CD

 廃墟の中を歩いていると、たまに変なものを見つけることもあるわけで。あるとき見つけたのは、苔だらけの平べったい物体だった。真ん中には穴がある。ドーナツにしては薄すぎるし、硬い。そもそも苔がはびこっていて、食える気がしない。

 なんとなく、苔を剥がしてみる。プリズムのように虹色に輝いていた。これ、CDじゃないか? と考える。CDって苔生えるんだ。今までアニメショップ、家電量販店、民家、音楽ショップと、CDがたくさんありそうな廃墟を歩いてきたけど、こんなのは初めてだった。

 珍しいなあ、とかそんなふうに思ってしまったなら、好奇心がわくのは、まあ、自然な流れなわけで。おれはそいつの中身を聞いてみたくなった。しかし、困ったことに再生する媒体がない。だからそのときは諦めて、ずっとその苔だらけだったCDをリュックサックの中にしまっていた。

 そんなことを、かつて県庁あった場所近くの家電量販店の廃墟で思い出した。家電量販店だったなら、たぶん再生する機械があるだろうナー、と探してみる。幸い、電池で動くプレイヤーがあったから、手持ちの充電式の電池を入れてみた。それからリュックサックの奥底に眠っていたCDを入れて、再生ボタンを押した。

 スピーカーからはノイズしか流れなかった。あんなに苔だらけだったわけだし、再生できるわけないか、とおれはため息を吐いた。

「……え…………か……」

 ノイズの底から、音がした。女性の声のように聞こえる。

「……サ、……き……」

 うまく聞き取れないけれど、声音は穏やかで、勝手に愛情を持った言葉だと、おれは思った。それから、おれなんかが聞いてごめんなさい、と思った。彼女の言葉は、きっと、彼女が愛情を向けている相手だけが聞くべきだから。

 おれは停止ボタンを押して、その場をあとにした。廃虚から出て空を見上げれば、いつもどおりの暴力的な青い空がこちらを見下していた。

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