第18話・人間だって動物だ……今は人間の方が動物っぽい〔しゃべる不思議動物たちの悩み章・ラスト〕

 草原、海洋、砂漠、密林とホウキで走って来たセシルは、元の中心点にもどってきた。

 少し大人に成長した、ヤシガニの子供が言った。

「お疲れさま……セシル・リデル」

「これで、あたしは元の世界に帰れるのね」


「帰る? どうして?」

「どうしてって……それは」

 セシルが答えを見つける前に、ジャンプしたヤシガニはセシルの頭の上で、パチンッと何かを切った。

 首をかしげるセシル・リデル。

「アレ? あたし何を考えていたんだっけ?」

 セシルの答えの記憶を奪ったヤシガニが言った。

「セシルは、足元の魔法円世界の悩みを解決するために来たんだよ……それを、忘れちゃいけないよ」

「そうだった……この円の中にいる動物の悩みを解決するために、不思議な世界に来たんだった……どうして、忘れていたんだろう?」

「行ってセシル……その魔法円の中の世界は広いよ」


 セシル・リデルはホウキに股がってジャンプすると、頭から縁に文字が描かれた魔法円の中に飛び込んでいった。


  ★☆★☆★☆


 セシルは地面から、飛び出した。

 セシルが出てきた場所は、現実世界の町の横断歩道の真ん中だった。

 いきなり、赤信号で走って来た自動車がクラクションを鳴らす。

 慌てて歩道の茂みに逃げ込むセシル・リデル。

 赤信号で突っ込んできた自動車が走り去り、運転席側の窓が開いて男性の声で。

「バカヤロウ! 死にてぇか!」

 そう、動物のように怒鳴る声が聞こえた。

 戸惑いながら、セシルは周囲を見回す。

 普通の世界だった、人々の悩みが渦巻いている世界だった。

 頭を抱えたセシルが、歩道にしゃがみ込む。


「ムリ! こんな悩みや不満や不安がいっぱいの世界で、動物に近くなってきている、人間の悩みをすべて解決するなんてムリ! あたしにはムリ!」


 空に旅客機が飛んでいく、セシル・リデルのしゃがんだ足元にポッカリと黒い穴が開いて、セシルは穴の中に落ちた。


  ☆★☆★☆★


 目を開けると、セシルは不思議な世界の、元の魔法円の中に膝座りしていた。

 セシルの近くに、いつの間に来ていたのか、天使の翼を生やした哲学カメが背中にヤシガニを乗せていた。

 哲学カメが言った。


「セシル・リデルは、また一つ気づいた……世界中のすべての人間の悩みを解決するコトなど、一人の人間の力ではムリだというコトに気づいた……結局、解決できる悩みは自分自身の悩みだけ、自分で決めて解決していける悩みだけ……儂もセシル師匠に教えられて、少しばかり賢くなった……もう帰りなさい」


 逆さ扉が空間に出現する。

 涙を手の甲で拭ったセシルが立ち上がって、扉のノブに手をかける。

「じゃあまた……来るから、セシル・リデルにとって不思議が普通、普通が不思議な世界は、本当の意味での故郷だから」

 そう微笑んで、セシル・リデルは扉をあけた。

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セシル・リデルの黄金時代の物語 楠本恵士 @67853-_-

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