第4話 慟哭

 翌日、愛果は乃亜に呼び出された。

 自転車で井沼木工所へと向かう途中、ジャージ姿の七七子を見つけた。愛果は気づかれないように、離れた場所で止まって様子を窺う。七七子は高校へ向かっているようだった。

 休校中なのに、なぜ? 部活動も休止しているので、トレーニングルームも使えないはずだった。愛果は不思議に思い、自転車を押してその後をつけた。

 閉じられている正門を軽々と乗り越え、七七子は高校の敷地に侵入した。そのまま迷いなく歩み、なぜか花壇のなかで立ち止まった。しゃがんで何かをしているようだったが、柵が邪魔で愛果からははっきり見えなかった。

 その時、七七子の顔が愛果の方を向いた。すぐに身を隠したので、愛果だとはバレていないはずだが、絶対の確証はない。自転車に乗り、急いでその場を離れた。

 井沼木工所に着くと、そこにはソファに座る乃亜の他に、見慣れぬ人たちがいた。

 私服だが恐らく全員が同じ高校の生徒なのだろう。男子生徒ばかりが四人、みな体格が良かった。そのうち一人、坊主頭の肩幅の広い生徒は、いつも翔がいるはずの、乃亜のすぐ近くに立っていた。愛果はその男子生徒が先日七七子を襲っていたメンバーの一人だと気が付いた。

 物々しい雰囲気に、愛果は事務所の土間から先に進むのを躊躇った。


「乃亜ちゃん、どうしたの?」


 乃亜は兵隊を従えた女王のような雰囲気でソファに座っていた。


「愛果ちゃん、あの女、やっぱり危険だよ」

「あの女って、洞口さんのこと?」

「そう、その洞口七七子。一昨日、翔が後をつけられたんだって。その時はどうにか撒いたらしいけど、ここを見つけられるのも時間の問題だよ」

「それじゃあ、どうするの? 別の隠れ家でも探す?」


 乃亜は呆れたような顔で愛果を見た。


「そんなの、追いかけっこになるだけじゃん。いつまでも逃げ続けるなんてダルいでしょ。それにうち、ここ結構気に入ってるから出ていきたくない」

「……そういえば、翔くんは?」

「あいつなら死んだよ」


 乃亜は事もなげにそう言った。


「……そう、なんだ」


 たぶんそうだろうと愛果は思っていた。最近の翔の様子を見ていると、先が短いのは目に見えていた。

 愛果は翔のことはよく知らない。ただ、彼もまた、愛果や莉緒のように、誰ともわかち合えない孤独に耐えかねて「夢の薬」を使い、命を落としたのだ。それを思うと、胸が痛んだ。

 乃亜はこれだけ翔に世話になったのに何も感じていないようだ。愛果は乃亜の態度に心底嫌悪感を抱いた。

 この木工所を翔が乃亜に使わせていることは翔の家族は知らないはずだが、そもそもここに来る人はいないので、翔がいなくても無断で使い続けることは恐らく可能だった。


「そんなことより、その七七子だよ。愛果ちゃん、あいつのこと呼び出せる?」

「たぶん、できると思うけど」


 七七子の直接の連絡先は知らない。ただ、ひかりに聞けば、なんらかの連絡手段は入手できるだろう。


「なら、呼び出して」

「会ってどうするの?」

「殺すんだよ、あいつを」


 愛果は絶句し、瞬きも忘れて乃亜を見た。それは全く予想だにしない言葉だった。


「なに、その顔。ウケる」


 乃亜はケラケラ笑っている。周囲に立つ男子生徒たちは誰一人笑わず、一様に能面のような顔をしている。

 冗談、ということなのだろうか。

 乃亜が愛果の足元に何かを投げた。硬い金属とコンクリートが接触する冷たい音が響く。

 刃渡り十五センチほどのナイフが、そこにはあった。


「それであいつを刺してよ」


 乃亜の目には、そのナイフと同じ怪しく危険な輝きがあった。


「そんな、そこまでするの……?」

「するよ。だって邪魔だもん」

「でも、あの場所さえわからなければ大丈夫でしょ? 洞口さんだってあそこまではたどり着けないよ」

「あいつは普通じゃない。いつかきっとあそこを突き止める。学校の先生とか、警察とか、そんな奴らに知られたってどうってことないけど、あいつだけは駄目。駄目だって、『彼』が言ってる」

