3-6 マウンテン・バトル【前編】(戦闘MAP-③)
武器も手に持たず、無防備に立ちはだかるフォーダに対してナムールは動揺していた。
「…女や子供に用は無い。さっさとそこをどけ!」
ナムールは苛立ち混じりの強い口調で言い放つも、フォーダが一向に怯む気配は無かった––––。
「剣士ナムール!貴方ほど腕の立つ方が、どうして山賊の用心棒なんてしているんですか?」
「…お前には関係無いだろう」
「お願いします…どうか、この無意味な戦いをやめて私たちに力を貸してくれませんか?もしそれがダメだと言うなら––––その剣で私を好きにして構いません」
両腕を広げたままの姿勢で、一歩…二歩とナムールとの距離を詰めていく。
「フォーダ、やめるんだ!」
「姫様、離れてください!」
慌ててマリウスとオズマがフォーダを止めようとしたが、彼女は制止を振り切って進む。
「––––止まれ。貴様は…死ぬのが怖くないのか?」
ナムールの声でようやくフォーダは足を止める。とは言っても、ナムールが一歩踏み出せば斬られる間合いまで詰め寄っていた。
「貴方はどこか悲しい目をしています…本当は優しい人なんですよね?それに私は人を見る目には自信があるんです。もし私が貴方に斬られるようであれば、私の目が曇っていただけの事です––––」
フォーダが言い終わると同時に、ナムールは彼女に一瞬剣を向ける。しかし全くフォーダが動揺する事もなく、彼女の覚悟と決意が見て取れた。
マリウス達は思わず間に割って入ろうと身体が動きかけたが––––予想に反してナムールはフォーダに向けた剣を納めた。
「…おかしな女だ。俺は女に斬りつける剣は持っておらぬ。お前が命を賭けてまで俺の力が欲しいと言うのなら仕方が無い…力を貸してやろう–––––」
・ナムールが仲間に加わった!
あまりにも予想外な展開に、ハラハラしながら成り行きを見守っていたマリウス達は驚きを隠せなかった。
「えっと…」
「…嘘だろ?」
レーナやジュリオも、自分たちを追って来た相手が幾らフォーダの命懸けの説得だったとは言え…あっさりと寝返った事が
そんな中、オズマだけは目の前の光景を見て少し懐かしい気持ちに浸っていた。
(あの頃から本当に変わらないな––––どこまでも真っ直ぐで、思い立ったら止まらない危なっかしい所もあるが…だからこそ姫様は人を惹きつける)
そんなフォーダに対し、オズマはずっと好意を抱き続けていたのだが…先日マリウスと手合わせをして彼を認めた時から、二人の仲を応援すると決めたのである。
それはさておき、ナムールが仲間に加わった事により危機は去ったかに見えたが––––。
「マリウス様!山賊達がこちらに向かって来ています。その数は…およそ二十!」
偵察に出ていたリンが姿を現し、差し迫る山賊達の襲来を報告する。マリウスは慌てる事なく次の戦いに向けて頭を巡らせ始めた。
「ご苦労様。頼んでおいた開けた地形の場所は見つかったかい?」
「はい、ちょうどここから数分進んだ辺りに少し開けた空間がありました。そこであれば馬も問題無く扱えるかと!」
リンの報告を聞いたマリウスは勝算が充分にあると確信する。
(敵の数は多くても、先ほどカイが相手した山賊のレベルを考えたら恐るるに足らないな。開けた地形であればフォーダ達が騎乗して戦える上、奇襲を受ける心配も無い)
マリウスは皆を見回しながら、戦闘準備の号令を出す。
「聞いての通りだ!すぐにリンの報告にあった場所に向かい、山賊達を迎え撃つ!ナムールも…よろしく頼むよ」
「ああ」
素っ気ない返事ではあったが、マリウスはナムールを信じると決めた。そしてジュリオとレーナにも声を掛ける。
「すまないが二人はこの辺りで身を隠していてくれ–––––山賊達は絶対に通さないからね」
「俺も!い、いや…なんでもねぇや」
ジュリオは一瞬「俺も戦う!」と口に出しかけたが、隣に居るレーナを見ていざという時に彼女を守るんだと思い定めた。
「巻き込んじまってすまねぇ…この借りは絶対に返すから––––だから絶対に生きて戻ってくれよ!」
「うん、約束するよ」
「ありがとうございます…あなた方に神のご加護を––––」
巫女服に身を包んだレーナはマリウス達に深く頭を下げた後、両の手を合わせ無事を祈る。
「それじゃあ皆、行こう––––山賊達を蹴散らすぞ!」
「「「『おおっ!!』」」」
「…ああ」
