対峙

第一話 すべてが順調にいってる

 リントを乗せエマの鴉は夜通し飛び続け、クローヴァンに着いたのは翌朝だった。太陽が昇り始めているこの時間であれば王宮の地下牢にいる可能性が高いと思ったリントは正面ではなく王宮側からクローヴァンに入った。

 朝とはいえ人間の活気が無いように感じた。

「こんなに静かで暗かったけ、やっぱり戦争が始まるのかな」

 鴉が元の大きさに戻りリントの後をついていく。蝙蝠は先頭でリントを案内していた。


 王宮の地下牢に着くと寝ている吸血鬼達で溢れていた。話では十五人と聞いていたがそれより多い人数だった。牢の鍵は開いており、一人一人のスペースは確保されているよう。牢の鍵が開いていても脱走や反発する者がいないのはやはりヴァインの統率力だろうか。反対に牢が開いているのに人間がやってこないのは戦争が始まる前の様子見と言ったところだろうか。そうリントは考えていた。


 リントはヴァインを探すも見つけられずにいた。声を出して探すわけにもいかず、ひたすら顔を見ていると背後から低い声が聞こえた。

「リントか」

 振り返るとヴァインは王としてクローヴァンを治めていたであろう時の格好をしていた。以前コータが着ていた黒いシャツと紅いベストに、違うのはベルベット生地の重厚感のあるマント。裏地はベストと同じく時間が経過した血のような紅、表地は漆黒に所々金の装飾があり、まさに王が羽織るのにふさわしいマントだった。ヴァインもそれに負けていない風格にしばらく圧倒されていた。

「リント、こっちに来い」

 ヴァインに小声で呼ばれ我に返るリント。ヴァインに駆け寄った。

「ヴァインさんその恰好…」

「しっ。皆が起きてしまう。こっちだ」

 ヴァインはリントを連れ王宮の奥、王室にリントを通した。


 王室に着くなりヴァインはリントを抱き寄せる。まさか抱き寄せられると思っておらず硬直してしまう。

「リント元気だったか、何かあったのか、どうしてここにいる、夢ではないな」

 質問が止まらないヴァインにリントは笑ってしまう。

「ヴァインさん落ち着いてください。クローヴァンが大変なことになりそうなので助けにきました。まだ策はないですけど」

「策などなくてよい、リントがここにいるだけで心強い」

 ヴァインがこんなことを言うとは思わず思考が停止していた。


 しばらくリントを離さなかったヴァインだったかどこか視線を感じ渋々離れた。ヴァインに視線を送っていたのはコータとリントにとっては初めましての人だった。

「感動の再会のところ悪いけど、リントがここにいるってことは問題発生かい」

「コータさんお久しぶりです。隣の方は」

「初めまして、ブロウと申します」

 リントも挨拶を済ませ、ブロウも王宮の人らしい格好しているのが気になった。

「ヴァインさんもブロウさんも素敵な恰好ですね。でも何故そんな格好をしているんですか」

「吸血鬼側の統率の為だ、王たる格好をしていずれ来るであろうあの時の王に復讐するためだ」

 ヴァインの目はリントがアトルピアの住民と知った時と同じ目をしていた。

「ヴァイン、リントが怖がるから。その目はあの時の奴の前だけにしてね。それよりリントはどこまで手紙を読んだ?」

「ネーブルさんの話と血鉱石けっこうせき、あと戦争になるかもしれないって、だから同期の力を借りて急いできました」

「僕が送った最新のだ良かった。そこまで知っているんだったら話は早いね。クローヴァンの現状としてはそんなところ。一番の問題は戦争だね。血鉱石の存在がばれた以上ネーブルが何か仕掛けてくる可能性が高い。実際一瞬だったけど吸血鬼対人間の構図が生まれたんだ。人間側が吸血鬼達を怖い存在だと認識し始めたし、吸血鬼側はいつでも反撃しようと思えば反撃したいけど、ヴァインがそれを制止させている。だから地上にいた吸血鬼達も今は一緒に地下にいるんだ」

