第四話 情報漏洩にはご注意を

 ヴァインへの思いを少々引きずりながら出勤したリントは出張費申請の紙にガルドから判を貰い会計課に来ていた。

「お疲れ様です環境課のリントです。これ先日の出張費の申請です、確認の方お願いします。あ、それと外交で使用した会計リストみたいなのってありますか?ちょっと調べたいことがありまして」

「お疲れ様です。どちらも確認してきますので少々お待ちください」


 会計課で資料探してもらっている間、隣にある税務課に相談に来た獣人の親子の会話が聞こえてきた。

「うちのこまだ毛が生えていなくて、税の納品を遅らせたいのですが」

「かしこまりました。まずは状況を調べますので、お名前を…」

 暫くその様子を見ていたリントは会計課の人が来ていたことに気が付かなかった。

「お持たせしました、まずは出張費の申請受理しました。リントさん?」

「あ、すみません」少し反応が遅れたリント。


 会計課の人も親子の会話に興味を持った。

「アトルピア独自の政策、納品税制度。いい制度ですよね、お金だけじゃなくそれぞれの特徴を利用してそれを税として納めるなんて」

「私は人間なんでしっかり税ですけどね」

 リントは少し嫌味を含めた言い方をした。

「ふふ、あのお子さん毛がまだ生えていないのか、そこはちゃんと考慮するのもいい制度ですよね」

「まだ施行されて二年経ってないくらいですよね、たしか私が入社する前くらいに話題になった気がする。そうだそれで税務課は嫌だなって記憶思い出しました」

「案として提出したの、そちらのガルドさんだった気がします。その時はまだ環境課ではなくて、確か都市政策課だったかな?だから話し通しやすかった気がします」

 まさかここでガルドの名が出ると思っていなかったリント。

「あ、それと外交で使われた会計リストです、年度の指定がなかったのでかなりの量ですが」

「一旦、三年前くらいのリストから借りて良いですか、早めにお返しします」


 リントはそれでも膨大なファイルを持って環境課に戻るがガルドと鉢合わせてしまう。

「リント油売ってないで申請したならさっさと戻れ。なんだそのファイルは」

「あーはい!すぐ戻ります」

 ファイルのことには触れず、すぐその場を離れるリント。


 自席に戻りファイルを流れるように鞄に入れ、呼吸を整え、普通に仕事に戻ろうとするリントにユアンが思わず突っ込む。

「いや、すごいスピード感。無駄がなかったね」

「ガルドさんに悟られないようにするため」

 貼り付けたような笑顔で答える。

「そういえばそのガルドがやばいかも、夜いつもの店で話すから」

 エマも頷く。貼り付けた笑顔から引きつった笑顔になった。


 ガルドをなるべく避け、定時に上がった三人はいつもの居酒屋に行く。

「ユアン、ヤバイって何が」

「朝、判貰って申請しに行ったでしょ、数十分も経っていないのに〝あいつどこ行きやがった〟って言ってて」

「え、帰ってこないからってこと?」

「わからないけど、すぐ出しに行くのはわりとある光景なのになんか怖かったよ」

「怖すぎるって、普通の行動しただけなのに」


 リントは驚きで口からこぼれた飲み物を拭こうと鞄を持ち上げる。

「あ、やばい」リントが声をあげる。

「どうしたのリントちゃん」

「会計課から借りた資料、持ってきてしまった…なんか重いなと思ってたけど、ガルドから逃げるように帰ってきてそのまま入れっぱなしにしてた…」

「あーこれ大問題になるね。とういうかなんで会計課の資料を?」

「出張費とかクローヴァンへの食事代とか申請してないかなって昨日申請書書きながら思って借りてきた。とりあえず三年分」

「三年分って結構探すの大変じゃん」

「でも何もしないよりはまし、自分で確認したいから」

「気を付けなよ、書類持ち帰ってしまっただけでも問題なのに、ガルドにばれたら…」

「はい、気を付けます」


 いつものように二人と別れ、家に着く。やることを早々に済ませリントは資料をめくり続ける。

「この一件が終わったら違う課に異動したいな」

 なんて冗談を言いながらめくっていると、約二年半前に都市政策課がクローヴァンへ出張しに行っている記録を見つけた。

「ここだ、この時に何かが起こったかもしれない」

 そしてその後、クローヴァン接待として外交交際費を申請しているのも見つけ、申請者の名前を確認するリント。

「え」


 申請者はガルドだった。

「ガルドさん、公的ではないって言ってなかったけ、仕事でクローヴァンに行ってるじゃん」

 ガルドは何かを知っている、そう思わずにはいられない。リントにこれ以上クローヴァンを詮索されるのを嫌がるのもきっとガルドが何かしら関わっているからかもしれない。そう思い始めてきた。

「ガルドがクローヴァンに公的に行っているってことはヴァインさんと会っているかもしれない!」

 リントは急ぎメモを書く。


〝アトルピアからクローヴァンに向かった記録がありました。その時のヴァインさんの日記が見たいです〟


 殴り書きに近い雑なメモを蝙蝠の足にくくり飛ばした。正直見れるとは思っていないが、ヴァインの方で何かを思い出すきっかけになればと期待も込めたメモだった。

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