第4話 ー 袋に囚われる町
潮見町に、異変がじわじわと広がっていった。
川辺に置かれた水桶、庭先の溜まり水、屋根から滴る雨だれさえも、ふくらんだ袋のように見えるのだと、住民たちは口々に語り始めた。
「昨夜、洗面器の水が……膨らんで……子どもの顔が映って……」
「井戸だけじゃない、町じゅうの水が……」
不安は瞬く間に広がり、人々は水を避け、桶をひっくり返し、井戸に蓋をした。
だが水は消せない。雨は降り、海は寄せ、川は流れる。
町そのものが水の巾着に包まれ、ひとつの巨大な袋と化しつつあった。
遼は嶋崎老人に導かれ、町外れの古い祠に足を運んだ。
そこには、かつて水巾着を封じたという巫女の木像が祀られていた。
像の胸元には裂け目があり、中から乾いた藻がはみ出していた。
「この祠こそ、袋の口だ。ここを縛ることで、あの化け物を眠らせてきた。だが……縛りが緩んでいる。」
老人の声は、まるで自らの喉を締め上げるように掠れていた。
「もし祠の封が完全に解ければ、町は一夜で呑まれる。人も家も、歴史も……何もかも水の袋に溶ける。」
遼は息を詰めた。
そのとき、祠の木像が小さく軋んだ。
木目の隙間から、しずくが零れ落ちる。
それはただの水ではなく、ぬるりとした感触を持ち、落ちた地面に円を描くように広がった。
遼の目の前で、その水は袋のようにふくらみ、まるで生き物のように鼓動していた。
「――遼……」
そこから響いたのは、間違いなく遼自身の声だった。
水巾着は、彼を名指しで呼び始めたのだ。
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