「『彼』……」


 あの不気味な腕と、乃亜は明確に会話ができるようだった。


「でも、乃亜ちゃん。もうあなたの目的は済んだんじゃないの?」

「目的? うちの?」

「そうだよ。自分をイジメた莉緒ちゃんに復讐するのが目的だったんでしょう? それだったら、もう十分じゃん。莉緒ちゃんは死んじゃったんだよ。もうさ、十分でしょ……」


 話しているうちに愛果はまた涙をこぼしそうになり、堪えた。

 乃亜はソファに足を組んで座りながら、愛果を観察するように見ていた。


「莉緒ちゃんへの復讐ねえ。愛果ちゃん、なかなか鋭いね。薬で気持ちよくなることしか考えてないかと思ってた。でもね、ちょっと違うよ。うちの目的は莉緒ちゃんへの復讐じゃないよ」

「じゃあ、なんなの」

「うちはさぁ、学校をめちゃくちゃにしたかったんだよ。うちは、ずっと、ずっと、学校ってものに馴染めなかった。クソみたいな場所に、クソみたいな人間が集まってるだけのくせに、みんな自分が正しい側だと思って、うちのことをおかしい女みたいに扱う。だからめちゃくちゃにしてやるんだよ。お前らみんな間違ってるし、お前らみんな弱いんだって、思い知らせてやるんだ。だからまだまだ、うちは『夢の薬』を売るんだよ。売って売って、売りまくってやる」


 乃亜は立ち上がり、愛果に近寄るとナイフを拾って差し出した。


「ほら、受け取って」

「嫌だ」


 乃亜がナイフを持っていない手で愛果の頬を叩いた。人生で初めて顔を叩かれた愛果は、その衝撃に一瞬頭が真っ白になる。


「今さら、嫌とかないんだよ! もう愛果ちゃんは人殺しだって言ったよね? 莉緒ちゃんに薬を渡したのも、わかってるんだよ。つまり、あいつにとどめを刺したのは愛果ちゃんってことだから。莉緒ちゃんのこと殺しといて、他の人を殺すのは駄目だとか、ダルいこと言うのやめてくれる? マジでウザいから、そういうの」


 愛果はあらゆる反論の言葉を飲み込まざるを得なかった。

 乃亜は愛果の手に無理やりナイフを握らせた。その鋭利な金属は、想像以上に重かった。乃亜は周りに立つ男子生徒たちを指差す。


「こいつらみんな、連れて行っていいから。これだけいればやれるでしょ」


 乃亜の兵隊たちは会話の間、無表情を貫いていた。だが無表情ではあるが、その視線は愛果をしっかりと捕えていた。それが一層不気味さを際立たせていた。

 急に、乃亜が愛果に抱き着いた。乃亜の体は華奢で、真崎のような力強い抱擁ではなかった。


「あいつさえ殺しちゃえば、あとは死ぬまでずっと、好きなだけ『夢の薬』が使えるよ。ね? あれさえあれば、愛果ちゃんはずっと幸せだよ。幸せになろう愛果ちゃん。うちと一緒に幸せになろう」

