第六話 人の話は聞くもの
炭鉱場入口で辺りを警戒するリントだったが監視員がいないことに気が付いた。以前コータと訪れたときは炭鉱場の入口に監視員がいたはずだが何故か今日はいなかった。中に入るべきか迷っていると、
「メモ見たようだな」
背筋が凍るような低い声が入口から聞こえてくる。
「えっとヴァインさんですよね」
「そうだ」
彼の姿が月明かりに照らされはっきりと見えた。会うのは行列の時も含め四回目だが意識して見たのは今回が初だった。
見た目は二十代後半だが吸血鬼ならば見た目年齢は関係ない、端正な顔立ちに鋭い赤い目、シャープな輪郭、そして相変わらずの頭二個分の威圧でリントは
リントは威圧に押され頭が真っ白な状態で、
「か、監視員いないんですか?」
と聞いたが緊張のあまり声が裏返ってしまった。
「この時間は監視が薄くなる。酒を飲み始める奴もいる」
「仕事中ですよね」
「知らん、俺に聞くな」
背筋が伸びるリント。初手の会話のキャッチボールは失敗に終わった。
「貴様どこから来た」
リントが信用できるかどうかまるで面接だ。当たり障りなく答えようと、
「ア、アトルピアから来ま…」
「アトルピアだと!?」
彼の表情が、空気が変わった。
「帰れ! 貴様の手は借りん!」
リントに怒りをぶつけるかのように突き放されてしまうリント。怒りに満ちた紅の目と、牙が彼を吸血鬼だと再確認させられる。ヴァインは炭鉱場の中に戻ろうとする。
「ま、待ってください!どうしてアトルピアと言っただけで…」
ヴァインは振り返り、睨みつけリントの口を手で押さえつける。
「二度とその名を口にするな! 貴様らのせいでこの始末だ!」
知らない事実がまた浮かんできた。コータはヴァインのせいだと言い、ヴァインはアトルピアのせいだと言っている。クローヴァンの噂にアトルピアが関わっているなどリントは考えもしなかった。
ヴァインに押さえつけられている力が強くリントは呼吸ができなくなってきた。精一杯首を横に振り少しでも空気を取り込もうとする。少し我に返ったヴァインは手を放す。リントはむせながら呼吸を整えヴァインと向き合う。
「知らない、本当に知らないです。教えてください!何があったんですか」
しかしヴァインはリントのことを信用できなかった。
「貴様に話すことなどない。アトルピアに帰るといい、ご足労をかけた。だがまた会うときは貴様が死ぬ時だ」
一瞬だけこちらを見たヴァインの目はアトルピアへの復讐を宿していた。すぐに向き直り採石場に戻っていくヴァインの背中にリントは叫んだ。
「待ってください!本当に何も知らなくて!役所で働いていますが末端も末端だから平和な部分しか知らないし、見えていなくて。あなたのメモを受け取って初めてクローヴァンに来てこんな町があるなんてと思うとずっと心が痛いんです。現状を知ってしまった以上このまま帰るわけにいかなくて、知りたいと思うことが増えていくんです。私は人間だからアトルピアでも結局何もできなくて、いつも助けてもらってばかりだけど自分の力でどうにかしたいと思ったんです!だからその…」
勢いで口から出た言葉をそのまま伝えたリントは段々話がまとまらず尻すぼみしてしまう。
ヴァインは立ち止まって聞いているようだったが、リントが言葉に息詰まっているとすたすたと炭鉱場の中へ消えてしまった。待ってください、と急ぎ後を追うリント。
慣れた足取りで奥へ奥へと進んでいくヴァイン。その間リントは歩幅の大きいヴァインについていくので必死だった。明かりもなく足元もよく見えていない為リントはよくバランスを崩していた。リントがうわとかおっととか言ってもヴァインはリントの声など聞こえていないかのように進んでいく。
なんとかヴァインの後を追い、かつてコータと見た採石場まで来たリント。ここでもあの時見た光景とは違い、監視員がいないからか吸血鬼達はのびのびと過ごしていた。
「ヴァインおかえり。後ろの人が協力者?」
女がヴァインに聞く。ヴァインはちらとリントを見て、
「こいつはあのアトルピアから来た人間だ」と紹介した。
アトルピアの五文字を聞いただけでそこにいた吸血鬼全員の顔と空気とが変わる。先程のヴァインと同じく怒りをリントにぶつけるまなざしだった。
「アトルピアの奴が一人でこんなところまで」「死にに来たんだな」吸血鬼達の心の声が聞こえた気がした。
「ヴァイン、そいつどうするんだ」
一人の男がヴァインに問う。
「ここは炭鉱場だ、死体の一つや二つ出てきてもおかしくないだろう。そうだ、こいつを使って地上にいる人間への見せしめにでも使うか」
その一言で士気が上がる場内。ヴァインの仰せのままにと一歩一歩近づいてくる吸血鬼達。初めて吸血鬼が怖いと感じたリントは足がすくみ動けなくなり終いには恐怖で頭を抱え
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