第4話 朝の声

三日目の朝、嵐は唐突に過ぎ去った。


ふっと意識が浮上し、ゆっくりと目を開ける。あれほど私を苦しめていた熱が、嘘のように引いていた。体の節々の痛みはまだ残っているけれど、頭は驚くほどすっきりしている。窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえてきた。


部屋の中は、朝の柔らかい光に満ちていた。カーテンの隙間から差し込む朝光が、一筋の帯となって、床の上を照らしている。その光の中を、小さな埃がきらきらと、スローモーションのように舞っていた。私はしばらく、その光景をただぼんやりと眺めていた。


世界は、何も変わっていないように見えた。鳥は鳴き、光は差し込み、埃は舞う。昨日までと、何も変わらない朝。


けれど、私の中の何かが、決定的に変わってしまったことを、私は静かに悟っていた。


そっと、ドアが開く音がした。母が、お盆に載せたお粥を持って入ってきた。「ハル、目が覚めたのね。気分はどう?」母の声は、ひどく優しかった。私のほうに歩み寄ってくる母の姿を、私はベッドの中からじっと見つめた。


母の体からは、やはり色が見えた。深い悲しみの藍色は、まだ胸のあたりに薄く残っている。でも、それだけではなかった。


母の全身が、温かい光に包まれていた。それは、夜明けの空のような、淡く、そして優しい金色の光だった。一つひとつの粒子が、まるでタンポポの綿毛のように柔らかく、ふわりふわりと宙を漂っている。その光は、私を苦しめたどの色とも違っていた。見ているだけで、凍えていた心がじんわりと温められていくような、不思議な感覚。それは、私を心配する母の愛情の色であり、私が熱から解放されたことへの安堵の色だった。


「おはよう、ハル」


母が微笑む。その声と一緒に、金色の粒子が、しゃぼん玉のようにふわりと私のほうへ飛んできた。それは私の頬に触れると、音もなく弾けて、消えた。けれど、その温かい感触だけは、確かに残った。


初めてだった。色の光に、救われたような気持ちになったのは。


でも、その微かな希望と同時に、心の奥底に、鉛のような問いが静かに生まれた。


この金色の光が見えるということは、これから先も、私はあの絶望的な藍色や、身を焼くような赤色も、見続けていかなければならないということだ。人の心の、誰も触れることのできない部分を、その人が望むと望まざるとにかかわらず、私は一方的に覗き見ることしかできない。


見えすぎることは、果たして祝福なのだろうか。それとも、終わりのない呪いなのだろうか。


答えは、どこにもなかった。ただ、朝光に舞う埃の向こう側で、金色と藍色の粒子を同時に放ちながら微笑む母の姿が、この日から始まった私の新しい世界の、すべての始まりを告げていた。

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