「……しあわせ?」


 それがどういう意味の言葉なのか、愛果にはもはやわからなくなっていた。

 ふと、乃亜が抱擁を解き、愛果から離れた。乃亜は目を見開き、驚愕の表情で後ずさった。

 その視線は、愛果ではなく、さらに後ろに向けられていた。

 愛果が振り返ると、木工所の作業場に七七子が立っていた。


「なんで、お前がここに」


 乃亜が憎々しげな声を発した。


「この子について来た。なんだか怪しかったから。勘が冴えてたみたいでよかった」


 七七子は涼しい表情で言った。

 あの後、つけて来ていたのか。早く立ち去ることに夢中で全く気が付かなかった。

 乃亜が愛果を睨むが、もうどうしようもない。


「あなた、私に会いたかったんでしょ? ならそんな怖い顔しなくてもいいじゃない」

「お前さあ、うちのこと舐めてる? うちは本気だよ」


 乃亜が合図すると、体格のいい男子生徒たちがぞろぞろ事務所の扉を抜け、作業場の中心に立つ七七子に近づいた。

 七七子は腰につけた大きめのポーチに素早く手を入れ、短い棒のようなものを取り出した。勢いよくその棒を振ると、一瞬で倍以上の長さに伸びる。特殊警棒だ。

 男子生徒の一人に腕を掴まれる寸前、七七子は大きく振りかぶり、その長さ五十センチはある特殊警棒で男子生徒の顔を横向きに叩いた。折れた歯が吹っ飛び、男子生徒はそのまま倒れて気を失った。


「私だって本気だよ。今度は負けないし、必ず怪異の正体を突き止めてやる」


 多人数の男子を目の前にして、七七子は全く怯んでいなかった。横から掴みかかろうとする男子生徒を身軽に躱し、体当たりをして体勢を崩させると、よろめいた背中に思い切り特殊警棒を振り下ろした。鈍い音と共に悲鳴を上げ、男子生徒は倒れて悶絶した。

 立っている男子生徒は、残り二人。

 七七子の身のこなしは軽やかで、力強かった。動くたびに頭の後ろで束ねた黒髪が優雅にたなびいた。

 呆気に取られて目の前の光景を眺めていた愛果の背中を、乃亜が突き飛ばした。その勢いで、愛果も戦場となっている作業場に入ってしまう。


「ボケッとしてないで、早くそのナイフでそいつのこと刺せよ!」


 乃亜がヒステリックに叫んだ。

 愛果は己の手のなかのナイフを見て、それから七七子を見た。七七子は凛とした表情で愛果を見つめた。


「あなたにはそんなことできない。あなたが正しい心を持っていて、そして勇気があることを私は知っている」

「……私は、そんなんじゃないよ」


 愛果は俯き、そう呟いた。

 私は決して正しい人間じゃない。それは自分が一番わかっている。

そういう意味では、七七子よりも乃亜のほうが愛果のことを理解していると言えた。乃亜は愛果の弱さを理解し、取り込み、利用している。

 私は一体、どちらにつけば「幸せ」になれるのだろうか。

 乃亜の新しい側近の坊主頭の男と、もう一人の男子生徒が同時に七七子に襲い掛かった。さすがの七七子も先ほどのように一撃で倒すことはできず、特殊警棒でけん制しながら一進一退の攻防を繰り広げていた。

 動けないでいる愛果の髪を、乃亜が後ろから鷲掴みにして引っ張った。愛果は痛みで抵抗できず、悲鳴を上げることしかできない。


「このグズ! 早く行けって言ってるだろ! 今あいつを殺さないと、もう薬が使えなくなるんだぞ、それでもいいのかよ! 薬がなくなって、生きていけんのかよ!」


 乃亜が愛果の髪を離し、七七子の方へ突き飛ばした。

 髪を思い切り引っ張られた痛みと衝撃で、脳が痺れている。現実がぐらりと、揺れているように感じる。

 乃亜の言う通りだ。もはや、「夢の薬」がなくては生きていけない。

 武器を持っているとはいえ、多勢に無勢で男女の筋力差があるにも関わらず、七七子の方が気づけば優勢になっていた。七七子は素手の相手を容赦なく固い金属の警棒で打ち据えている。男子生徒二人は負傷し、気勢を削がれ距離をとって荒い息を吐いていた。

 七七子のやり方に、愛果は常々疑問を持っていた。あなたたちを救うためとは言うけれど、いつも説明が少なく、そして強引だった。救うべき対象をこのように傷つけることが、本当に正しいのだろうか。

