第七・五話 もやもやする
住民が寝静まった夜の深い時間、ヴァインは牢で昨日今日の出来事を振り返っていた。
「使い魔と共に現れたのは弱弱しい人間の女。いや一瞬だが初めて目が合ったのはあの行列の時か、いつもと違う視線を感じたのはそういうことか。まさかあの女が私を救うと? 採石場で接触してきた時から正直外れだと思ったし、自分でも思っていたしな、頼りないと。それでいてアトルピアからだとふざけるな。また別のメモを渡して探してもらうか。そもそも何故使い魔がそっち方面に向かったのも気になる」
直接聞き問い詰めたいところだが肝心の
「どこに行きやがった」
使い魔は何故アトルピアに向かったのか、方向音痴ではないはず。なにかあいつの中で思ったことがあるのかもしれない。自分の意図を理解できる使い魔が間違った判断をするわけがない、アトルピアの方に向かうなどヴァインの恨みや復讐心をわかっているならする行動ではないはず。ヴァインは考えを巡らせる。
ふとリントが叫んでいたことを思い出す。
〝末端も末端だから平和な部分しか知らないし〟
「アトルピアは大層平和な場所なようで。吸血鬼を怖いとも思わないとな。クソっ!誰のせいでこうなったと思ってる!」
牢の壁に拳をぶつけるヴァイン、壁には少しひびが入った。
「荒れてるねーヴァイン」
「コータ…」
鉄格子越しに会話する二人。
「ひやひやしたよ、本当に殺すんじゃないかって」
「アトルピアというだけで許せなかったのは事実だ。正直お前がいるとしても信用できないのが本音だ」
「でも僕はちょっと歯車が動いたと思うよ」
ヴァインは黙ってコータを見る。ヴァインは再びリントが叫んでいたことを思い出す。
〝ずっと心が痛いんです〟
〝現状を知ってしまった以上このまま帰るわけにいかなくて〟
〝自分の力でどうにかしたいと思ったんです!〟
「あの女にここを変える力があると思うか、言ってただろう末端だと」
「ヴァインからしたら皆末端だろう。どうする、もう少し話してみる? 彼女の話も少しは聞いてあげてさ」
「…好きにしろ」
了解、と言いコータは出ようとするが、なぁ、と呼び止められる。
「俺は怖いか?」
「最初はね誰でも怖いと思うよ。でも僕もそうだったけど知っていくうちにその誤解が解けていく感じかな。どうしてそんなこと聞いたの」
「別に気にするな。威厳が失われていないか確認しただけだ」
ヴァインが何故こんなことを聞いてきたのかコータはものすごく気になったが一旦地下牢を後にした。
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