第12話『月詠命』

 私の頭の中で、誰かが囁く。


「あやつが危ない」


 なんでそう思うの?


「神だからじゃ。それ以上でも以下でもない」


 …信じて、いいの?


「信じるしかなかろう。現にあやつはまだ見張りから帰っておらぬのじゃから」


 …わかった。


 けど、私は戦えない。


「大丈夫じゃ、妾に任せよ。何故なら妾は…」


 とそこで白い髪の着物を着た少女は一息置く。


 そして真名を開示する。


「日本神話が一柱、月ノ神・月詠命じゃからな」


 ◈◈◈◈◈


「!」


 今、あちら側から何か…殺気を感じた。


 何!?何があるっていうの!


 …まさか、『神具』が覚醒した?


 いや、本来の世界線ならまだまだ先のはず。

 なら…何故?


 ◈◈◈◈◈


「…」


 俺は、ここで死ぬと思っていた。


 あの時…死ねなかったツケを払う時がきたのだと思った、だがどうやら俺はまだ死ねないらしい。


「ルナ…」


 ルナが『実の母親』より受け継いだ『神具』の内の一つが覚醒したらしい。


「はは…」


 そうか、もう直…ルナに言わないといけないのか。


 ルナ、その実の母親…。


 東の姫君…『ヨハネ・L・サンタマリア』のことを。


 ◈◈◈◈◈


 体に活力が戻ってくる気がする。


 怪我ももう痛くない。


 それに、今ならどんなことだってできそうだ。


「…お前か?アルを、殺そうとしたのは」


 私がしばらく歩いてあると女の人がこちらを睨みつけて立っていた。


「…あなたが、ルナね?」


「そうだけど?それより…」


 と私は流れるように女の人のすぐ前に移動しながら答える。


「アルはどこ?」


 ニコッと私が女の人に聞くと知らないわ、と言ったので体に触り、ある言葉を唱える。


「月ノ光ヲ持ッテ命ヲ啜ウ」


 すると女の人は一気にしわくちゃになった。


「あは♡ちゃんと答えないからいけないんだよ?」


 と私は倒れた女の人の耳に甘い声で囁いた。

「あ…あ、わたくし…はクトゥ…ル」


「うるさいなぁ☆」


 私は言葉を遮るように女の人の口に片足を当てた。


「アルはどこ♡」


 答えてくれない。


「答えてよ♡じゃないと今度は…」


 と女の人の腕を掴み、引っ張る。


 すると腐っていたのかすぐ身体からとれた。


「こうやってぇ…解体しちゃうよ☆」


 そう、こいつは私のアルを傷つけたんだ。


 殺そうとしたんだ。


 だから、こいつは殺さないと。


 じゃないと、アルが死んじゃうから。


 アルは誰にも傷つけさせない。


「…様!」


 私の、愛しい人を。


「ご主人様!」


 ◈◈◈◈◈


 …あれ?私、何してたんだっけ?


 えっと…アルが危ないから、女の人を…。


「うぐっ」


 さっきまで、私が何をしていたのか。


 一瞬で思い出した。


「っはぁ…ぼへ」


 吐きそうな、それほどまでに私は人としての理を…。


 なんなの?私、何を…!


「大丈夫か、マスター」


「…白炎、それにメイ…」


 振り向くとそこにはメイと白炎が立っていた。


「私、わた…しっ」


 私は、人としての道を一歩踏み外してしまった。


 アルを助けたい、守りたいの一心で…人としての理性を…。


「あれ?女の人は?」


「あれ?…いなくなって、ますね」


「…」


 なんだったんだろうか、私は何故…あんなことを。


 そして、あの女の人は誰だったのだろうか。


 ◈◈◈◈◈


「くそっ!あんな小娘に…っ」


 わたくし、イタクァがあんな失態するはずがないのに!


 なんなんですの、あの女…ルナとかいう小娘は!


「あの小娘は我らが始祖にして神、ラヴクラフト様の一人娘だ」


「ッ!」


 振り向くとそこにはわたくしが一番いけ好かない奴、そしてこの世界で一番関わりたくないと思っているクトゥルフの一柱…アフーム=ザーが立っていた。


「なんの用?」


「いや、ですから…あの小娘、ルナ・L・サンタマリアは我らが始祖にして神、ラヴクラフト様の一人娘だと言ったのです」


「…あぁ、東の姫君に産ませようとして失敗したという…。なんでそのルナが生きてんだよ」


「それはおそらくは『反魂術』でしょう」


 反魂術…人の魂を己の身体に入れ替えることのできる禁術か。


「じゃあ何故、東の姫君の時より身体が小さいんだ」


「それは魂の形に身体を合わせたのでしょう」


 そんなことできる人間がいるのか?


 禁術は使用後、発動するとその使用者の命を奪う。


 しかも禁術は詠唱後、発動まで他の魔術を詠唱することはできない。


 よって、他の魔術と並行して使用することなどできないに等しいのだ。


「だが、東の姫君はできた…か」


「えぇ。あの嬢さんはそれぐらいやってのけるでしょう」


 根拠は?と聞こうとするとアフーム=ザーは読心していたのか続けて

「東の姫君は、この新世界史において…ラヴクラフト様に続く旧世界の生き残りですから」


 ◈◈◈◈◈


 わたしたちはあの後、領主様の所に行き、白炎様が半分脅すことで落岩をどかしてもらいました。


 そしてその後一週間、わたしたちはご主人様のメンタルケアや移動手段の確保の為にメルタタウンで過ごしました。


 少しずつご主人様も元気になってきたので白炎様、アル様と話し合って明日、コハトへ出発することになりました。


「アル様」


「…なんだ?」


 わたしはその日の夜、外で夜風に当たっていたアル様にあることを聞くために覚悟を決め、あることを言うことにしました。


「…何か、ご主人様について隠してませんか?」


 あの時、ご主人様が初めて文字を書いた…と聞いた時から確信はしていました。


 クラン結成の時、旧ノ倭国文字をご主人様が書いた時はまだこの文字使えるんだ…と思っていたのですが違いました。


 この一週間の間に「月下竜団」について調べると文字は『新倭ノ国文字』に変わっていたのです。


 本来なら旧文字表記のはずなのだが新文字に変わっている、要するにアル様は…。


「なにか、あったんですか…?後について」


「…」


 まぁ話したくないこともあるでしょうし、ここは去りますか…と私が帰ろうとするとアル様が

「いつか、話す…ルナの、両親のことを」


 その言葉は妙に重く感じました。


 なにか、とても辛そうに見えて…アル様が、ふらっとそのうち消えてしまいそうな。


 そんな、感じがしました。


 ◈◈◈◈◈


 星歴10017年8月3日午前9時01分、ルナ一行「月下竜団」・メルタタウン出発。


 目指すは港町『コハト』


 東の大陸・魔法国家へ——。

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