 愛果はナイフを腹の辺りに持ち、その切っ先を七七子に向ける。そしてよろよろと、七七子に近づく。

 七七子が横目で愛果を見た。


「……私たちには、『夢の薬』が必要なの。あれだけが救いなの。あなたにそれを奪う権利はない」

「前にも言ったでしょう。あなたたちは、怪異にその薬が必要だと思わされているだけ。そんなものなくたって、生きていける」

「生きていけないよ。嫌なことばっかりで、苦しいことばっかりで、私たちの人生にはもう、あれしか生きる理由がないんだよ。だから、帰ってよ。私、こんなことしたくない」


 愛果は声を震わせて七七子に訴えたが、七七子はため息を吐き憐れむように愛果を見た。


「だから、そう思わされているだけなんだって。なんでわかんないかな。私が一人で探知して怪異に辿り着けるなら勝手にやるんだけど、この怪異はかなり狡猾で、巧妙に気配を消していてどこにいるのか全くわからない。恐らく、薬を使った直後だけは気配を隠し切れないから、近くにいれば探知できるんだけど、それも運に頼らざるを得ない。普段から、ほんの少しだけど気配を感じるのは、あなたたち二人だけ」


 七七子は愛果と乃亜を指差した。


「きっと、あなたたちは怪異の居場所か、呼び出し方を知ってるんでしょ? もういい加減諦めて、これ以上犠牲者が増える前に私に教えなさい」

「諦める? 『夢の薬』を諦めろって言うの?」

「夢になんて縋らないで、現実を生きなさいって言ってるの」


 七七子の言葉は、愛果のなかでぎりぎり壊れずに持ちこたえていた倫理観を、まるで虫でも踏みつぶすように簡単に破壊した。

 愛果はナイフを構え、七七子に向かって突進した。七七子は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに体を翻し、愛果の攻撃を避けた。愛果は勢い余って、作業場の壁にぶつかってしまう。

 その隙を見て坊主頭の男子生徒が落ちていたハンマーを手に七七子に襲い掛かるが、ハンマーは特殊警棒で叩き落とされ、さらに頸部への一撃を食らい床に倒れて動かなくなった。


「なんでこうなるの? もうわけがわかんない。私、なんか悪いこと言った?」


 そう口にした後、七七子は急に目を見開き、木工所の壁を凝視した。愛果にも、乃亜にも、一人だけ立っている男子生徒にも注意を向けず、何もない薄汚れた壁を見ている。

 いや、そうではない。壁の向こうを見ているのだ。


「……誰かが、また使った」


 七七子はそう言うと、悔しそうな顔で振り返って愛果と乃亜を見つめ、それから木工所の引き戸を開けて駆けて行った。

 愛果は肩から力が抜け、その場にへたり込みそうになったが、その背に乃亜の怒号が飛んだ。


「何してんの? ぐずぐずしてないで早く追いかけろよ!」

「で、でも、もう行っちゃったし……」

「あいつ、たぶん『夢の薬』を使った奴のとこ行ったんだろ? ならチャンスじゃん。薬使った奴を助けようとしてる隙だらけのとこ、背中から刺せばいいじゃん」

「でも……」

「早く行けって!」


 乃亜がそう言うと同時に、愛果自身、そうしなければいけないという焦燥感が胸の奥から湧き上がって来るのを感じていた。

 七七子を刺して殺さなければいけない。そうしなければ、幸せは訪れない。そうしなければ、生きていくことはできない。

 愛果はナイフをリュックに仕舞い、木工所を飛び出した。道に七七子の姿はない。一人残った男子生徒も愛果に続いて木工所を出ると、周囲を伺いながら走って行った。愛果はそれとは別の方向に向かう。

 住宅街を愛果は走った。七七子が飛び出してからすぐに追いかけたのに、その姿は全く見当たらない。やはり足が速い。ただ先ほどの七七子の発言からすると、「夢の薬」を使った人物はそれほど遠くない場所にいるはずだ。つまり井沼木工所の周辺を探していれば、七七子の姿を見つけられる可能性がある。

