第17話・おっきなスカラベと……ちっちゃなラクダ隊のキャラバン

 セシルがやって来た砂漠は、キラキラと宝石のように砂が輝いている砂漠だった。

 砂漠の所々に、結晶化して突出している宝石の鉱石が見えた。

「綺麗な砂漠……この砂漠のどこに、悩みを思った動物が?」

 セシルがそう思って見回していると、砂漠の丘の向こう側から、巨大な黒い球体が現れた。

 ビルほどの大きさがある球体が近づいてくると、それは甲虫の巨大なスカラベが後ろ脚で転がしているフン玉だとわかった。


 黒い球体を転がしてきた甲虫が、セシルの近くで止まる。

 スカラベフンコロガシが、軽くタメ息を漏らしてセシルに言った。

「あなたが、来るのを待ってました……セシル・リデル、あたしの悩みを聞いてくれますか?」

「話してみて、誰かに話すだけでも悩みはスッキリするから」


 メスのスカラベが光沢のある体で、話しはじめた。

「あたしは、小さい頃からこの球体を転がし続けてきました……蟲仲間から『汚い』『ムダな努力を』と、罵られても耐えて続けて球体と一緒に成長してきました……あたしは、なんのために黒い球体を転がしているのでしょう? 転がすコトに意味があるのでしょうか? いつ終わるのでしょうか?」


 セシルが言った。

「やってきたコトは、ムダじゃないと思う……こんなに大きな球体を作ったんだから」

「じゃあ、いつ終わるんですか? あたしの努力は報われるんですか?」


「それは、わからない……努力が必ずしも結果に結びつくとは限らない、でも確実に筋力についている」

 セシルは、黒い球体の表面にはヒビが走るのを見た。

 ヒビを押し上げて、スカラベの子供たちが出てきた。

「ほら、結果が現れた……子供が生まれた」

「あたしの子供が……可愛い」


 セシルは、スカラベ親子に別れを告げて砂漠の奥へと進む。

 オアシスがある場所まで来た時──休憩している、小さなラクダのキャラバン隊と出会った。

 小指ほどの大きさのラクダと、小人が休憩している場所で小人キャラバンがセシルに嘆く。

「この砂漠はどこまで続いているんだ……ぜんぜん、砂漠から抜け出せない」

 少し考えてから、セシルが答える。


「目的地が見えないなら、この場所を目的地にしちゃったら……小人の仲間を呼び寄せて町を作っちゃったら、どうかな? 最初に決めた目的地に固執しないで、臨機応変に変えたっていいんだから」

「そうか、ありがとう……このオアシスを目的地にして、町を作るよ……やっと、我々の旅が終わった」

「良かったね」


 セシル・リデルはホウキに股がって、砂漠から次の森林地帯へと向かった。


  ◆◇◆◇◆◇


 広葉樹と針葉樹が混在する不思議な森──南国の鳥の鳴き声が森に響き渡る。

 セシルがジャングル密林の中を蚊に刺されながら歩いていると、クチビシが大きな等身サイズの巨嘴鳥きょしちょうのオオハシと、なぜか巨大なシロナガスクジラが親しげに会話をしていた。


 セシルが近づくと、陸上生活に適応した四脚のシロナガスクジラが、セシルに挨拶をしてきた。

「こんにちは、こんなジャングルの中になんの用だい?」

「動物さんの悩みを解決しているの」

「そうか、残念ながらこのジャングルには、悩む動物はいない……お引き取り願おうか」


 オオハシも言った。

「悩みが無いから動物たちは、なにも考えないで幸せに暮らしている……昨日も今日も明日も、何も変わらずに」


 セシルは陸上クジラに訊ねてみた。

「あなたは、どうして海に帰らないんですか?」

「海? あぁ、先祖が津波で流されてきたって話していたアレか、必要ないね……手足が生えて楽しく陸上で生活している……わたしたちに、過去も現在も未来もない」

「それって、幸福なんですか? 進歩が無いコトが?」

 オオハシがセシルの質問に答える。


「わたしたちは、バカみたいな冒険をしない……冒険をしないから失敗もない……それでいいじゃないか」

「はぁ?」


 セシルは、これ以上何を言ってもムダだと悟って、密林から去った。

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