第五話 嫌われている?
ガルドが嘘をついていることが分かった翌朝、リントは出勤してすぐ会計課に行き書類を返却した。その足で都市政策課に向かおうとしたがガルドが出勤したのが見えたのでそのままUターンして環境課へ向かった。
今日もまたガルドからの視線を感じながら仕事をして、気が付けば昼休憩時になっていた。リントは再度都市政策課へ行ってみた。
「お疲れ様です。環境課のリントですが、見せていただきたい資料がありまして」
「何ですか?」
気だるく対応する男性、声も小さくぼそぼそとしゃべり、リントは少々イライラしていた。
「二年半前に都市政策課でクローヴァンに出張していると思うのですが、その時の記録や報告書等を見せていただきたいのと、あとガルドさんが考案した納品税制度関連の書類とかもあったら見せていただきたいです」
「少々お待ちください」
リントは少し周りを警戒しながら待っていた。
「お待たせしました。こちらが出張記録で、こちらが政策関連の書類です。使用用途はなんですか」
「あーえっと環境課として新しい住民を受け入れるための予備知識的なものです」
「クローヴァンってあまりいい噂無いですよね、奴隷受け入れるんですか」
「それも含めて調べたいので。お借りしますね」
あのままいるとイライラに乗じて反抗してしまいガルドにばれそうと思ったリントは足早に都市政策課を後にした。
午後、ガルドは少し出かけてくると言い退勤した。リントは今だと思い、都市政策課から借りた書類をユアンと共に見ている。エマは公休だ。
「出張には二人で行っているみたいだね、ガルドさんともう一人は?」
「ダバラ? 初めて聞く名前だ。書類返すときに聞いてみる」
「至って普通の出張って感じだね、でもそのあとすぐにガルドさんは納品税制度を提案している」
「出張と納品税制度は関係ないんじゃない? たまたま時期が近いだけで直接の関係はなさそう」
都市政策課でダバラについて聞くとし、リントとユアンは納品税制度についての資料に目をやる。納品税制度についても特におかしな点はみられなかった。
「ユアンも毛を納税してるでしょ、エマは何納品しているんだろう」
「確か血だったはず。だから納めた翌日いつも不機嫌だし体調悪そうだよね」
「だから注射とか試験管とかいっぱいあったのか」
「エマが作ってくれた血のやつ? あれも本当は納税の時に使うものなんだろうけどいっぱいあるから使ったんだろうな」
納品税制度のいいところは自分達で調整ができるところ。個体差や突然の病気などを考慮して、年間で決まっている量を納品すればいいので余力がある月は多く、反対に出せない月は未納品でも構わない。ある住民はコツコツ納め、ある住民はひと月に全量といった具合だ。また申請すれば免除も可能なので、その自由度が好評で決まった量すら納められない滞納者はいないのが現状である。
「税金もそうなればいいのに」
ただし人間は例外である。
「でもここ最近人間以外の種族が増えてきてるから街の財源は少なくなっているはずなのに赤字になって無いよね、むしろちょっとプラス。絶対人間だけの税金じゃ足りないのに、なんでプラス何だろう。そもそも毛とか血ってどこに行ってるんだろう」
リントが考えていると、
「換金しているんじゃない?プラスになっているあたり明確なお金になっていないとおかしいからね。それこそ税務課に行ったらわかるんじゃない」
「もし換金されていたらユアンは嫌じゃない? 自分の毛が何に使われているか怖くない?」
「血はわからないけど、毛皮は需要あるし僕はあまり気にしないかな」
そんなものかとお金を納めているリントにはわからない考え方だった。
「そういえば、ヴァインさんについて詳しく教えてよ」ユアンが興味津々に聞く。
「元々クローヴァンの王で、あの事件がなければ今もヴァインさんの王政だったと思う。まわりの吸血鬼達もヴァインさんの言葉一つで動いているから信頼されているなって。最初は殺されかけたけど…でも今は私もヴァインさんのこと素敵だなって思うし、今はメモのやり取りというか私が一方的に状況を送っているだけだけど、また直接話したいって思ってる。でもヴァインさん私のこと嫌いだと思うな」
「どうして」
「第一印象が良くなかったかもしれない、怖くておどおどしてたら低い声で早くしろとか帰れとか言ってくるし。もちろんすぐに答えが出ない私が悪いんだよ。私が悪いの前提で優柔不断な人が嫌いなのかもしれない。それに決定的なのがアトルピア出身ってとこだと思う。ヴァインさんの蝙蝠が私にぶつかったから仕方なく協力してくれているけど、本当はもっとしっかりした人に助けてもらいたかっただろうし、もしそんな人だったらもうとっくに解決してそうだよね」
リントは自分の無力さを改めて痛感した。