「俺としては何とか避けたい話だ。ただ虐げられたのは事実。この怒りもどこかにぶつけたいのは一緒だ」

 ヴァインは王として耐えていると思っていたがいち吸血鬼として石を投げられることや、仲間にされたことを許してはいないんだなリントは感じた。


「ネーブルにつけば怒りに任せてクローヴァンを取り戻せるだろう。だがそうするべきだはない。俺の戦うべき相手はネーブルだ」

「ネーブルさんって日記に名前書いてありましたよね? その人が裏切ったって具体的に何があったんですか」

「正確に言えばあの事件の王と協力して、工場で血鉱石を作っていたらしい。それに今のアトルピアにもう一人協力者がいるはず。アトルピアからクローヴァンに来た人の中でネーブルしか見ていなかった奴がいたらしいね」

「ガルドと言う人です。私がクローヴァンから帰ってくるなりもう手を引けと言われました。終いには、そいつのせいで捕まりもしました」


「捕まっただと!?」


 ヴァインの声が王宮に響くほど過去一の声がでた。

「同期や協力してくれた人のおかげで無実が証明されましたから大丈夫です」

「リントにも協力者がいてよかったよ。実は僕らにも協力者が現れてこうして自由に動けるようになったんだ。感謝しないとね」

「コータさんの方にも協力者が現れたのですか?少数派の人達ではなく?」

 コータは含みのある笑顔をして濁した。リントは協力者が誰かわからなかった。

「今はまだ内緒。まあすぐにわかると思うけど。それよりリントの方は? ここにいるってことは何かあった? それとも戦争を止めないとと思って来ただけ?」

「両方ですかね。ガルドは多分こっちに向かってきています。アトルピアでわかったことをそろそろ伝えようと思った矢先にあの手紙が来たので」

 リントはアトルピアでわかったことを話し始めた。


「クローヴァンと繋がっていたのはガルドという人物で私の上司です。私が入社する前にクローヴァンに行きネーブルさんという方と繋がったんだと思います。そこでやり取りをして今のクローヴァンになったと思います。正直裏が無いのでガルドがどのようにしてクローヴァンを私物化したのかはまだわからないんですよね。連絡方法も手紙とかではなさそうですし」

「ガルドという奴は人間か? 何かの種族か」ヴァインが聞く。

「人間だと思っていたら人間じゃなくなっていました。動物と話せると思っていたら全動物ではなくヴァインさんの蝙蝠と、同期の使い魔の鴉とは伝えたいことが分かるようでしたが、それ以外の動物とは話せていなかったです。それに同期曰く誰もいないのに叫びながら会話していたと」

「簡単な話だ。そいつはネーブルの使い魔になっているのだろう」

「え!人間も使い魔に出来てしまうんですか」

「血鉱石のせいで力が増幅されているならば人間も使い魔にすることは容易いだろう。それにクローヴァンからアトルピア間の念のやり取りくらい出来ていてもおかしくない。使い魔同士でも会話はできる。考えられるとしたらそれだ」


 リントはガルドが番犬とは会話できなかった理由がわかった。

 まだクローヴァンにかかわる前ガルドとエマ、ユアンの四人で飲みに行った時、酔った勢いで見せてくれた動物との会話だがよく考えればエマに蝙蝠を出させていた。その時から動物と話せると思っていたがそうではなく、使い魔と話せるということだったと勘違いをしていたと気づかされた。

「ネーブルの使い魔のガルドと言う人物がこちらに向かってきている。早急に作戦会議の必要がありますね」ブロウが答える。

「多分三日はかかると思います。飛ぶ力とかはないので」

「三日あればなんとかできるかな。よしブロウと作戦会議してくるから、二人は思い出話でもするといいよ」

 ブロウをつれてコータは出ていってしまった。

 王室に急に残されたリントとヴァイン。沈黙の時間が続く。

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