第九話 疑ってしまい申し訳ございません
町の中心まで来て、リントはコータに聞く。
「もしかしてヴァインさんと私が話す時間を作るためにあんな騒ぎを?」
「そうだよ」
「ありがとうございます。助かりました」
「いいって、でも話せなかったんでしょう?ヴァインは話せたって言ってたけど。時間も時間だし昼御飯食べながらその辺の話も聞かせてよ」
二人は昼御飯を食べにお店には入った。ここもコータおすすめの定食屋でメニュー豊富で日替わりで食べたくなるものばかり。目立たないところに吸血鬼用の料理もあった。店主は女性の方でありがたいことに個室に通された。
「で?ヴァインとどんなこと話したの」
「えっと、助けたいと意思表示をして、案はあるのかと聞かれたのですが何も考えてなくて、すこしおどおどしてたらまた殺されそうだったので思わず殺さないでくださいって言ってしまいました。それに対してまたなんか怒られるかと思いましたが、名前聞かれて終わりました。あとはコータさんと作戦会議しろって」
「結構話してる気がするけどリントにとっては収穫はなかったってことだね」
運ばれたご飯を食べながら話を続けるリントとコータ。
「でもヴァインさんにとっては収穫があったということですよね?話せたと言ってましたし」
「僕が言っていいのかわからないけど、ヴァイン的にはアトルピアってだけで拒絶してたけどリントの本心が聞けたからだと思うな。しかもヴァインはずっとリントのこと〝あの女〟呼ばわりしてたから名前も知りたかっただろうし」
「そう考えるとヴァインさんにとっては今知りたいことを全て知れたということですか。それは話せたとなりますね。そういえばコータさんとヴァインさんの関係ってなんですか。炭鉱場の時から気になっていましたがあの時はまさかつけられてると思ってもいませんでしたので」
コータは悪い笑みを浮かべながら、
「対価を支払えばね教えてあげるよ」
「またその手法ですか。コータさんが味方とわかった今でしたら教えますけど盗み聞きしてわかっているんじゃないですか?」
「もちろんわかっていることもあるけど改めてリントの口から聞きたいんだよ。実はすべて演技でヴァインに近づいてさらにクローヴァンを苦しめようとしてるかもしれないし」
「私がそんなことできないのわかってて言ってますよね。正直に答えますから」
コータは知りたいことを一問一答形式で聞いてきた。リントもそれに合わせて答えていった。
「出身は?」
「アトルピアです。生まれも育ちも」
「クローヴァンに来た理由は?」
「ヴァインさんが使い魔にメモを持たせてそれを私が受け取ったから。職場には視察ということで話が通っています」
「僕のこと最初疑っていたでしょ」
「コータさんのこと最初は信用できませんでした」
「あははやっぱり、そうだと思った。警戒心むきだしで。なのにすぐばれる嘘つくからこっちがひやひやしたよ」
「なんかすみません、本当に信用できなくて」
いいよいいよとコータは慰める。
「今度はコータさんのこと教えてください」
リントは同じように質問した。
「出身はどちらですか」
「クローヴァン、同じく生まれも育ちも」
「ということは先日話していた少数派の一人ですか?」
リントは追及した。
「そう、アトルピアほど友好関係があるわけじゃないけど、互いのテリトリーは侵さないし、互いに見えないところで支えあっていたよ。僕は住民だからヴァインのことは知っているけど、ヴァインは存在は知ってるけど個々の名前とかまでは知らなかったんじゃないかな。現にヴァインが捕まってからの顔合わせでは覚えていなさそうでちょっと最悪だったし」
「クローヴァンがどうしてこうなったか最初から知っているんですね。本当にアトルピアが関わっているんですか」
「もしアトルピアが関わっていたらリントはどっちにつくの?」
すぐに答えられなかった。コータの低い声が追い打ちをかける。
「吸血鬼達も少数派もアトルピアが百パーセント悪いと思っている。でもリントはメモを受け取るまで他所の話だと思っていた。何が起こったかを知ってリントはどうするの」
「まずはなにが起こったか教えてください。それから考えるではだめですか」
「それもそうだね。まあヴァインが僕と作戦たてろって言ってきた時点でリントがアトルピア側につくとは思っていないんだろうけど」
昼食を食べ終え、リントとコータは王宮に向かった。先程のお店は少数派の人が営んでいる定食屋だと後から知り、吸血鬼用のメニューがあることや個室を用意してくれたことに納得したリントだった。
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