しかしユアンがフォーローする。ユアンにフォローされてばかりだ。
「リント自分を卑下しすぎじゃない?それに本当に嫌いだったら協力すらさせないと思うしメモのやり取りなんてやらない。それに血だって断固として受け取らないと思うよ」
「血に関しては命の危機だったからこれも仕方なくだよ」
「じゃあもし、ヴァインさんが好きだって言ってきたらどうする」
「え!好き?なんで」顔が赤くなるリント。
「もしもの話だって、嫌われてなかったらの話」
リントは少し想像してみるができなかった。ヴァインの隣なんて歩けたもんじゃない。遠めに見ているくらいで丁度良かった。
「合わないよ。まずヴァインさん背高いんだ。私と頭二個分違うから、段差があるところ二段くらい上でやっと目線が合うし。それにやっぱオーラが違いすぎる、向こうは王だからね。初めて会った時もそのオーラにやられたもん、私じゃ不釣り合いだよ。物理的にも身分的にも」
リントは自分で言いながら心が痛んだ。ヴァインの横を歩けるなら歩きたい。でも私ではという思いが強くなってしまった。
「ごめんリント。悲しくさせたかったわけじゃないんだ。今、状況が状況なのもあるけど一日中ヴァインさんとクローヴァンのことを考えていて生き生きしていたから。出張行く前のリントだったら、ガルドさんが任せろって言ったらはい、お願いしますって言ってたと思うな。でもそうじゃなくて自分で解決したい思いが強いから、クローヴァンの為によりかはヴァインさんの助けになりたいんだなって」
「ありがとうユアン。そう今はそんなこと考えている場合じゃないよね! クローヴァンとヴァインさんを助けないとだね。資料を返すついでにダバラさんのこと聞いてくるよ」
ダバラという新しい登場人物について新たに情報を集めようと都市政策課に向かった。資料を持ってきてくれたぼそぼそ男(命名:リント)がまだいたので聞いてみた。
「資料ありがとうございました。ちなみにこの報告者のダバラさんという方はまだいますか」
「ダバラさんですか、あー彼は辞めました」
「え!」
リントの声が響いた。
「彼は辞めてます。都市政策課のお金を横領したとされて辞めさせられたに近いですかね」
「え!」リントの声が二度響いた。
「あまり大きな声では言えないんですけど、濡れ衣説もあって。それに他の職員はダバラさんのほうが信用しているので無罪だと思っています。それに俺は違うって知ってますけどね」
「じゃあなんで真実を話さないんですか」
「リントさんでしたっけ? 何年働いているんですか? わかるでしょ、ここは組織ですよ。上の指示が絶対なんです」
「そうでしたね…ちなみにダバラさんは今辞めてどちらに」
「アトルピアに住んでいる噂もあれば遠い町に引っ越した噂もあってわからないですね」
「そうですか、ありがとうございます」
リントは都市政策課を後にした。
どうしたものかと頭を抱えながら環境課へ戻るとガルドがすごい形相でリントを待っていた。
「げ」
もう役所に帰ってこないと思っていたのでガルドのことを考えていなかった。
「げとは何だ! 仕事もせずどこにいた!」
「すみません!」
謝ることしかできないリント。
「さっさと仕事に戻れ!」
また書類を持っていたら尋問が始まってしまうので返す時で良かったと心から思った。
それからはガルドはリントの仕事が終わるまで監視を続けてきた。住民課に行ってダバラについて調べたかったが今日は無理だなと思い定時退社を目指した。
職員出入口でリントを待つユアン。
「ユアンお待たせ、帰るときもガルドに小言言われちゃった」
「僕もまさか帰ってくると思わなかったよ。やられたね」
「監視状態での仕事はいつまで続くのやら。今回救いだったのが書類見ている時じゃなかったのと、返し終わった後で手ぶらだったこと。そうじゃなかったら終わってた」
「書類系は一通り確認したから次なる任務はダバラさん探しだね、どこにいるのやら」
「残っていることとしてダバラさん探しと、あと最初で最大の難関協定についてか」
「協定については俺らじゃ無理だよ、もっと上の部署だよ」
「そうだよね」
「とりあえず変な動きを調べるだけでも違うと思うからそこは変わらず調べ続けて良いと思う」
「じゃあ今はダバラさんか、ヴァインさん何か知ってたりしないかな」
今日はユアンと別れ、家に着く。今日もまたやることを早々に済ませメモを書く。
〝ダバラさんという方を知っていますか? もし知っていたら教えてほしいです〟
と書いて飛ばそうとしたが蝙蝠がいなかった。
「あれ、まだ帰ってきてないんだ。まさかクローヴァンでなにかあった?」
焦るリントだが何もできずにいた。
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