第四話 王にも色々ある
炭鉱場はコータと出会った町の入口場所から少し離れたところにあった。監視員に見学したいと伝え中に入れさせてくれたが、珍獣を見るかのような目で見られた。
炭鉱場は暗くランタンの明かりが頼り。奥に進むと採石場で数人の吸血鬼達が作業していた。皆真っ黒になりながら採掘や採れた石を運んでいた。地上で会った吸血鬼達もそうだったが、ここにいる吸血鬼達もやせ細っていた。
「ほらさっさと手を動かせ!」
監視員の一人が鞭で叩く。その衝撃で持っていた石を落としてしまう。それに対して再度鞭でたたく。
「何落としてるんだ!」
すいませんすいませんと謝る吸血鬼。また目を逸らしたくなる。
ふと奥に行列で目が合った吸血鬼がいた。監視員とコータにばれないよう
蝙蝠が帰ってきたことに気づいた彼はこちらを見た。
目が合う。
行列の時には気が付かなかったが暗い中でも目立つ赤い目が全て見透かすようにじっと見つめている。リントはどうしていいかわからずとりあえず会釈したが、彼はすぐ作業に戻ってしまった。
頼りないと思われてしまったかな。と、コータに声をかけ炭鉱場を出ようと背を向けた。
「待て」
重厚感のある声は一言発しただけで空気が変わった。吸血鬼達も監視員も彼に注目する。
「だ、誰が喋って良いと言った!」
監視員が彼に対して注意するが腰が引けている。
しかし彼は気にせずこちらに向かう。動じないその姿勢に監視員も何もできずにいた。
近くに来て気が付いたが頭二個分違う長身からその気がなくても見下されている感覚になる。もしかしたら見下していたのかもしれない。ただ相手は吸血鬼、何も考えないよう心を無にして何が起きるかのを待っていた。
「ポケットから落ちましたよ」
彼はリントの上着のポケットに新たなメモを忍び込ませた。
「ありがとうございます」
新たに貰ったメモには何が書かれているのだろうか。リントはドキドキしていた。
彼はすぐ持ち場に戻り作業を続けたが一連の身勝手な行動を許さない監視員は鞭で数発叩き込んだ。叩かれているのにもかかわらず目を合わせてきた。彼の視線から強い意志を感じたリントは再度会釈しコータとともに炭鉱場を出た。
コータが宿まで送ると言ってくれたので一緒に向かっている道中、
「リントに近づいてきた奴いたでしょ。あいつがリーダーだよ」
「どおりでオーラが違いました」
納得である。やはり彼が中心となってこの町を変えようとしている。リントは自分がいなくても彼一人で十分なんじゃないかと思っていた。益々自分がクローヴァンにいる意味がなくなり明日には帰れると思っていた。しかしコータの低く発せられた言葉がまたリントの心を変えた。
「あの王さえいなければ,こんなことにはならなかったのに」
コータの意味深な発言。
あの王とは、彼のことだろうか。御一行様で見た時から王を感じてはいたがまさか彼は傲慢な王だったのだろうか。それで人間の反感を買ったとか。でもそんな王が助けてなんて書くだろうか。これでもし助けたら実は悪党に手を貸したことになるのだろうか。
コータのたった一言で様々なパターンを考えてしまったリント。一旦整理をするためにもコータに、
「それってどういうことですか」
と尋ねるも、
「宿着いたよ。また明日も案内必要だったら言ってね! おやすみ!」
と言い、リントを宿の入口に残していなくなってしまった。
コータも何か知っている。しかし全てを信用していいのか判断がつかなくなっていたリントだった。
宿の部屋は小さいが暫く生活するには十分な広さだった。頭の整理が追い付いていない疲労でベッドに倒れ込むリント。コータは何者なのだろうか。奴隷の彼も何者なのだろうか。考えても答えなど出てくるわけもなく、ポケットから彼が入れたメモをひろげる。
そういえばあの瞬間、コータにはどう見えただろうか。実際にはポケットには何も入れていないので落とした物などはないが注目が集まっていた以上、彼の行動は怪しかっただろう。翌日以降コータに突っ込まれないよう事前に回答を用意しておこうか迷っていた。
蝙蝠の足に括りつけられていたメモと同じく墨で汚れた黒いメモには、
〝俺はヴァイン。明日の夜、鐘が二回鳴ったら炭鉱場に来てくれ〟
夜の鐘とは何だろうと思ったがちょうど二回鳴った。これを頼りに今度は一人で向かおうと予定を立てた。メモの送り主には会えたので帰ろうと思えば帰れたが、新しいメモも受け取りもう少しだけクローヴァンを知りたいと思った。
シャワーを浴びながらリントは報告書のことを思い出し急いで書き上げた。クローヴァンに着いたことと、噂通り吸血鬼達が奴隷として働かされていたことをまとめた報告書をエマが用意してくれたお目目きゅるきゅるの鴉に持たせ、リントは再びベッドに戻りそのまま寝た。
クローヴァンでの一日目が終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます