲間同士で談笑している。
そんな光景を横目にコータは奥に進んでいく。
「ヴァイン」コータはヴァインを呼ぶ。
「珍しいな、変なことせず手薄の時間に来るなんて」
「工場を調べてたらこんな時間だった。でも工場で警報発動させたよ」
「はぁどうでもいい」
「それよりヴァインは昔の工場のことどれくらい知っている?何を作っていたかとか」
「工場については何も知らない、あそこは廃工場だったはずだ。奴隷の間に気が付いたら稼働していた」
コータは先程の石をヴァインに渡す。
「工場の作業員のポケットから落ちてきた。もしかしたらこれが作っているものか、あるいは加工途中のものだとは思うけど何かわかる?」
ヴァインも石を受け取った瞬間、衝撃が走った。
「お前、これを持って何か感じたか」
「うまく説明できないけど、なんというか力を感じた。それだけ。持っただけで何かできるわけでは無さそう」
「これには同胞の血を感じる。それに他の種族のモノも感じる」
「どういうこと?」
「少なからず吸血鬼の血が使われいるのは確かだ」
「石炭と血を加工しているということか、でもおかしくないか。ここの吸血鬼は血の搾取はされていないはず。待てよもしかして荷台の中身は」
「どこからか取り寄せた同胞の血液の可能性がでてきたな。クローヴァン以外にも奴隷として扱われているところがあるのかもしれないな。リントに伝えろ、何か役に立つかもしれない。使い魔は今どこにいる。そうだ、朝頼んだことはやってくれたか。リントが見せて欲しいと頼んできたのだ、応えねばならん。確か王宮にあるはずだ、探したのか」
「ヴァイン落ち着いて。日記のことならそこの部分破って持たせた。だから今アトルピアに着いた頃か、もし寝ていたら朝読むと思うよ」
「そうか、ならよかった。朝に見るとしたら、こっちに帰ってくるのは早ければ夕方か夜か。帰ってきたらすぐコータのところに行けと伝える。俺の代わりに工場のことと他にも被害にあっている場所があるかもしれないと伝えてくれ」
わかったとコータは炭鉱場を後にした。
―――――――――
「これがその石だ」
ヴァインはリントに血鉱石を見せる。目を合わせず物だけ受け取った。
「使用用途は食べる事です。食べることにより力が増し強くなるそうです。実際ネーブルはこれを陰で食べていたと思われます。ヴァイン様も見たこともない力を使っておりました」
「ヴァインさんもこれを食べたらもっと強くなるのでは」
「これには同胞の血が使われている。正直あまりいい気がしない。クローヴァンでは血の搾取はないから他国から取り寄せていることを考えるとクローヴァンが片ついたら搾取されている国も助けたいところだ。その時も協力してくれるか」
「それアトルピアかもしれないです」
「何?」
「うち独自の制度があって住んでいる吸血鬼は毎月血を納めているんですよ。狼人間は毛だったりします。ここ数年人間からの財源だと赤字のはずなのに黒字なんです。だから納めた血や毛をどこかに換金しているのかって話してたんです。まさかクローヴァンに流していたなんて」
「だからアトルピアと共同で作っていると言っていたのか。許せないが無理やり搾取しているわけではなさそうだな」
「アトルピアと共同で作っているって誰が言ったんですか」
「ネーブルだ」
「血鉱石の存在がばれた後ちょっと厄介なことが起きたんだよ。それが戦争に繋がる話でもあるね」
ヴァインとコータは続きを話し始めた。
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