3-5 剣士 VS 剣士
突然マリウス達が現れ、逃亡者に助太刀しようとしたため追ってきた山賊二人は慌ててしまう。しかし一緒に連れて来ていた用心棒の存在を思い出し、彼らは威勢を取り戻す。
「はっ、どこのどいつか知らねえが…俺たちに刃向かうとはいい度胸じゃねえか?」
「こっちには有名な剣士・ナムールが付いているんだからな!」
「……」
山賊達の隣に立つ長髪の男–––––全身紫色の服に身を包んだナムールは言葉を発する事は無かった。その代わり彼の静かな殺気がマリウス達にも伝わって来る。
マリウスも気圧されていたが、リンは特に殺気に敏感なようで怯えているように見えた。
「リン。すぐに他の山賊達が現れる可能性もある…奴らの位置や戦力の把握と、戦いやすそうな開けた場所を探してくれないか?」
「–––––っ、承知しました」
リンは命を受けた事で冷静さを取り戻し、スッと隠密スキルにより気配を消して行動を開始した。
そしてマリウスは目の前の相手に対して意識を移し、戦闘をシミュレートする。
(山賊の二人は大した事は無い。問題は剣士・ナムールだ…どれだけの人を斬ればあんな殺気を放てるんだ?正直、僕がやり合っても分は悪いかもしれない––––)
悩むマリウスの前に、オズマが前に出て剣を構えた。
「マリウス殿。この剣士様の相手は俺がさせてもらおうか」
確かにオズマなら剣闘士、傭兵時代に嫌と言う程生死のやり取りをしてきている。彼ならナムールの殺気に威圧される事なく、実力を発揮出来るだろう。
「分かりました…でもくれぐれも気を付けてください」
「ああ、分かってるさ…奴が尋常じゃないって事くらいはな」
そしてオズマに次いで名乗りを上げたのは–––––カイだった。
「それじゃあ山賊二人の相手は俺に任せてもらおうか。折角いただいた新しい武器を俺も試したいんでな」
「おいおい、馬を使えないこの状態で槍なんて扱えるのかぁ?」
「ふん、あの剣士と違って山賊程度なら訳ないさ」
「…ま、お前なら大丈夫だろうよ」
カイとやり取りするアベイルを見て、なんだかんだ信頼しているのをマリウスは改めて感じた。
「うん、あの二人はカイに任せたよ」
「承知しました––––すぐに蹴散らして参ります」
カイも鋼の槍を両手に構え、山賊達二人の前で対峙する。
「あぁ?全員でかかって来ないのか?舐めやがって!」
「お前達程度、俺一人で十分だ」
「くっ、あの世で後悔しやがれっ!」
安い挑発に乗せられた山賊達はいきり立ち、カイに向かって襲いかかった。
槍のリーチは確かに長い…が、それ故に重量があり動きは鈍くなりやすい。懐にさえ入ってしまえば、と思っていた山賊だったがその考えは脆くも崩れ去る事になる。
シュッ––––––––ドスッ!
カイの鋭い突きが山賊の一人の土手っ腹を貫く。相手は殆ど反応も出来ないまま、絶命した。
「くっ、くそぉっ…だがそいつからすぐに槍を抜けない、今がチャンスだ!」
山賊の言う通り、深々と山賊に刺さった槍を抜いて構える余裕は無い–––––それでもカイは焦る素振りを見せなかった。
「ふんっ––––––––!」
ブォン!とマリウス達の元にまで風圧が届きそうな程の勢いで、カイは槍を振り回した。山賊に槍が刺さったままの状態で。
勢い良く突っ込んできた山賊に避ける事は叶わず、太めに作られた槍の
そのまま吹っ飛んで大きな木の幹に頭をぶつけた山賊は、もう起き上がって来る事は無かった––––。
「一人目を突く時に力を入れ過ぎてしまったな」
「相変わらずの馬鹿力め…」
危なげない戦いでも次回に向けての反省をするカイ。アベイルは元々カイの腕力を知っているが、以前より力強くなっているように見えた。
そしてカイの無双ぶりを見て、赤髪の盗賊・ジュリオは開いた口が塞がらなかった。
「す、凄ぇ!あんた達…本当に何者なんだ⁈」
「正義の味方、は格好つけ過ぎだったけど–––––通りすがりの旅の者で間違いないよ。今僕たちはミトに向かっている途中でね」
「ミトに…?お、お願いだ!俺とレーナさんも一緒に連れて行ってくれ!」
「–––––その話は後にしよう。まずはあの男、ナムールをどうにかしないといけない」
マリウスは対峙したままのオズマとナムールに目を向ける。慌ててジュリオも二人に視線を向けたが、思わず唾をゴクリと飲みこんだ。
凄腕の実力者同士の立ち合い––––一瞬の隙が命取りになりかねない、張り詰めた空気が立ち込めていた。お互いにタイミングを探っている…勝負は既に始まっているのだ。
そんな緊迫した雰囲気の中で、オズマはナムールに話しかけた。
「ナムールと言ったか?何故山賊などに味方している?」
「ふん…これから死んで行く者に話す
初めてナムールが口を開いたかと思うと、地を蹴りオズマへと向かっていた。
(–––––––速い!)
キィンッ––––––––!
オズマはなんとか反応したが、鋼の剣で相手の
ナムールはそこから嵐のような斬撃を繰り広げるが、オズマもなんとかついて行く。しかし防御で手一杯となってしまい、ナムールに対しての反撃の糸口を掴めない状態であった。
「な、なんでオズマがあんなに一方的に攻められてるんだ⁈」
「あんなに速い攻撃は見たことも無いな…」
アベイルとカイは心配そうにオズマの姿を見守っている。一方マリウスは二人の戦いを冷静に分析していた。
(確かにナムールの動きは尋常じゃなく速い…それでもオズマさんが本気を出せばついて行けるはず。という事は今二人の差になっている要素は–––––武器だ)
なんとか怒涛の攻撃を防いでいるオズマも、ナムールの剣が特殊な物である事に気付いていた。
(こいつの剣…鋼の剣と何合も打ち合ってるにも関わらず、
ギィンッ–––––––!
「むっ…!」
オズマはナムールの剣を受け止めた直後、初めて反撃に出た。
「貴様…やるな」
「そいつはどうも」
オズマは更に力を込めて自身に有利な体制を作ろうとする。しかしその力を利用され、フッとナムールが剣を引いた事で思わず体制を崩されてしまう。
しかしナムールは追撃を行わず、オズマから距離を取った。その隙に体制を立て直すオズマだったが、突然背中にゾワリとした悪寒に襲われすぐに身構える。
それは目の前の長髪の剣士から放たれる、今までとは桁違いの殺気によるものであった。百戦錬磨のオズマでさえ、一瞬怖気付く程である。
「なかなか大した腕だが…ここまでだ。冥土の土産に見せてやろう––––この“キルソード”の真の力を」
圧迫された空気の中でオズマとナムール以外は固唾を飲んで見守るだけで、身動きすら取れなかった。ただ一人を除いて–––––。
「これ以上はやめて––––––––!」
両腕を大きく開き、オズマを守るようにして少女は立つ。
「姫様…」
その後ろ姿は、昔フォーダに助けられた時と全く変わっていなかった–––––。
〜第三章第五話に続く〜
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[あとがき]
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!二人の戦いが思ったより長くなったので戦闘MAP-3も次回公開予定です。
もし物語が面白かった・続きが気になるという方は♡や⭐︎と作品・作者のフォロー、また感想をいただけるとありがたいです( *・ω・)*_ _))
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