第三話 嘘はばれる

 奴隷の御一行様を見た町の中心から少し右奥の方に、丘の上からは見えなかったが小さな城があった。工場の煙で汚れてしまったのか漆黒しっこくの城に感じた。


「城のように見えるけど王宮なんだ、前にいた王のこだわりでね。城のような外観が好きなんだって。でも今はこの国を統率した人間はいないんだよね。だから無法地帯に近いけど。中はまた今度紹介するよ。多分また来るだろうし」

 意味ありげなことを残したが、それよりも気になったことを聞いた。

「統治する者がいないのにどうして普通の生活できるのですか」

「んーなんとなく? 今の生活に慣れてしまっているからかな、人間同士は争いしないし、何か問題あれば皆吸血鬼のせいにして丸く収まるもんね」

「そういうの本当は良くないですよね」

 え? と聞き返されたコータの声が低く感じた。

「そういえば散歩のついでに工場が見たいって言ってたけど家に帰らなくていいの? 時間は大丈夫?」


 低い声のまま聞いてきたのがとうとう何をしに来たのか怪しんでいると悟った。

「クローヴァンのことをもっと知りたくなって、さっきは確かに散歩って言いましたけど実は嘘で…旅しているんです! だからしばらくは泊まろうかと思っています」

 嘘に嘘を重ねてしまった。ばれる、絶対ばれる。嘘つくのが下手くそすぎる。苦し紛れの嘘はコータには通用しないのはわかっているが、あのオーラをまとった吸血鬼だけでも知るためにクローヴァンに留まりたかった。

 その思いが先行してしまい変な言い訳になってしまった。正直にアトルピアからきた視察ですと言うと、確実に炭鉱場にて吸血鬼でもないが地下労働行きだと直感が働きそれだけは言わなかった。


「そっか!旅人さんか!じゃあ宿取らないとね!」

 意外にもあっけらかんとした態度に自分の嘘は通用するのではとリントはうぬぼれそうだった。しかしコータの貼り付けたような笑顔がもてあそんでいるな、と警戒に変わった。接し方ちゃんとしようとリントは反省した。


 王宮を離れ、コータは安くて長居しやすいおすすめの宿があると紹介してくれた。町の中心に戻り、宿にて荷物だけ置かしてもらい、クローヴァン案内を再開した。

 今度は町の中心から左奥に工場はあった。工場から王宮は小さく見えるが行き交う人の姿までは見えなかった。工場から出る煙は風向きもあってやはり王宮側へ吹いていた。工場には着いたが何を作っているかはコータにもわからないそうだ。


「多分さっきの奴隷達が採掘した石を加工しているとは思うんだけど、ものが運ばれているのを見たことが無いから確信はないんだ。だから何を作っているのかも知らない。当たり前だけど中で働いている人だけが知っている門外不出ってやつ。でもここで作っているものが町の財源だから皆何も言わないし何も聞かないんだよね」

「普通は気になりませんか? 私は気になりますが」

「僕も気になるけど意外と皆、無関心な人が多いんだよね。前までどう暮らしていたのかも思い出せないくらい今の生活が当たり前に馴染んでしまったからね」

「工場の中にも吸血鬼が働いているんですか?」

「いや、工場は完全に人間だけらしいよ。理にかなっているよね、危険な事は奴隷に任せて、人間は加工するだけ。まあ奴隷だから仕方ないのかな。そうだお腹すいてない? ご飯食べに行こう! せっかくだし奢るよ!」


 半ば強引に連れていかれ少し早めの晩御飯をとることにした。案の定いろんなことを聞かれた。

「出身はどこ?」「今までどこを旅したの?」「仕事は何しているの?」「クローヴァンの次はどこ行くの?」などコータは止まらず矢継ぎ早に聞いてきた。全部の会話・応答次第で今後の命運が決まる気がしたリントはなるべく自然に答えた。

「東の方です(訳:純アトルピア民)」「まだ出発したばかりで(訳:出発してから三日目)」「カ、カウンセラーかな?(訳:窓口で話を聞いている)」「さらに東に行ってみようかなと(訳:帰りたい)」


 顔が引きつった状態での応答は振り返って思う。怪しすぎる。コータが人間で良かったと思った。同期のエマはたまに心で思っていることを当ててくるので聞くと吸血鬼には読心術があると教えてくれた。そもそも嘘つくこと自体良くないのは百も承知だ。

「リントって面白いね!あらかじめ用意された回答みたい!」

 ドキッとした。用意していたわけではないが、自分の素性がますますバレそうな気がした。

「あまり会話するの得意じゃなくて」

「そっかーじゃあもっと仲良くなってリントのこと知っていこう」


 すべてを話してしまいたい。アトルピアからSOSを受け取って来たこと。視察という名目で来たこと。SOSを出した吸血鬼を助けられることができるなら助けたい。なんて伝えれば幾分か心が楽になるのに。

「そろそろ炭鉱場いけますか?」

 話を逸らした。今のリントにできる精一杯の護衛である。

「そうだね、そろそろ行ってみようか!」本当にコータが奢ってくれた。そこには感謝したリントだった。

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