 見つけ出して、殺す。十分前には考えられなかった決意が、愛果のなかに芽生えていた。もはやそれが愛果自身の意思なのか、乃亜の意思なのか、もしくはまた別の存在の意思なのか、はっきり区別することも難しかった。

 木工所の近辺をくまなく走り、愛果はあるアパートの階段を上っている七七子の姿を見つけた。見ていると、七七子は一つの部屋の前で立ち止まった。ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていないようで、七七子はそのままドアを開けてなかに入って行った。

 愛果もそのアパートに近づく。かなり古いアパートで、建物の壁はくすみ、ところどころにヒビが入っていた。二階に上がる階段は錆びついていて、愛果が一歩上がる度に軋んだ。

 七七子が入った部屋の前で立ち止まる。扉の横には「203号室」と書かれ、その下に住民の表札もあった。

 そこには「真崎」と書かれていた。

 どくんと、愛果の心臓が大きく鼓動した。

 真崎。まさか、真崎先生? いや、そうとは限らない。同じ苗字なだけかもしれない。だけど確か、先生は学校の近くのアパートに住んでいると言っていた。古くて雨漏りがするけど、愛着があると言っていた。

 愛果は強張る指をなんとか動かし、ドアを開けた。スニーカーや革靴が散らばる玄関を通り、靴を脱ぐことも忘れて部屋を進んでいく。

 様々なものが雑然と置かれた狭い部屋の端に、ベッドがあった。七七子はその傍らに立ち、横になる誰かを見つめている。七七子の足元には「夢の薬」の瓶が転がっている。

 愛果はこの部屋の主の顔を見た。骨が浮き出るほど無残に痩せ、肌が赤黒く変色していても、愛果にはそれが誰なのか一目でわかった。

 この世で一番大好きな人を、見間違えるわけがない。

 愛果はよろよろと、横たわる真崎に近づいた。真崎は息をしてはいたが、目に光がなく、明らかに瀕死の様子だった。


「先生」


 声をかけても、返事は返って来ない。

 枕元に、写真立てに入った写真が置かれていた。今より少し若い真崎と、見知らぬ女性が映っている。写真のなかの真崎は、愛果が一度も見たことがない、無邪気で幸せそうな笑顔だった。

 言葉にならない感情が込み上げ、愛果は慟哭した。悲鳴のような、断末魔の叫びのような声を上げ、真崎の細い腕に縋りながら泣いた。

 愛果は心の底から後悔した。乃亜の薬の製造を手伝わなければ、もしかしたらこうはなっていないのではないか。あの時、真崎に問い詰められたあの時、正直に話していれば、こうはなっていないのではないか。

 これが夢であった欲しかった。もうありのままの現実を全て受け入れる。だからこれだけは、夢であって欲しい。しかしそう切望しても、真崎のか細い呼吸音と、骨ばった腕の感触が、これは現実なのだと愛果に突きつけていた。


「また、間に合わなかった。怪異の気配に気づいてから駆けつけても、いつももう遅い。私はずっと間に合ってない。誰一人救えていない」


 七七子が悔しさを抑えきれない声で言った。それから愛果に向かって、深く頭を下げた。


「私の言ったことが気にくわなかったのなら、謝る。ごめん。私、よく人を怒らせるから。でも私は、怪異を早く祓いたいだけなの。だから協力して欲しい。あなたの協力がないと、私一人じゃこの怪異を祓えない」


 愛果は顔を上げ、七七子を見た。七七子はまだ頭を下げている。

 込み上げる嗚咽をどうにか堪えながら、愛果は震える声で「わかった」と呟いた。

 涙で滲む視界の端に、小さな仏壇があった。仏壇に置かれた写真には、枕元の写真と同じ女性が写っている。愛果はその意味に気づき、もう一度、声を上げて泣いた。

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