第七話 お先真っ暗?


「はいストップ」


 陽気な声がした。

 リントは恐る恐る顔をあげると吸血鬼達はその場で声がした方を見ている。つられてリントも視線の先にやるとコータがいた。

「え、コータさん?」

「お前、何をしに来た」

 溜息交じりにコータに問うヴァイン。ヴァインとコータは知り合いなのか先程までの殺気立った空気がなくなっていた。吸血鬼達もいつの間にかくつろいでいた。


「彼女の帰りが遅いから迎えに来ただけ。それにしてもヴァイン、せっかくの救世主を襲うなよ」

「こいつは使えないし使う気もない」

 リントに言葉のナイフが刺さった。

「決めつけるのは早いよ。さ、とりあえず一旦帰ろう。宿まで送るから」


 コータはリントの手を引き炭鉱場を出る。その背中をヴァインは見つめていた。リントはヴァインからの言葉に地味にショックを受けほぼ惰性で動いていた。コータの手引きがないと歩けなかったかもしれない。頭の中はヴァインの言葉とアトルピアが関わっているかもしれないこととコータがここにいることとかでぐちゃぐちゃだった。


 炭鉱場入口まで着いた頃にはなんとか自分を取り戻したリントはコータに質問をする。

「コータさんはヴァインさんと知り合いですか」

「知り合いというか協力関係かな?だからリントももう警戒しなくていいよ、ちゃんと味方だから。それにヴァインのことも気にしなくていいよ。僕が説得しておくから」

 そう言われてもリントは今起きていること全てへの理解が追いついておらず、コータへの完全な信用はできなかった。何か進展があると思ったヴァインへのアプローチも話ができていない以上、クローヴァンにいる意味を失っていた。


「それにしてもアトルピアから来てたとは。そりゃ顔を逸らすわけだ」

 リントの意識がはっきりした。クローヴァンにきてヴァインにしか話していない、しかもつい先程話したばかりのことをコータはすでに知っていた。

「なんでアトルピアから来たって知っているんですか」

「だってリントが心配でずっと後を追ってたから。ヴァインに押さえつけられたところ痛くない? 大丈夫?」

 ヴァインとの会話を全てコータに聞かれていた、ヴァインとの出来事全てをコータに見られていた。


 リントは思わず宿に向かって駆け出した。ちょっと! とコータは声をかけるもリントには聞こえていない。頭がすっきりしていない中での衝撃事実にリントはパンクしていた。どうして走り出したのもよくわからずにいた。


 宿に着いたリントはアトルピアへの帰り支度をする。吸血鬼からも人間からも命を狙われると思ったリントは一秒でも早くクローヴァンを出ようとする。実際メモの送り主であるヴァインからも使えないと言われたし、帰れとも言われた。問題ない。


 しかしその手を必死で止める弱い力があった。ヴァインが出した使い魔の蝙蝠こうもりだった。

「離して!君のあるじは私を殺そうとしてたでしょ!」

 蝙蝠は横に首を振る、蝙蝠のはずなのに人間らしい〝違うよ〟という表現に思わず手を止めたリント。

「帰ったほうが命の危険は少なくなるけど、でもまだ知りたいと思っている自分もいる。もうどうしたらいいかわからないよ」

 リントはその場にしゃがみ込み再び頭を抱えるしかできなかった。

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