第3話『空に歌えば』

 昨日、アルに言った「自由になりたい」。


 この言葉に嘘はない、けれど本当に私は自由になってもいいのだろうかと常々思う。


 私は義理とはいえ両親が死んだ原因、本来なら12年前のあの日、既にこの世界に生きてはいない人間なのだ。


 それでも自由に生きていいのだろうか、私は生きていいのだろうか。


 死んだ方がよかったんじゃないか。


「…私は…」


 いや、スラム街で一人配達業で稼いでいたあの頃とは違ってアルがいるんだ。


 何故私を探していたのかは分からないけれど、あの人は私が死んだらきっと悲しむ。


 今はただ、生きることだけを考えよう。


 ◈◈◈◈◈


 星歴10017年7月9日午後4時29分、首都直通街道。


 空がもう暁に染まり始めていたので私とアルは馬車を停め、テント張ろうとしていた。


 テントを止める杭が全然刺さらないのでアルに任せ、火を点ける乾いた木の枝を探しに近くにあった林まで歩いているとその手前で一人の老人が倒れているのを発見した。


「…」


 少し動いてるし死んでない、よね?


 とりあえず声をかけよう、と手を伸ばした時、老人がか細い声で


「水、水をくれぇ」


 と乾いた声で呟いたのが聞こえたので腰にかけていたバッグから水筒を取り出し中身をコップに注ぎ老人の口元まで持っていくと、老人はその手に持ち少しずつ飲み始めた。


 よかった、アルからバッグとか色々借りてて。


「ありがとうなぁ嬢ちゃん」


 老人がそう言いながらコップを返してきた。


 私がなんで倒れていたんだろう、と思いながら受け取ると老人は私の感情を読んだのか一息置いてから名乗り始めた。


「ワシは倭ノ国を統べる殿に仕える武士、齊藤影吾郎じゃ。ここで倒れていたのは最西端に在る国からの依頼でりゔぁいあさん?とかいう魔物を狩ってくれとお願いされて向かっている途中、喉が渇いてあそこで力尽きてたんじゃ」


 倭ノ国…、たしかここ、西の大陸の東南に位置する独特の文化を構築している島国だったかな?…というか最西端まで徒歩でいくのは無謀では…。


「あの…最西端まで徒歩で向かうには流石に…、途中の村で馬車を借りるのをオススメしますよ?」


「馬車か…ふむ、人力車はないのかのぉ」


 倭ノ国って馬じゃなくて人で動かしてるの!?


 えぇ…文化の違いって怖い…。


「そうそう、水を恵んでくれたお礼じゃ。受け取ってくれ」


 と私がカルチャーショックを受けていると老人…斎藤影吾郎は腰にかけていた包みを一つ渡してきたので中身を見ていると1年は贅沢できる量の金貨が入っていた。


「いいんですか?」


 流石に怖いので戸惑いつつも聞いてみると


「ええよ、嬢ちゃんは命を救ってくれたんじゃ。そんな金でも感謝しきれない程にな」


「ありがとう…ございます…」


 本当にいいのだろうか、こんな金を受け取って…。


 私は本当に受け取って、いいのだろうか…と複雑な感情を胸に秘めてバッグにしまった。


「…嬢ちゃん、人は死にたくても死ねないものさ」


「え…?」


「じゃあな、嬢ちゃん」


「あ、はい」


 あの言葉には確かな重みを感じたと同時になにか大切なことを思い出しそうな気がして…。


「ルナー、どこだー」


 と考え事をしているとアルが探しにきたので先程の出来後を話し、二人で枝を拾ったあと馬車の所に戻った。


 ◈◈◈◈◈


 遠い遠い、いつかの…誰かの夢を見ていた。


 少女と角を生やした少年がなにかを話していた。


「アルヴヘイム…、私についてきて本当に良かったの…?私、無一文だよ?」


「あぁ、お前は俺の命の恩人だからな。ヨハネ」


「…そっか、じゃあこれからよろしくね」


「ああ、こちらこそ」


 そこで、夢は途切れた。


 ◈◈◈◈◈


 時は少し戻り、首都『カザエラム』にある黒炎のアジト。


「そういえばなんで黒炎様はあの二人がカザエラムにくると思ったのでしょうか」


 細身の身体をした男…タルが片耳にタロットカードの耳飾りをした男…黒炎に問いかける。


「風水と俺の超能力がそう告げているんだよ」


 黒炎は聞かれるのが分かっていたのかニヤッとした後そう答えた。


「風水…華ノ国の占いですか」


「あぁ、俺と白炎…俺の弟はそこの出身だからな。」


 白炎…黒炎様と瓜二つの顔をしていると思ったら弟だったのか、とタルは納得した。


「…でもどうするんですか?その2人を誘拐すると言ってもカザエラムは特に偵察ドローンが飛んでいて犯罪は困難ですよ?」


 そう、ここカザエラムは偵察ドローンが多いので犯罪はよっぽどの事がなければすぐに国に見つかり罰せられる。


「タル、偵察ドローンの性質はわかるよな?」


「はい、カザエラムの偵察ドローンは基本は街中を飛んでいますが犯罪が起こるとその周辺を中心に飛び、犯罪者とその被害者をすぐ特定できるようにドローン搭載のAIが解析をします。その間はその周辺以外の偵察ドローンは数を多く減らし…」


 とまで言うとタルはあっとなにか分かったかのような反応を示した。


「そういうことだ。カザエラムにあの二人が到着したのを確認次第、俺の部下に囮として東地区で犯罪を起こしてもらう」


 東地区と具体的な場所を示したのも風水で彼らがそこには行かないことを見越してだろう。


 とタルが風水すげぇと思っていると白炎が戻ってきた。


「お兄様帰りました」


「お、白炎帰ってきたか。じゃあご飯食べいくか」


 この一週間後——ルナとアルは首都『カザエラム』に到着する。

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