第三話 こんな状況で進むわけがない

 翌朝出勤すると一週間分の溜まった仕事がリントを襲った。

 なんとかこなしながらも頭の中はクローヴァンへの手掛かりとなる資料探しでいっぱいだった。


 休み時間にガルドの目をかいくぐりなんとか資料室へ行くが、これといった手掛かりになるようなものは探せなかった。というか真剣に見れていないのが事実だ。

「なんかわかった?」

 隣席のユアンが尋ねる。

「ガルドさんに怯えながらと時間との勝負だったから、満足に探せなかったのが本音かな」

「ねえリントちゃん、いっそのことガルドさんに直接聞いたら?」

「聞いた方がいいのは分かっているんだけどあの時直感が働いたのが気になって。だってもし……」


「私が何だというのだ」

「うわぁ!」

 急に現れたガルドに驚き心臓が止まりそうだった。実際止まっていたかもしれない。

「クローヴァンのこと何かわかりましたか」

 リントは焦りながらもガルドが引き継いだと信じて進捗しんちょくを聞いてみた。

「昨日の今日だろ、まだ何もしていないが」

 至極当然のことを返されてしまった。


「ちなみにガルドさんはクローヴァンに行ったことあるのですか」

 ユアンがさりげなくアシストしてくれた。

「私用でなら行ったことあるが公的なことではないな」

「クローヴァンってそんな観光できるところあるんですか」

 エマは今のクローヴァンしかわからない為イメージが湧かなかった。リントも観光スポットを考えたが、コータがクローヴァン名物と言った奴隷の御一行様が浮かんでしまいすぐに頭を振った。あげるとしたら王宮かなとリントの中ではそういった結論に至った。

 

「何かがあるわけではないが、昼間は静かで過ごしやすいだけだ」

「今は違いましたよ、昼間の方がいろんな音がありました」

 つい口をはさんでしまったが罵倒や鎖の音すべてを思い出してしまい、気持ちが沈んでしまったリントだった。

「リント、クローヴァンのことを気にしているようだがもう忘れろ」

 そう言いガルドは部屋に戻る。

「忘れろ、は無理があるよ! あんな光景見せられて。今だって話ながら思い出しちゃったし」

「リント意外と正義感あるもんね」

「私も私用でクローヴァン行こうかな。プライベートのほうが自由に動けるし」

「すっかりクローヴァンのために働いているじゃん」

「有給もあるし、申請するだけしてみようかな」

「問題はこの状況で許可でるかな」


「駄目だ」

 案の定だ。ガルドの部屋に行き、1週間の有休を申請してみたが結果はこの通り。

「それにクローヴァンに行く気だろ」

 かつ、魂胆もばればれだった。

「リントの業務はクローヴァンへの視察だ。それが終わった今、改めていく必要はないだろう」

「確かにクローヴァンへは視察でしたが、あの現状を見て、これでおしまいはできません。心残りがありすぎます。どんな結末になろうとも最後までこの業務をやらせてください」

「ほだされたか」

「え?」

 ガルドから出た言葉が理解できず聞き返したリント。しかしガルドは言った言葉を忘れたかのように楽観的なり、

「リント俺が信用できないのか。大丈夫だ、クローヴァンも明るくするから。それにまだ出張してた時の仕事終わっていないだろ、早く終わらせろ」

 また追い出されてしまった。ユアンとエマと目が合い、首だけ振って通らなかったことを伝えた。


 本日の業務が終わり、いつもの道を三人で帰る。

「今日は何もできなかった…」

「また明日見つけようリントちゃん!」

「そういえば出張費の申請した? ああいうの忘れるから早めにした方がいいよ」

「確かに、まだしてなかったかもしれない。明日申請するか」


 二人と別れ、家に着く。やることを早々に済ませ今日分のメモを書くリント。


〝今日は特に情報得られませんでした。また明日頑張ります〟


 意味あるかなと思いながらも蝙蝠の為に作った巣箱をノックする。すると蝙蝠が顔を出し、足にメモをくくらせてくれる。結び終えたらクローヴァンに向けて飛び立つ。これがルーティンだ。


 ヴァインへのメモを蝙蝠に託し、寝ようとしたがふと出張費のことを思い出し申請書を作り出した。

「これを明日、会計課に出して…会計課にも何か手掛かりあるかも!」

 リントは考えられる役所内の課をすべて考えた。


「ヴァインは一度アトルピアに来たことがあるから外交関係、でもこれはもっと上の部署だ。私が行って書類を見せてくれるとは思えない。しいて言うなら都市政策課?ちょっとあたってみるか。あとはどれくらいもてなしたかはわからないけど会計課、これは調べられる。あとは警備の話もあるだろうからこれは交通課か」

 など考えを巡らせる。

「ヴァインさんやクローヴァンは今どうなっているかな。早くしないといけないのに、ガルドさんに任せられないよ」


 リントはぶつかった時のヴァインの顔を思い出す。

「あの時のヴァインさんの顔本気で驚いている顔だったな。そもそもコータさんが急に押すのがいけないし!」

 そしてなぜかエマの「かっこよかった?」も脳内再生される。


 初めましての時は鋭い目だったが、今思い出したヴァインの目は少し柔らかく感じた。威圧感も気が付けば前ほど感じていない、何より血が入った試験管を渡した時、少し口角が上がっていたのをリントは見ていた。

「あの時ヴァインさん少し笑っていたよね。素直に打ち解けたって捉えていいかな。いやでも最初襲われそうになったし! ヴァインさんのことだから、何か成果が無いと認めてくれないよね」

 自分で発して言葉に焦りと恥じらいが出てきた。リントは巣箱を見て、

「ヴァインさん、私のことどう思っているのかな」

 メモのやり取りは一方通行、ヴァインの気持ちが知りたいリントだった。

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