急いで目的の地点に向かうマリウス達。山道から急に視界が開け、向かい側から来た山賊達と鉢合わせた––––。
「なんだこいつら⁈」
「こんな奴ら、聞いてないぞ⁈」
「ちっ、ナムールの奴め…裏切りやがって。野郎ども!頭数はこっちが全然多いんだ、取り囲んで一人ずつ始末しろ!」
頭領らしき男が慌てる山賊達に喝を入れる。対するマリウスは敵の配置をすぐに確認し始めた。
[戦闘MAP-③ マウンテン・バトル]╔═════════════════╗
🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
オ⃝ア⃝⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎山⃝山⃝⬜︎山⃝⬜︎
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎山⃝山⃝⬜︎山⃝⬜︎
ナ⃝カ⃝⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎山⃝山⃝⬜︎山⃝山⃝
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎山⃝山⃝⬜︎⬜︎頭⃞
リ⃝⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎山⃝山⃝⬜︎山⃝山⃝
マ⃝フ⃝⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎山⃝山⃝⬜︎山⃝⬜︎
🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲🌲
╚═════════════════╝
※マ⃝:マリウス、カ⃝:カイ、フ⃝:フォーダ、ア⃝:アベイル、リ⃝:リン、オ⃝:オズマ、ナ⃝:ナムール、頭⃞:山賊頭領、山⃝:山賊、🌲:森林、⬜︎:移動可能マス(空白地)
素早くマリウスは皆に作戦を伝え、自軍の配置を終える。
両陣営の間には数十メートル程度ではあるが距離が空いており、山賊達は前進を始めていた。しかしマリウス達が動く気配は無い。
山賊達は距離を半分ほど詰めた所で、
「攻めて来ないのか?」
「へっ、怖気付いたんだろ!女も居るし、こいつらも取っ捕まえて…」
「–––––今だ!」
絶好のタイミングを見計らって、マリウスから攻めの合図が出る。その瞬間、前衛に居たアベイル・カイ・フォーダの三人は勢い良く馬を走らせた。
山賊達は直前に油断してしまった事もあり、完全に虚を突かれてしまう。三人は山賊達の前衛を一気に突き崩した––––。
だが迫り来る敵を全て倒すでもなく、フォーダ達は更に敵陣に向かって行く。
「おい、抜かれちまったぞ⁈」
「慌てるな…挟み撃ちにしてやれ!」
生き残った前衛の山賊達は、駆け抜けて行った三人を追いかけようと反転する。しかしその判断が運の尽きだった––––。
ザシュッ–––––––!
シュパッ–––––––!
ズバンッ–––––––!
「––––––え?」
「ぐはっ…」
「ごふっ」
何が起こったのか分からないまま、後ろを振り向いた山賊達は後ろから詰めて来ていたマリウス・リン・オズマ・ナムールによって倒されてしまう。
山賊達は自分達の移動速度を基準にしていたため、後ろから攻撃を受けるとは夢にも思っていなかったが––––後衛の四人は馬に乗らずとも、特に敏捷性に優れたメンバーである。
馬上の三人に気を取られている隙に後ろから一気に距離を詰める、というシンプルな仕掛けだったが効果は
策がものの見事に的中した事により、山中での戦の形勢は大きくマリウス達に傾いた–––––。
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[あとがき]
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!二章は次がラスト予定です、お楽しみに⸜(๑⃙⃘'ω'๑⃙⃘)⸝
もし物語が面白かった・続きが気になるという方は♡や⭐︎と作品・作者のフォロー、また感想をいただけるとありがたいです( *・ω・)*_ _))
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